スタジオジブリで、宮崎駿・高畑勲監督らとともに数々の名作を生み出してきたプロデューサー・鈴木敏夫氏。そのプロデューサーとしての足跡やスタジオジブリの知られざる秘密を知ることができる展覧会『鈴木敏夫とジブリ展』が東京に帰ってくる。

  • 7月1日から天王洲で始まる『鈴木敏夫とジブリ展』

鈴木氏とカオナシが登壇

多くの人が訪れた長崎・京都での巡回展を経て、7月1日に東京・天王洲の寺田倉庫B&C HALLにて東京展がはじまる『鈴木敏夫とジブリ展』。名古屋で過ごした少年時代からジブリ作品のプロデュース秘話にいたるまでを、貴重な資料の数々とともに展示する。

  • 鈴木敏夫プロデューサーとカオナシの貴重な2ショット

6月30日に行われた開幕のセレモニーには鈴木氏も登壇。今回の展覧会について、「僕は小さい時からいろんなものをとっておくクセがあったんです。幼稚園の帽子とか。上京する時に父親に言われて全部持ってきました。そしてその後も、折々の自分にとって大事だったものをしまっておいた。それがまさかこんな形でみなさんにご披露することになるとは思いもしませんでした。改めてみると恥ずかしい気持ちですが……でも歳をとるっていいことだなと思います」と話した。

少年時代からの足跡

展示のはじまりは、鈴木氏の少年時代から。

子どもの頃愛読していた漫画や、仕事で忙しかった父親から与えられた四畳半の部屋が再現されている。

  • 第1章「四畳半の原風景~少年時代の思い出」

幼稚園の頃から、父親に買ってもらった月刊誌を1カ月間何度も繰り返し読んでいたという鈴木氏。「友だちがこの部屋に集まって、当時ほかの家庭ではゴミだった漫画をみんなで持ってきて積み上げていった。その経験も、今につながってると思う」と話すように、四畳半の部屋には鈴木少年の“好き”が詰まっている。

  • 友人と持ち寄って集めた月刊誌や週刊誌がびっしり

ちなみに、中学生の時に夢中になったというイギリス人女優ヘイリー・ミルズにファンレターを書いたそうだが、当然返事はなかった。ところが、その後ディズニーの関係者と会った際にこの話をしたところ、40年の時を経て彼女からファンレターをもらえたのだそう。

  • 中学生の時大ファンだったというイギリス人女優ヘイリー・ミルズ

第2章では、慶応義塾大学合格後、上京し、大学生活に影響を受けた本や映画を紹介。大学紛争の名で、のちの編集者やプロデューサーの仕事へとつながっていく知識をいかに吸収していたかを知ることができる。

  • 青春時代は寺山修司の影響を大きく受けた

当時のスケジュール帳には、その後入社する徳間書店の面接の予定が。

  • 右上に「徳間面接」の文字

ちなみに、入り口で受け取った音声ガイダンスからは、コーナーごとに鈴木氏が大ファンである講談師・神田伯山氏の解説が流れる。展示にも書かれていない秘話や、時折登場する滝沢カレンとの掛け合いも同展を一層楽しませてくれる。

徳間書店からスタジオジブリ設立へ

さて、第3章では、大学卒業後徳間書店に就職した鈴木氏の仕事の数々を展示。実は入社後、週刊誌『アサヒ芸能』で雑誌記者をしていた鈴木氏。当時の担当紙面も見ることができる。

  • 徳間書店入社後、週刊誌『アサヒ芸能』で書いた記事

その後、創刊から関わった月刊誌『アニメージュ』での雑誌作りのこだわりや、編集長としての仕事術を膨大な資料とともに紹介している。

  • アニメージュ編集長になってからの仕事ぶり

アニメージュ編集長になったときの「10の教え」には、「みんなを楽にしてやれ」という言葉がいくつも見られ、リーダーとしての鈴木氏の考え方も垣間見ることができる。

  • 「アニメージュ編集長になったときの鈴木さんの10の教え」

そしてここで出会ったキーパーソンが高畑勲・宮崎駿監督だ。『風の谷のナウシカ』の制作秘話を経て、展示はスタジオジブリの設立へと移っていく。

  • アニメージュでの高畑勲・宮崎駿監督との出会い

第4章では、スタジオジブリの設立秘話、そして『天空の城ラピュタ』から現在まで、鈴木氏がどのように作品と関り、時代を読んだ独自の宣伝手法で作品をヒットさせていったかを辿る。

  • いよいよスタジオジブリ設立へ

大ヒットのきっかけとなったポスターやコピーの製作過程、貴重な資料も一挙に展示。作品の広告展開やプロデューサーとしてこなした雑務など、「プロデューサーとしての鈴木敏夫」の仕事ぶりを奥深くまで知ることができる。

  • 鈴木氏が手掛けたポスターや広告の数々

  • プロデューサーとしての「雑務」などなかなか知ることができない仕事も

ジブリに専念するため徳間書店を退職した際の退職願は、まさにここでしか見られない1枚だろう。

  • 徳間書店に出した退職願

またここでは、『天空の城ラピュタ』の巨大カラーや『となりのトトロ』のフォトスポットもみどころだ。

  • ラピュタの巨大カラー

  • トトロのフォトスポット

そして「プロデューサーからクリエイターへ」と題した第5章は現在へ。『かぐや姫の物語』の題字など、味わいある文字を書くことでも知られる鈴木氏は、書家、作家としての活動を始める。数々の書のほか、らくがきの似顔絵など、多彩な表現を楽しむことができる。

  • 第5章「プロデューサーからクリエイターへ~書家、作家としての多彩な才能~」

8,800冊圧巻の“本棚”

今回の展示で鈴木氏が唯一要望したのが、「自分の持っている本を一か所で展示してほしい」だという。第6章「鈴木敏夫の本棚」では、鈴木氏が選んだ8,800冊を展示。

  • 真ん中で本を読んでいるのは……

鈴木氏の隠れ家である「れんが屋」をイメージした空間で、壁紙は大好きだというウィリアム・モリスで彩られている。第1章の四畳半の部屋を彷彿とさせる、鈴木氏の“好き”が詰まったコーナーだ。

  • 鈴木氏もこのコーナーについて「理想の部屋」だと語った

ちなみに、鈴木氏はなんでも読む「乱読派」だが、本棚にベストセラーがないと人に指摘されたことがあるのだそう。宮崎・高畑監督との読書の違いについてセレモニーで聞かれると、「宮崎さんは本当に独特で、児童書をずっと読んできた。月に4~10冊くらい。その一方で評論を読むこともあるんです。高畑さんは時代に敏感な人で、なぜ今こんなことが起きているのか、それを解明するために何冊も本を読んでいた。いろんな人の意見を取り入れながら自分を作り上げていましたね」と話した。

  • 漫画から哲学書まで、幅広いジャンルの本が並ぶ

東京展だけの「油屋別館」

東京展の大きな見どころのひとつが、初公開となる「油屋別館」だ。

  • 迫力満点の巨大湯婆婆さま

真っ赤な提灯に湯婆婆の大きな顔(恋愛おみくじ)、大湯に入る神様(冷やし足湯)など、まるで『千と千尋の神隠し』の世界に迷い込んだかのような巨大空間となっている。

  • 湯婆婆の恋愛おみくじは大凶なのでご注意を……

  • 冷やし足湯は特典付きチケットが必要

物販コーナーでは、湯婆婆扇子や箸置きセットなど、オリジナルグッズも多数販売している。

  • オリジナルグッズも並ぶ物販


展示を見た人からは、「よくこんなものとっておきましたね」と言われたという鈴木氏。それほど多くの、鈴木氏やジブリを形作ってきた品々や貴重な資料の数々が間近で見られる、充実した内容となっている。

ジブリファンには、この夏必見の展覧会だ。

  • この席では食事しない方がいいかもしれません……

(c)TS (c)Studio Ghibli

■information
『鈴木敏夫とジブリ展』東京展
・会場:東京・天王洲 寺田倉庫 B&C HALL/E HALL
・アクセス:天王洲アイル駅(りんかい線B出口より徒歩4分/東京モノレール羽田空港線中央口より徒歩5分)
・時間:10~20時 ※最終入場は19:30まで
※定時(1時間)ごとの日時指定、各回開始時間1時間後まで入場可、最終回のみ閉館の30 分前が最終入場
・通常チケット:一般1,800円/中・高校生1,500円/小学生1,100円
・特典付きチケット:一般2,600円/中・高校生2,300円/小学生1,900円
※チケットはローチケ、日テレゼロチケで購入可能。