ルノーの小型車「ルーテシア」に新たな選択肢が登場した。輸入コンパクトハッチバックで唯一のフルハイブリッド車となる「ルーテシア E-TECH ハイブリッド」だ。ハイブリッドの小型車といえば日本のお家芸だが、フランスから来た新顔の実力は? 試乗してきた。
F1由来の独自システムを採用
ルーテシアといえば最近、街中で見かけることが多くなってきたルノーのBセグハッチバックだ。輸入Bセグハッチバックの市場は割と大きく、ルーテシアのほかBMW「MINI」「i3」、フォルクスワーゲン「ポロ」、プジョー「208」、アウディ「A1」、シトロエン「C3」など主要7モデルで年間約3万台が売れている。動力別の内訳(2021年)でみるとガソリンが83.7%、ディーゼルはMINIのみで14.3%、EV(電気自動車)/PHV(プラグインハイブリッド車)は208とi3でわずか1.7%だ。
環境面でEVを選びたいけれど、少し早すぎる。燃費面ではディーゼルを選択したいが、いろいろと規制もあって躊躇してしまう。そんな状況下で、電気とディーゼルのいいところをうまく取り込んだフルハイブリッドモデルを投入し、マーケットを変えていきたいというのがルノーの目論見だ。武器は独自技術を活用したフルハイブリッドシステム「E-TECH」。日本ではSUVタイプの「アルカナ」がE-TECH搭載モデル第1弾となり、今回のルーテシアが2台目だ。
ルノーは日産自動車および三菱自動車工業とアライアンス関係にあるが、E-TECHハイブリッドは日本勢から融通してもらったシステムではない。ルノーがモータスポーツのF1で培ったノウハウを活用した、独自開発の部分が多い自慢のハイブリッドなのだ。
パワートレインはアルカナが搭載しているものとほぼ同じ。最高出力67kW(91PS)、最大トルク144Nmを発生する1.6L直列4気筒自然吸気エンジンに、「E-モーター」と呼ぶ36kW(49PS)/205Nmの走行用メインモーターと「HSG」(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)と呼ぶ15kW(20PS)/50Nmのサブモーターを組み合わせる。リアに搭載する駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は1.2kWh(250V)。総合出力はガソリン1.3Lターボモデルより9PSアップの140PS(参考値)で、車重は110kg増しの1,310kgとなっている。
特徴的なのは、F1などのモータースポーツで使用する「ドッグクラッチ」をトランスミッションとして採用している点だ。一般的なクラッチやシンクロナイザーを省くことで軽量・コンパクトに作れるだけでなく、ギアとギアが直接噛み合うことで効率に優れたパワー伝達を行うことができる。ドッグクラッチは通常、噛み合う際に大きなショックを伴うが、ルーテシアのシステムでは互いのギアの回転数合わせをモーターで行うことでその心配を払拭。ギアはモーター側に2速、エンジン側に4速あり、2×4の8速と、2速、4速のそれぞれを使う6速の合計14速となる。そのうち2つは同じギア比となるため、実際は12通りの組み合わせになるそうだ。
軽くて速い!
ガソリンモデルとの見た目の違いは、エクステリアではリアゲート右下に「E-TECH」ロゴが入っていて、バンパー下の奥まったところにある排気口の位置が変わっている程度で、ほとんど見分けがつかない。乗り込んでみるとコックピットのメーターはHV専用に。デフォルトでは中央に円形のEVメーターがあり、その左はバッテリーの残量、右側に燃料計というレイアウトだ。また、シフトレバーのベース部分にもE-TECHのロゴが小さく書き込まれている。
走り出してみると、発進から30~40km/hあたりまではモーター駆動だけになるので、とってもスムーズ。それを越えた80km/hあたりまではエンジンの駆動がプラスされて、アクセルの踏み込み量にダイレクトに反応する。結構な加速力を楽しめるのは、アルカナより160kgも軽い車体のおかげだろう。さらに、従来のハイブリッド車が得意としてこなかった80km/h以上の高速巡航時には、エンジンを積極的に使用するので好燃費が期待できる。
パワーフローメーターを見ていると、モーターとエンジンの使い分けが頻繁に行われている模様。例のドッグクラッチにより、さまざまなギアを選択しながら走行しているはずなのだが、そのショックが全く伝わってこないので、自分が何速で走っているのかは全くわからない。ブレーキング時は、まず回生ブレーキでエネルギーを回収して、さらに足りないところをブレーキパッドが受け持つ仕組みになっているのだが、作動状況はスムーズで違和感なし。「B」モードに入れると回生能力がさらに高まる。
走行モードはMULTI-SENSEの画面から「My Sence」「Sport」「Eco」の3通りが選べる。デフォルトのMy Senseはカスタマイズ可能。電動パワステのアシスト力やインストゥルメントパネルの表示スタイル、アンビエントライトのカラー(8色)などが変えられる。Sportモードを選択すれば、ちょっとしたスポーツモデルのようなキレのいい走りを披露してくれるので、パドルシフトで思うように変速してみたくなるのだが、その部分に関してはクルマにお任せするしかなく(やると組み合わせが複雑すぎてしまうのかも)、ちょっと残念だ。
しばらく走っていて気になってきたのは、ロードノイズが結構聞こえてくること。タイヤはコンチネンタルの「エココンタクト」で、前に乗ったガソリンエンジン搭載モデルと同じ銘柄だ。少し前にそのガソリンモデルを購入してバリバリ乗り回しているという知り合いにも聞いてみたけれど、音に関しては全く気にならないといっていた。ハイブリッドはモーター駆動で走りが静かだから、相対的に別のノイズがより大きく聞こえてきたのかもしれない。
運転支援システムを試してみると、ACC(アダプティブクルーズコントロール)とレーンセンタリングアシストの組み合わせが安心して使えるので、ロングドライブや渋滞時でも披露は最小限に抑えられるはず。燃費(WLTCモード)は25.2km/Lで、EVを除くと輸入車トップの性能だ。ちなみに2位はアルカナなので、E-TECH搭載モデルが1-2フィニッシュとなっている。試乗は街中で加減速が多かったせいか、メーター表示では10.2L/100km(日本式では9.8km/L)となっていた。
価格はE-TECH ハイブリッドが329万円、同レザーパックが344万円。200万円台なかばで手にはいる1.3Lガソリンターボモデルは、シンプルでパワフルなパワートレインとパドルシフトを使った走りがとても好印象だっただけに、あと50万円ほど追加してハイブリッドモデルを選ぶかどうか。そんな楽しい悩みを抱えることができるのが、最新のルーテシアなのだ。