米Intelの日本法人であるインテルは2022年6月22日、プレス向けのセミナーを実施。冒頭、同社代表取締役社長 鈴木国正氏は「過去一年でデータトラフィックが4割増え、10年前の30倍になった。そして3年後にはさらに100倍と指数関数的に増大する。これに対応するためには高度なコンピューティングパワーが必要で半導体の需要は大きく、各国が戦略物資としてとらえている」と発言。
Intelとしては「長期的な需要が持続」、「ムーアの法則は続く」、「オープンエコシステムによるイノベーションの促進」、「世界中で求められるバランスと回復力のあるサプライチェーン」という信念のもとでそれぞれ「リーダーシップ製品の提供」、「オープンでセキュアなプラットフォーム基盤」、「大規模でサステナブルな製造能力」、「インテルの人材と文化が生み出す可能性」という戦略を立て6つの事業体に再編成。そして、2022年前半の取り組みの振り返りとして3つのポイントを挙げた。
一つ目の「テクノロジー・リーダーシップの強化」に関してはインテル 執行役員常務 第二技術本部 本部長 土岐英秋氏が紹介。今年前半の製品として第12世代Core iプロセッサーのHK/P/U/KS/HXプロセッサーに加え、インテルArcグラフィックスポートフォリオのノートパソコン向け第一弾製品を発表。
製品開発の基礎となるプロセス技術に関して、Intel 7はすでに製品を出荷中、Intel 4は2022年後半の製造開始に向けて「ヘルシーな状況」であるという。Intel 3は2023年の製造開始予定、Intel 20A、18Aも2024年の前半、後半に向けて開発が進んでいる。
土岐氏は従来のIntelのプロセスノードは2~2.5年に一回の改定であったのに対し、現在発表済のIntel 7/4/3/20A/18Aは4年間に5回ときわめて短期間に移行するという。
すでに紹介したクライアント向けの第12世代Core iプロセッサーだけでなく、データセンターとAI向けの第4世代 Xeonスケーラブルプロセッサは前世代の製品から30倍のAIパフォーマンスを発揮し、ネットワーク&エッジ、アクセラレイテッド・コンピューティング・システム&グラフィックス、クラウドにおいてもリーダーシップ製品を投入する。
データセンター向けGPU「Arctic Sound M」は現在のネットワークの80%がビデオ関係、ストリーミングに使われている事を考慮し、クラウドゲーム、メディア・プロセッシング、仮想デスクトップ、AI推論に優れた性能を発揮。AIの学習向けにはGAUDI2アクセラレータを投入し、ライバルとなるNVIDIA A100の最大二倍の性能を標準的なベンチマークで達成したという。土岐氏は「今後も新しい製品で新しいプロセス技術の製品を出すのでご期待を」として再び鈴木氏にマイクをバトンタッチ。
過去最大の24の建築プロジェクトが進行中
今年前半の活動の二番目にあたる「IDM 2.0の進展」に関して、鈴木氏は自社の製造に対し、今年オハイオに200億ドル、ドイツに365億ドルの投資を発表し、それ以外にもIntel過去最大の24の建築プロジェクトが進行中であると発言。製造強化で重要なのがサプライチェーンであり、Intelが毎年行っているサプライヤーに対する表彰「EPIC AWARDS」の2021年度受賞企業の約4割が、日本企業であり強靭なパートナーシップが重要であるという。
2022年前半の取り組みの最後として「サステナビリティ―の推進」と、まずパット・ゲルシンガーCEOのビデオを紹介。グローバル全体で2040年までに実質排出ゼロ(Net-Zero)を行うが、ここにはIntel自らの行動であるスコープ1、スコープ2に加え、バリューチェーン全体でのスコープ3も含まれている。
2030年までのマイルストーン目標として再生可能エネルギー利用100%と省エネ対策に3億ドルの投資による累計40キロワットの削減を行う。
パソコン関係者としてはリサイクルを促進するためにプリント回路基板をバイオベースの素材を使用して、材料とコンポ―ネントの分離を容易にするほか、メインボードサイズを小型化するリファレンスモデルの作成となっており、いまだにATX主流のパソコン業界がどうなるか興味深い。
さらに2030年までにクライアントPCとサーバー向けプロセッサーにおいてエネルギー効率を10倍にするという目標が掲げられている。
世界の電力消費の1%を占めるデータセンターに対しては大規模なメガラボに7億ドルの投資を行い。効率的な冷却手法として「水」に注目、液浸冷却ソリューションの確立を行うと共にオープンな知的財産として液浸冷却ソリューションとリファレンスデザインを発表するという。
日本独自の取り組みとしてはKDDIとMOUを締結し、通信局舎内のCO2削減や、大容量メモリを活用して1基地局当たりの収量効率を増やし、通信用サーバーの削減を行う。
引き続き鈴木氏は2022年下半期の取り組みについて3つを紹介した。
一つ目の「国内PC市場に向けた取り組み」においては第12世代Core iプロセッサーの需要促進と拡販に加え、新しい市場としてゲーム・クリエイター向けの高性能PCの訴求を行う。
前者に関しては“Blue Community Project” Kick-offを東京タワーの下にあるRED° TOKYO TOWERというeスポーツ向けの施設でそうそうたるメンバーを招いて実施。ゲーム業界におけるPCの重要性を共有したという。
二つ目の「クラウド・エンタープライズ市場における取組」に関してはパイパースケーラーと呼ばれる事業者でもIntelプロセッサを最大限利用されていないため、ワークロードをIntelプロセッサに最適化することでCO2削減提案活動を行う。関連して5月にIntel Cloud Forum 2022 Springを行っている。
最後の「DcXに向けた取り組み」に関しては2つあり、日本ですぐに導入可能なソリューション カタログとして「インテル ソリューション コネクト」を開設、すでに40以上のパートナーソリューションが掲載されている。Intelは高い技術だけでなく中立性がある事からパートナーを繋ぐことでDX/DcXを支援したいと鈴木氏は説明した。
もう一つはデジタル人材育成に向けた取り組みで、政府からデジタル田園都市国家構想基本方針が出て「2026年度までにデジタル推進人材230万人をめざす」という数字が具体的に出たのが大きいという。これに対しインテルとエコシステムパートナーは教員と生徒向けの「Intel Skills for Innovation」とSTEAM 教育に必要とするICTの環境構築「STEAM Lab 構築支援」、そして新しい取り組みとしてインテル デジタル・ラボを行う。この先の説明はインテル 執行役員 新規事業推進本部長 戦略室長 大野誠氏にバトンタッチした。
今までのデジタル化支援策をデジタル・ラボという名のもとに集結
大野氏はまず教育関係を説明し、STEAM教育促進に関してはSTEAM Labの構築支援をパートナーと共に実施。教育に必要なインフラ環境や周辺機器の整備を行うだけでなく、インテル Skills for Innovation フレームワーク提供を行う。
すでに戸田市立戸田東小学校・中学校にSTEAM Labが一昨年に開設されたほか、昨年実証実験校の受付を行い、現在18校にSTEAM Labの機材の導入を完了。4月から順次実証実験を行うという。
現在ギガスクール構想によって一人一台のパソコンが利用できるようになっているものの、それでは取り扱えないようなスペックのPCやデジタル機材を導入することによってAIやシミュレ―ションが行え、デジタルコンテンツを自由化台作成できる場を提供。コンテンツ実践を重ねたいと発言。
さらにSTEAM LABだけでなく、すでにインテルが行っているDcX Lab、Media Lab/AI Labを総称し「インテル・デジタルラボ」と称し、小学生から大人のリスキリングにまで対応するデジタル人材育成を包括的に扱う活動を行いたいという。
教えるだけではなく、最終的には地域のデジタル化に関する社会実装を目指したいと目標を説明した。
もう一つの取り組みがアメリカや韓国他10カ国で2年前から行われている「Indel Digital Readiness Progress」だ。高校生以上を対象としており、多様なカリキュラムを用意している。デジタルスキルの育成に留まらず、責任ある利活用を目指しており、現在日本語版を用意している最中であるという。
先行事例として昨年12月からDX/DcX研修を開始した千葉市を紹介した。市幹部に向けては個別の研修の他、市民がオンラインで利用できるプログラムも用意されている。今年はAIプログラミングに特化した研修を行う予定で、デジタルやAIプログラミングを多くの方々に体験してもらうという。また、香川県三富市とのインテル・デジタルラボ協業も行われ、自治体関係者や地域企業を対象としたDX/DcX研修やワークショップの開催や高校・高専生を対象としたAIラボも予定されている。
質疑応答では教材に関して「単なる日本語化では内容が伝わりにくいので、日本向けのカスタマイズを行う」と回答。また、パートナー企業に関してはPCメーカーの他、3DプリンタとしてRICHO、ソフトとしてアドビの名前が挙げられていた。