日本でよく知られている故事成語の一つに、「木に縁りて魚を求む」という表現があります。どことなく古めかしい表現ながら、「木」「魚」という字から何となく意味は想像できるかもしれません。しかし、いざ使うとなれば、意味や使い方が合っているのか気になる人も多いでしょう。
この記事では、「木に縁りて魚を求む」の意味や由来、例文や類語表現、英語表現などを紹介します。
「木に縁りて魚を求む」の意味とは
「木に縁りて魚を求む」とは、方法を間違えると、目的を達成できない、何も得られないことの例えです。魚を取るために木に登るような誤った方法を選択するなどの、的外れでおろかな行為を表します。
「木に縁りて魚を求む」の読み方
「木に縁りて魚を求む」は、「きによりてうおをもとむ」と読みます。
「木に縁りて魚を求む」の由来
「木に縁りて魚を求む」の由来は、中国の故事成語です。『孟子』の「梁恵王(りょうのけいおう)・上」に掲載されている、中国の思想家である孟子(もうし)の言葉が始まりとされています。
より詳細に説明します。書によると、斉(せい)の国の王と面会した際に、中国の覇者になりたいという気持ちにあふれた彼の様子を見た孟子は、「戦争によって王になろうとするのは、『木に縁りて魚を求む(木に登って、魚を捕まえようとする)』ようなものです」と述べました。これが「木に縁りて魚を求む」として広まったのです。
「木に縁りて魚を求む」の漢文
前述の孟子のフレーズは、漢文では下記のように記されています。
以若所爲求若所欲、猶緣木而求魚也
(若き為す所を以て、若き欲する所を求むるは、猶お木に縁りて魚を求むるなり)
「緣」は「縁」の旧字体で、「縁りて」は「よじ登って」と訳されます。
なおこの後、孟子は斉の王に対し、「戦争によって王になろうとするのは、不可能であるだけでなく、後々、必ず災いをもたらすことになるでしょう」と続け、武力ではなく、思いやりを持った政治の大切さを訴えました。
「木に縁りて魚を求む」の使い方
「木に縁りて魚を求む」という表現は、日常会話で使われる機会はそう多くありません。滅多に使わない言葉だからこそ、誤った使い方を避けられるよう、使い方を覚えておきましょう。
ここでは、「木に縁りて魚を求む」の使い方や例文を紹介します。
ネガティブな意味で使われる
「木に縁りて魚を求む」は「的外れで意味がないことをする」という意味があることからもわかるように、いい意味ではありません。人に対して使うと失礼に当たることもありますので、気を付けて使いましょう。
「木に縁りて魚を求む」の例文
- 彼が今年も資格試験に合格できなかったのは、木に縁りて魚を求むような頑張り方のせいだろう
- 外国語を話せるようになりたいのに、文法の勉強にのみ注力するのは、木に縁りて魚を求むようなものだろう
- 彼女をプロジェクトリーダーにしたのは、木に縁りて魚を求むようなものかと思われたが、結果的にプロジェクトは大成功を収めた
- この企画はもともと若年層向けに発案したもので、シニア層の売上拡大のための施策としては、木に縁りて魚を求むようなものかと思います
「木に縁りて魚を求む」は上記のようにビジネスシーンでも使える表現です。
「木に縁りて魚を求む」の類語
「木に縁りて魚を求む」は、そう頻繁に使われる表現ではないため、相手に意味が通じにくいこともあります。そこで、「木に縁りて魚を求む」を言い換え可能な類語も覚えておきましょう。
見当違い
「見当違い」の意味は「判断や推測を誤ること」です。「彼女は見当違いな努力をしたせいか、今年も資格試験に合格できなかった」のような形で使います。
見込み違い
「見込み違い」は、「予想と違う結果になること」という意味以外にも、「予想の立て方を間違えること」という意味があります。後者の意味では、「木に縁りて魚を求む」と似た状況で使える表現ですので、押さえておきましょう。
例文は「いつまでもこの問題を解決できないのは、見込み違いの方法ばかりをとっているからだろう」などです。
氷を叩き火を求む
氷を叩いても火を起こすことはできないことから、目的に合った方法でなければ、苦労しても目的を達成できないことの例えです。また、見当違いの無謀な望みという意味もあります。
敲氷求火(こうひょうきゅうか)という四字熟語もあります。
畑に蛤(はまぐり)
畑で蛤を得ることはできないように、見当違いなこと、不可能であることを望むこと、という意味です。
「木に縁りて魚を求む」の英語表現
「木に縁りて魚を求む」を英語で直訳すると、下記のような表現となります。
・to look for fish by climbing a tree
ただし、「木に縁りて魚を求む」の英語表現としてはあまり使われていないようです。「木に縁りて魚を求む」と同じような意味でよく使われる表現について見ていきましょう。
直訳以外の英語表現が使われることが多い
・to ask the impossible
(無茶な要求をする)
・Look not for musk in a dog's kennel
(犬小屋の中にジャコウを見つけようとするな)
「ジャコウ」は最高級の香料のことです。それが犬小屋の中にあるわけはありませんね。
英語を使う機会があるなら、ぜひ押さえておきましょう。
「木に縁りて魚を求む」は戒めの意味で使われる故事成語
「木に縁りて魚を求む」とは、方法を誤ってしまうと目的を達成できないことを例えた表現です。中国の思想家である孟子の言葉がもとになっていて、自分や周りの人を戒める時に使われることが多い言葉です。
日常的な使用頻度が多いとはいえませんが、ビジネスシーンでも使える表現ですので、使い方を覚えておきましょう。それとともに、「見当違い」「氷を叩き火を求む」などの類語表現も覚えて、言い換えられるようにしておくと便利です。
ただし、基本的にはネガティブな意味の言葉のため、シーンや相手との関係性に注意した上で使うようにするといいでしょう。