埼玉県と東京都を中心としておもに注文住宅を手がける高砂建設は、2021年度 省エネ大賞 製品・ビジネスモデル部門で省エネルギーセンター会長賞を受賞。電気代の高騰を背景に省エネ住宅が改めて注目されているなか、省エネ大賞を受賞した高砂建設の住宅を見てきました。

  • ZEH(Net Zero Energy House)住宅とその仕組みを見てきました

地域工務店にZEHは難しい

住宅の省エネといえば、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(Net Zero Energy House)、いわゆる「ZEH」です。家庭で消費するエネルギーと太陽光発電で生むエネルギーを同等にし、1年間のエネルギー消費量がゼロになることを目指す住宅を指します。

ZEH住宅の認定を取得すると補助金が給付されるのですが、単に太陽光発電を導入すればよいというものでもありません。高気密、高断熱な壁、屋根や省エネ性能の高い機器の導入――といった満たすべき要件は厳しく、その計算方法もかなり複雑です。

高砂建設は埼玉県・東京都を中心に、関東で年間80棟の注文住宅を建設する地域工務店。高砂建設によると、国内全体における新築住宅棟数の7割が地域工務店によるものですが、ZEH住宅の実績では大和ハウスや積水ハウスといった全国規模の大手ハウスメーカーが7割となり、逆転しています。

大きな理由は、地域工務店の注文住宅は1棟1棟の仕様が異なり、建築案件ごとに最初からZEHの計算をする必要があること。大手ハウスメーカーの注文住宅はある程度の仕様が決まっており、顧客のニーズに合わせて組み合わせていく手法であるため、ZEHの計算が比較的容易なんだそうです。

  • ZEH認定のハードルは高く、総合力のある大手ハウスメーカーが有利な分野

ZEHありきで住宅の仕様を決めていくと設計に自由度がなくなり、地域工務店で家を建てる魅力が失われてしまうのも理由のひとつ。顧客と設計を詰めていく段階での仕様変更もザラで、そのたびにZEH計算する手間と時間を営業担当が嫌がるという一面もあります。

  • ZEHの計算はかなり複雑。顧客との打ち合わせで間取りや仕様変更するたび、最初から計算をやり直すことになるんだとか

それ以上に問題となるのは、住宅購入金額が上がってしまうことです。高砂建設の注文住宅は、平均単価が2,000万円~2,500万円ほどですが、そこに太陽光発電と蓄電池を加えると200万円~300万円のコストアップとなり、住宅ローンの月額負担が高くなってしまいます。

住宅ローンと切り離して、太陽光発電と蓄電池を10年リース契約とする方法もありますが、10年間払い続けるリース料の合計は意外に高く、買い取ったほうがお得ではないかと悩んで結局やめてしまう顧客も多いそうです。以前はFIT(固定価格買取制度)による太陽光発電の売電単価が高かったので、高い初期コストを払っても太陽光発電を導入するメリットはありましたが、現在は売電単価が下落してしまったのでセールトークにはなりせん。

誰でも簡単に太陽光発電の容量を算出できる

このような理由でZEH販売は低迷していたのですが、2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画で「2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」とされたことが転機になりました。住宅でもカーボンニュートラルが義務化となる時代は間もなくやってくる――。そのためには地域工務店も競争力のあるZEH商品の開発が急務だと、高砂建設は考えました。

そこで最初に取り組んだのが、「太陽光発電搭載量算出プログラム」の開発。主居室(いわゆるLDK)の面積を入れるだけで必要な太陽光発電の搭載量が算出できるため、営業担当者が顧客とプランを相談している最中でも、プランの変更に応じて臨機応変にすばやく対応できるようになりました。

  • 主居室(LDK)の面積を入力すると、ZEH認定を受けるために必要な太陽光発電の搭載量を瞬時に計算できるプラグラムを開発

次は予算のハードル。これは、太陽光発電システム販売および新電力会社であるLooop社のリース商品「とくするソーラー 蓄電池付きプラン」と組み合わせることで解決しました。

このプランは、名前の通り「太陽光発電システムと蓄電池をセットで15年リース契約」するもの。住宅ローン枠外での導入となるため、顧客はローン枠をすべて住宅建設に回せます。また、月々の電力を「Looopでんき」と契約することで、太陽光で賄いきれない電気を安く仕入れることができます。

  • 太陽光と蓄電池、電気料金プランを組み込んだLooop社の「とくするソーラー 蓄電池付きプラン」を新築住宅とセット販売

  • 電気契約を「Looopでんき」に切り替えることが条件。太陽光で賄いきれずに調達する電気の料金も安くなります

太陽光・蓄電池のリース代を入れても10%オトク

月額リース料は、太陽光設置容量7.2kW+蓄電池7.2kWhの標準モデルプランで1万6100円。電気・ガスのハイブリッド給湯器の導入が義務となりますが、電気代・ガス代が大幅に削減され、発電量の2割程度が売電に回せることもあり、リース料金を加えても月々の光熱費は10%程度削減できるとしています。

  • 「とくするソーラー 蓄電池付きプラン」の料金シミュレーション。太陽光7kW、蓄電池7.2kWh(画像は6.5kWhとありますが誤り)を搭載するモデルプランの場合、月々のリース料を加味しても光熱費を10%ほど削減できる計算

導入から10年後は「卒FIT」になって太陽光発電の売電価格がさらに下がるため、リース料金も下げていきます。リース期間中のメンテナンスはLooopが担当するので、顧客の負担はゼロ。リースが切れる15年後は、太陽光発電・蓄電池ともに無償で顧客に譲渡されます。

高砂建設では、Looopとの協業で実現したZEH住宅を「彩樹の家 LCCM×レジリエンス」として2021年から販売をスタートしました。LCCMはライフ・サイクル・カーボン・マイナスの略で、住宅建設時も含めたライフサイクルを通じてCO2収支をマイナスにするという、ZEHを超える高基準住宅だと高砂建設では定義しています。

  • ZEH商品を、「CO2の出ない家」「災害に強い家」として新たに商品化

商品名にレジリエンス(強靭性・回復力)とあるように、災害に強い住宅としてもアピールします。耐震等級の高さに加え、太陽光発電と7.2kWhの蓄電池によって、大規模停電に見舞われても3日間の電力を確保できるためです。

住宅としてもともと、外断熱によって高気密・高断熱であり、床下・小屋裏ダンパーと全館換気システムを用いて暑さ・寒さ・湿気をコントロールするため、エアコンによる空調を最小限に抑える設計と仕様です。電気消費量が低い住宅なのですが、大容量の蓄電池が常備されているのは、住民にとって万が一のときの安心材料になります。

  • 高砂建設は、外張り断熱やダンパーシステムなどによって、冷暖房なしでもある程度は過ごせる高気密・高断熱の省エネ住宅を作ってきました。それに太陽光発電と蓄電池を加えることで安心をプラス

  • 屋根裏には、外気の除湿、空気清浄、内気との熱交換を行うシステムを搭載。外気を安全に取り込み、室内の空気と熱交換して排気することで、冷暖房コストを抑えます

なお、1つの蓄電池は縦横40cm×高さ10cmと小さく、標準プランでも3台連結(最大6台連結)となります。クローゼットなど室内の高い位置に収納できるため、もし床上浸水したとしても水害から守れます。

  • 蓄電池の1台はビデオデッキサイズ。室内専用とすることで、防水性・防塵性・耐衝撃性能を省いて小型化しました

  • モデルプランの7.2kWhは蓄電池×3台をスタッキング。3台重ねてもそれほどスペースを取らず、室内の高い位置に設置すれば浸水被害の心配もありません

  • 「彩樹の家 LCCM×レジリエンス」は、ガスと電気のハイブリッド給湯器の導入が義務。こちらはリースではなく、住宅ローンに組み込みます

ZEH契約数が格段にアップ

「彩樹の家 LCCM×レジリエンス」は現在までに34棟を契約し、契約歩留まり率は大手住宅メーカー並の50%に上っています。

「従来はZEHに関心のある顧客のみに提案しており、ZEHはオプション的な存在でしたが、昨年(2021年)からはほぼすべての顧客に提案できるようになりました。今年(2022年)はZEH率を60%に引き上げ、2030年までに100%を目指したい」(高砂建設 小川尚信取締役)

「彩樹の家 LCCM×レジリエンス」は2021年度省エネ大賞(省エネルギーセンター会長賞)を受賞したこともあり、高砂建設はこの商品を旗印に営業エリアの拡大、販売棟数の拡大を目指す考えです。

現在、東京都が新築住宅の太陽光発電システム搭載を義務付ける条例の制定を目指していますが、太陽光発電と蓄電池が手軽に導入でき、経済メリットと災害時の安心を得られるのであれば、義務でなくても戸建て住宅の太陽光発電搭載が増えていくのではないでしょうか。