富士通は1981年5月20日、同社初のパーソナルコンピュータ「FM-8」を発売。2021年5月20日で40年の節目を迎えた。FM-8以来、富士通のパソコンは常に最先端の技術を採用し続け、日本のユーザーに寄り添った製品を投入してきた。この連載では、日本のパソコン産業を支え、パソコン市場をリードしてきた富士通パソコンの40年間を振り返る。掲載済みの記事にも新たなエピソードなどを追加し、ユニークな製品にフォーカスしたスピンオフ記事も掲載していく予定だ。その点も含めてご期待いただきたい。
2018年5月に誕生した新生・富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、Lenovo Group Limited(レノボ・グループ・リミテッド)が51%、富士通が44%、日本政策投資銀行が5%を出資するジョイントベンチャーとしてスタートした。
「社名がクライアントコンピュータではなく、クライアントコンピューティングとしているのは、単にパソコンを作り、それを提供するメーカーに留まるのではなく、コンピューティングの力によってお客さまの役に立ち、世の中のイノベーションを引き起こす起点となることを目指す企業になりたいと考えたから。人に寄り添ったコンピューティングを実現するという姿勢はずっと変わらない。あらゆる人、あらゆる場所で発生する、あるいは必要とされるコンピューティングをすべてまかなうことで、お客さまの豊かなライフスタイルに貢献していく」(FCCLの齋藤邦彰社長、現会長)
FCCLは2018年5月の新たな体制でのスタートにあわせて、そこから約3年後となる2021年1月25日に「Day1000」という節目を設定した。齋藤社長は「FCCLの進化した姿を見せる日」として、パソコン事業をさらに進化させ、FCCLならではの存在感を発揮することに加え、これまでにない新たなコンピューティング事業領域においても、FCCLならではの特徴を持った製品やサービスを投入することを打ち出した。
Day1からDay1000までの1,000日間では、新型コロナウイルス感染症の拡大によって社会環境が大きく変化し、多くの企業にテレワークが浸透。教育分野では1人1台のデバイス環境を整備するGIGAスクール構想がスタートするなど、多くの出来事が発生した期間でもあった。
一方でFCCLの動きとしては、神奈川県のJR新川崎駅近くへの本社移転や新たなR&Dセンター開設、ドイツの開発拠点やチェコの生産拠点の稼働、台湾の調達オフィス開設といったように、体制強化や拠点整備を推進。コロナ禍によって人の移動が制限されるなかで、FCCLが持つ国内開発と国内生産の仕組みが強みを発揮した期間であったともいえるだろう。さらに、パソコン事業の進化や新たな領域への挑戦においても着実に成果をあげている。
たとえば、13.3型ノートパソコンとして世界最軽量(FCCL調べ)の「LIFEBOOK UH-X」をはじめ、小学生向けに設計・開発した「はじめてのじぶんパソコン」の投入、ステイホームの支援に適した「オンライン生活最適PC」などを発売してきた。
2020年10月に発表した634gの世界最軽量「LIFEBOOK UH-X/E3」は、会見直前までは648gだったのだが、開発チームによる最後の踏ん張りで4g削減。事前収録していたビデオで触れた数値を、ライブ配信で修正して見せた。「634」という数字は「ムサシ」とも読め、ここにはエピソードがある。FCCLの開発拠点であるR&Dセンターの最寄り駅がJR南武線の武蔵(ムサシ)中原駅ということで、「ムサシ」で生まれたパソコンであることに開発チームがこだわり、発表ギリギリまで削減に取り組んで達成したものだった。
また、一般的にノートパソコンが搭載するマイクは2個の場合が多いが、FCCLのノートパソコン(一部を除く)は早い段階からディスプレイ上部の左右に4個のマイクを搭載しており、ビデオ会議の音声品質を高める効果を生んだ。そのほかの最適化機能とも組み合わせることによって、「オンランイ生活最適PC」を強調した。
そして新たな領域では、電子ペーパー「クアデルノ」の投入、AIアシスタント「ふくまろ」の進化、エッジコンピュータ「InfiniBrain」の試験導入、教育分野向けの「Men In Box」の発表といったハイライトがある。齋藤氏が語ったように、コンピューティングの広がりを具現化して見せた。
とくにAIアシスタント「ふくまろ」は、「暮らしと笑顔をアシストする新しい家族」をコンセプトに開発され、パソコン利用や日々の生活を手伝えるAIアシスタントに進化。顔認識技術によって、家族の顔と名前を覚えて会話することもできるようになった。ふくまろに対しては今後も継続的に投資を行うとしており、FCCLが目指す「人に寄り添うコンピューティング」を支える重要な技術のひとつになりそうだ。
FCCLは新たなフェーズへ
2021年4月――。FCCLの新社長に大隈健史氏が就任。FCCLの経営体制が新たなフェーズへ入ったことを象徴する出来事だった。
大隈社長は、FCCLの社長就任直前までレノボ PCSD(PCおよびスマートデバイス事業)アジアパシフィックSMBセグメント担当エグゼクティブディレクターとして、シンガポールを拠点にレノボグループの成長に貢献。その手腕が見込まれてFCCLの社長となった。大隈社長は就任会見で以下のように語っている。
「FCCLが活躍できるフィールドやポテンシャルはこんなものではない。FCCLが日本でビジネスを行い、世界に事業を広げていく上では、レノボやNECといったレノボグループのPCブランドとは異なった独自の立ち位置を持つ必要がある。レノボや富士通のどちらかに寄るのではなく、FCCLの独自性を持つための最適解を探し続けることが重要。それが課題であり、私にとってのやりがい」(大隈社長)
その上で、「FCCLのユニークさ、独自性を保ち、お客さまに寄り添って、FCCLのブランド価値や提供価値を研ぎ澄ましていくこと」、「レノボグループ内でFCCLのプレゼンス(存在感)を高めること」、「企業として成長路線に乗せていくこと」の3点を社長としての役割に掲げた。
2021年度以降は日本のPC市場全体が縮小し、この傾向が続くと見られている。その点では厳しい時期での社長登板ともいえるだろう。
「レノボグループ全体から見れば、なぜ、市場が縮小している日本に、レノボ、NEC、富士通という3つのブランドがあるのか――という議論を始めさせてはいけない。FCCLとしての立ち位置をしっかりと見せ、多くの成長余地があることを伝え続けるためにも、成果を数字として見せる必要がある。パソコンだけにフォーカスしていては成長が維持できない。事業領域を広げる、あるいは市場を広げるという取り組みを通じて、企業としての成長を目指す」(大隈社長)
アジア地域へのビジネス拡大も、成長に向けた取り組みのひとつになる。FCCLの独立性を重視しながら、大隈社長が経験してきたレノボ流の経営手法をこれまで以上に注入することで、新たなFCCLの姿が描かれるはずだ。
富士通のパソコン、41年目からの進化にも期待
富士通のパソコンは、2021年5月20日に40周年を迎えた。
「40年間にわたって取り組んできたのは、コンピューティングの社会実装であり、コンピューティングによって人の生活をより良くし、それをなるべく多くの人や場所、長い時間でお役に立つことを追求してきたこと。人に寄り添うコンピューティングを追求すること、人に寄り添う製品ポートフォリオをそろえることは、これからも変わらない。
コロナ禍という環境変化において、コンピューティングを活用する時間が増えている。製品、サービス、開発、製造、サポートを自前で持つFCCLの強みを生かして、一人でも多くのお客さまにベストフィットする製品ポートフォリオや、高品質なライフサイクルサポートを提供し続けたい。世界一、お客さまに優しいコンピューティング会社として成長、発展していく」(齋藤会長)
FCCLは、40周年を記念した「FUJITSU PC 40th Anniversaryモデル」として、2in1タイプのWindowsタブレット「FMV LOOX(ルークス)」を2022年6月に発売。40周年の節目だった2021年5月の時点では、記念モデルの発売計画は明らかにされていたものの、内容については半年以上、公式なアナウンスがなかった。そんななか、2022年1月に米ラスベガスで開催されたCES 2022にいきなり登場し、「CES Innovation Awards 2022」を受賞するという鮮烈なデビューを飾ったのだ。
最新のFMV LOOXは、13.3型の有機ELディスプレイを搭載したタブレット。本体に同梱されているスタンドを背面にマグネットで固定すると無段階で角度を調整でき、別売りの専用キーボードを接続するとノートPCスタイルになる。タブレットとしてもPCとしても使えるほか、様々な形で別のPCと連携を図れるデバイスだ。
40周年記念モデルに「LOOX」のブランドを冠したことは大きな意味がある。LOOXは、2000年9月に発売された富士通のモバイルパソコン「FMV BIBLO LOOX」が第1号であり、2011年に生産を終了。今回、実に11年ぶりの復活となる。
初代モデルは8.8型ワイドXGA(1,024×512ドット)のTFT液晶ディスプレイを搭載し、A5コンパクトサイズ(幅243×奥行151mm)という小型化とともに、1kgを切る約980gの軽量化を実現していた。加えて大きな特徴は、DDIポケットのPHS通信「H"IN(エッジイン)」を初めて採用し、当時の携帯電話や通信カードと接続せずすぐにデータ通信が行えたこと。どこにいてもPHS網にネットワークでつながる最初のパソコンだった。
自らも初代LOOXの開発に携わった齋藤会長は、「LOOXはモバイルコンピューティングの世界をリードし続けるために、常に革新的な製品づくりを目指してきたブランド。新製品を投入するたびに、従来のモデルを超える高い目標を打ち出し、何度も試行錯誤を繰り返し、進化を遂げてきた」とする。
そして、「LOOXは富士通のパソコンにとって特別なブランドであり、そう簡単には名付けられない。だが今回のFMV LOOXは、40年間の集大成となるパソコンとしても、このブランドを名付けるパソコンとしても、相応しいものが実現できた」(齋藤会長)と語る。
LOOXは、見るという意味を持つ「LOOK」と、無限や未知の意味を持つ「X」を組み合わせた造語だ。LOOXを利用することで、インターネットという無限の情報と可能性を、いつでもどこでも簡単に見る(アクセスする)ことができるという意味を込めていた。つまり、初代LOOXが登場した2000年当時は、モバイルによる新たなコンピューティング環境を実現するデバイスというブランドだったのだ。
そして今回のFMV LOOXでは「Look at eXperience」と定義し、変化や無限の可能性、体験を通じて、未来の変革を見据えた革命的なデバイスになるという意味を持たせた。40周年の節目にLOOXを復活させられたのは、富士通パソコンの進化に衰えがないことを示したものといっていいだろう。LOOXの復活は、41年目以降の富士通パソコンにも期待して欲しいという、FCCLのメッセージのようにも聞こえる。