渡辺宙明先生(著者撮影/2017年3月4日 渡辺宙明スペシャルコンサート)

『マジンガーZ』(1972年)や『宇宙刑事ギャバン』(1982年)など、アニメ・特撮作品の主題歌やBGMを数多く手がけてきた作曲家・渡辺宙明さん(わたなべ・みちあき/ペンネーム:わたなべ・ちゅうめい)が2022年6月23日、この世を去った。96歳だった。

1953年に作曲家デビューし、劇場映画や大人向けテレビドラマの音楽を主に作曲していた宙明先生は、1972年に『人造人間キカイダー』『マジンガーZ』の音楽全般(主題歌・挿入歌・BGMの作・編曲)を手がけ、以来アニメ・特撮作品での活躍が増えていく。特撮ヒーローのアクションや巨大ロボットのバトルシーンを最大限に盛り上げる「パンチの効いた」メロディの数々は、ファンから敬愛の意を込めて「宙明サウンド」と呼ばれ、長きにわたって親しまれている。昨年(2021年)はスーパー戦隊シリーズ第45作『機界戦隊ゼンカイジャー』のBGMを大石憲一郎氏と共に作曲し、渡辺宙明健在を示していた。

近年もテレビ、ラジオ、雑誌記事、トークイベントなどファンの前に接する機会が多く、90歳を迎えてなお作曲への意欲が衰えていないと普段から語っておられただけに、突然の訃報には誰もが驚き、深い悲しみに包まれたことだろう。「宙明/CHUMEI」の名は日本だけでなく世界各国にも知れ渡っており、遠い海の向こうにいるファンたちも日本語の歌詞で宙明氏作曲のアニメ・特撮ソングを歌うことができるくらい、深い愛情を注いでいるという。

偉大なる作曲家・渡辺宙明先生のご冥福を心からお祈りします。

  • 日本コロムビア『マジンガーZ』(アクションサウンド)ジャケット(著者私物)

宙明先生が手がけた初のアニメ作品『マジンガーZ』は、人間が乗り込んで操縦するロボットアニメのパイオニアであり、空前のブームを巻き起こした作品となった。主題歌を歌う水木一郎による「ゼーット!」の叫びはあまりにも有名。

  • 日本コロムビア『キカイダー01』ジャケット(著者私物)

初めて手がけた「東映特撮」作品となる『人造人間キカイダー』と続編『キカイダー01』では、ブラスロックを採り入れた軽快なアクション曲や、怪談映画を思わせるショック音楽、そして「ジローのギター」や「イチローのトランペット」といった劇中で強烈な印象を残す音楽を創造。機械に詳しい宙明先生は購入したばかりのアナログ・シンセサイザー「ミニモーグ」を導入し、「ギルの悪魔の笛」や「キカイダー変身シーンの音楽」などで多大な効果を挙げた。

  • 日本コロムビア『イナズマン』ジャケット(著者私物)

『キカイダー』『マジンガーZ』で評判を取った宙明先生は、『イナズマン』『グレートマジンガー』『秘密戦隊ゴレンジャー』といった特撮・アニメを手がけるようになり、一方で金子吉延主演の青春根性ドラマ『どっこい大作』や千葉真一主演のアクションドラマ『ザ・ボディガード』など、幅広いジャンルの音楽を作り上げた。

  • 日本コロムビア『バトルフィーバーJ 音楽集』LPジャケット(著者私物)

『スパイダーマン』(1978年)と『バトルフィーバーJ』(1979年)は、当初からBGMをレコード商品化することが決まっていたため、いずれも組曲形式で作曲、録音を行った。主題歌・挿入歌を集めたLPレコードが主流だった時代、これらのBGMレコードが発売されたことは、世のサントラ(サウンドトラック)ファンを歓喜させた。宙明先生が気合いを入れて作り上げただけに、2作品のLPアルバムは大好評となり、80年代にジャケットをリニューアルして再販が実現した。

  • 日本コロムビア『テレビオリジナルBGMコレクション 宇宙刑事ギャバン』LPジャケット(著者私物)

1982年の宙明先生は、『ゴレンジャー』からの流れを汲むスーパー戦隊シリーズ『大戦隊ゴーグルファイブ』とほぼ同時に、東映がかつてないスケールで送り出した意欲作『宇宙刑事ギャバン』の音楽全般を担当することになった。『ゴーグルファイブ』はそれまでのシリーズの定番パターンに新しい味を乗せていく形で名曲を作り出している印象。『ギャバン』は新シリーズということで、今までとは一味違う宇宙的スケールを持たせたサウンドの創造に努めている。音楽集LPは、宙明先生自身の強い働きかけによって実現したという。

  • 日本コロムビア『宇宙刑事シャイダー 音楽集』LPジャケット(著者私物)

シリーズ3作目『宇宙刑事シャイダー』の悪役・不思議界フーマが劇中で人間を操る際に流す「不思議ソング」は、澤井信一郎監督から「不気味じゃなくて不思議な感じで」とリクエストされ、宙明先生も苦心しながら作曲したと語っていた。デモ用に宙明先生が吹きこんだ「不思議ソング」を澤井監督が気に入り、第1話劇中で使用。そのときの音源が音楽集LPにも収録され、「不思議ソングPART2」として親しまれている。

  • スリーシェルズ『渡辺宙明 卒寿記念コンサートVol.3』CDジャケット(著者私物)

卒寿(90歳)を記念し、渡辺宙明作曲の歌と音楽をオーケストラ演奏するスペシャルコンサートが都内各地で開催された。フィナーレには宙明先生が指揮台に立ち、つめかけたファンが大声で『マジンガーZ主題歌』を熱唱するという感動的な光景が見られた。

  • ワイズ出版『作曲家 渡辺宙明』(編:小林淳)

  • 辰巳出版『渡辺宙明大全』(編著:腹巻猫&宙明サウンド研究会)書影(著者私物)

宙明先生の作曲家人生をまとめた「語り下ろし」書籍。『作曲家 渡辺宙明』は映画音楽を志した日々や、超常現象研究家としての一面までが詳細に語られている。『渡辺宙明大全』は『人造人間キカイダー』から始まる膨大なアニメ・特撮作品の作曲秘話が濃厚に語られた。いずれも宙明先生の多大なる業績を知るための重要な資料といえる。