DNAコンピューティングは、DNA分子を利用した情報処理・計算技術であり、溶液中に存在する大量のDNA分子(1mol=6×1023)が一斉に反応(計算)することで、解候補の探索を超並列に実行できる技術である。またナノポアとは、脂質二分子膜中に形成されるナノメートルサイズの微細孔のことを指す。

  • 今回のシステムの概要

    今回のシステムの概要。DNAコンピューティングによって出力された診断用DNA/miRNAの二本鎖分子が、ナノポアを通過する際の電流阻害時間の比較を行うことで、胆管がんのmiRNA発現パターンの識別に成功した (出所:農工大Webサイト)

今回の研究では5種類のmiRNAが同時に検出できる診断用DNAが設計され、miRNAを入力分子、診断用DNAを計算実行分子、診断用DNA/miRNA二本鎖分子を出力分子とする自律的な並列計算が行われた。

ナノポアを通過する際の計測で得られる電流阻害時間は、miRNAの発現情報をコードした診断用DNAがナノポアを通過する時間が反映されている。この時間が解析されたところ、胆管がん患者と健常者で完全に異なる時間の分布が得られ、血液中のmiRNA発現パターンからがん患者を識別することに成功したという。

さらに、診断用DNAの濃度の最適化が行われたところ、超低濃度miRNA(10-16M)の検出にも成功したとのことで、今回の手法により、miRNAの増幅ステップが不要な血中miRNAパターン識別が実現されたこととなる。

なお研究チームは今後、今回のシステムを市販のナノポアデバイスに搭載することでハイスループット化し、実際の診断・予後観察へ展開することを目指すとしている。