そこで研究チームは今回、反強磁性的ハーフメタルとなる物質は「遷移金属元素の価電子数を合計で10にする」という独自の開発指針を提案することにし、それを基に鉄、クロム、硫黄からなる化合物を合成。実験により、同化合物は低温において完全に磁化が消失すること、ならびに補償温度以上では最大3.8Tという高い保磁力を有することを確認したとする。また第一原理計算により、ハーフメタルであることも確認されたとする。

今回の研究では、これまでのハーフメタル強磁性体よりも優れた特性を示す可能性がある化合物の合成に成功したことに加えて、物質の開発設計指針が示されたことから、研究チームでは、今後の物質探索・開発を高効率化し、電子デバイスの革新の加速につながることが期待されるとしている。具体的には、反強磁性的ハーフメタルを組み込んだトンネル磁気抵抗(TMR)素子は、これまでの強磁性層/反強磁性層から構成されるTMR素子よりも簡単な構造でありながら、性能(磁場の状態によって抵抗値が変化する割合)は10~1000倍に向上することが試算されているとしている。

  • 反強磁性ハーフメタルを用いたTMR素子の模式図

    (左)反強磁性ハーフメタルを用いたTMR素子の模式図。(右)現行のTMR素子の模式図。強磁性層と反強磁性層を含む数種の層により、強磁性層の磁気モーメントの向きをピン止めする役割を備えている。この数種の層が1層の反強磁性的ハーフメタルに置き換わることで、高い特性と低い漏れ磁場が実現され、高密度化を可能にするという (出所:東北大プレスリリースPDF)