蛇の生殺しは、日常生活でもよく使われる慣用句の一つです。しかし言葉の状況を考えてみると「殺す」という決着がついているのかどうかや、生殺しされるのは蛇なのか獲物なのかなど、わかりにくい表現かもしれません。
この記事では、蛇の生殺しについて正しい意味や使い方、類語や英語表現などを、例文を交えて詳しく解説します。蛇の生殺しをどんな場面で使うべきかを知り、普段の生活やビジネスに役立てましょう。
蛇の生殺しの意味
まず蛇の生殺しとはどういうことか、意味や読み方、言葉ができた背景などをご紹介します。
蛇の生殺しとは
「蛇の生殺し」は「一思いに殺さずに半死半生にして、殺しも生かしもしないこと」「物事に決着をつけず、中途半端のままにして苦しめること」を例えて表現している言葉です。
蛇の生殺しの読み方
蛇の生殺しの読み方は「へびのなまごろし」です。
蛇には「へび」「じゃ」「くちなわ」などいくつか読み方があり、慣用句により読み方が異なります。また、生殺しについて、「生かすことと殺すこと」を意味する「生殺(せいさつ)」という言葉もあるため、わかりづらく感じられるかもしれませんね。蛇の生殺しを、例えば「じゃのせいさつし」などと読むのは誤りです。
「蛇が」生殺しされるのか? 「蛇に」生殺しされるのか?
なお生殺しになっているのは、蛇の獲物ではなく蛇の方です。「生殺し」とは、「殺す寸前まで痛めつける」「物事を中途半端な状態にし、相手を苦しめる」という意味があります。
蛇の生殺しの語源
蛇はもともと生命力が強く、なかなか死なないという特徴があります。そこから、蛇を散々痛めつけながらも完全には殺さず半死半生の状態にしておくことが語源になっているといわれています。
日本における蛇のイメージ
日本において蛇は身近であり、特殊な存在の生き物です。例えば十二支には「巳年」があり、また蛇は七福神の中の弁財天の使いともいわれています。
蛇の生殺し以外にも、後述するように蛇にまつわることわざや慣用句は多くあります。
私たちは蛇に対して、下記のようなさまざまなイメージを持っています。蛇の生殺しや、そのほかの蛇がつく慣用句の由来として、これらのイメージと関連することが多いとされています。
- 蛇の良いイメージ:山の神、水の神、雷神など信仰や幸運の対象
- 蛇の悪いイメージ:噛みつかれて毒に侵される、残忍であるなど恐怖の対象
蛇の生殺しの使い方と例文
蛇の生殺しの使い方は、ある状況に対して、中途半端に待たされてしまうような場合に使います。
- ホームページに新しいソフトウエアの項目があって特長や利点をアピールしているにも関わらず、購入する方法がないとはまるで蛇の生殺しだ
- 意中の女性に意を決して告白したものの、1カ月も返事を保留されているとは、まさに蛇の生殺しだ
- サウナがあるのに水風呂がないというのは、サウナ愛好家にとっては蛇の生殺し状態以外のなにものでもない
蛇の生殺しの類語表現
蛇の生殺しに意味が近い類語表現をご紹介します。
飼い殺し(かいごろし)
飼い殺しとは、「役に立たなくなった家畜を、死ぬまでそのままただ飼っておくこと」「活躍の機会を与えずにただ置いておくこと」という意味です。解放せずに、中途半端な状態にして苦しめる、という意味で蛇の生殺しと似ていると言えるでしょう。
職場や仕事などでも多く使われる表現です。
- 彼は会社で、いつまでも重要な役割が与えられず飼い殺しにされている
- 本当はもっと能力が発揮できるのに、窓際に追いやるなんて飼い殺しだ
生かさず殺さず(いかさずころさず)
生かさず殺さずとは、中途半端な状態にしておくことです。生かすの対義語は殺すです。つまり生かすことも殺すこともしない生殺し状態だといえます。
- 「百姓は、生かさぬように、殺さぬように」という言葉から、江戸時代の農業政策の厳しさがわかる
- 生かさず殺さずが、取引相手とうまく付き合う方法かもしれません
宙(ちゅう)ぶらりん状態にする・中ぶらりん状態にする
宙ぶらりんとは、もともと何か空中にぶら下がっていることを表す表現です。ここから転じて宙ぶらりん状態とは、どっちつかずで中途半端であることを示しています。
- この計画は進めていいとも中止とも判断されておらず、宙ぶらりん状態になっている
- 恋人が「結婚したくない」というので、「結婚したい」という自分の気持ちが宙ぶらりん状態になっている
慰み(なぐさみ)ものにする
慰みものとは、相手の一次的な楽しみのためにもてあそばれることです。誠実な対応ではなく傷つけられることも多いでしょう。
- 慰みものにされて大変悲しい思いをした
- 女性が慰みものにされるような社会はあってはならない
なぶりものにする
なぶるとは、時間をかけて相手を苦しめ、楽しむことです。漢字では「嬲る」と書きます。なぶりものとは、なぶられる対象を示しています。また「なぶり殺し」という表現もありますが、こちらは最終的に殺してしまう点が、「蛇の生殺し」と異なる点です。
- 大勢の前でなぶりものにされた
- 人をなぶりものにしてはいけない
そのほかの蛇にまつわることわざや慣用句
蛇に関連する表現はたくさんあります。意味と例文をご紹介します。
生殺しの蛇に噛まれる(なまごろしのへびにかまれる)
息の根を止めておかなかった蛇に噛まれるという状況から生まれた言葉です。災いとなる根本を完全に取り除いておかなかったために、後に自分に害が及ぶような状態を言います。
- いつまでも相手を待たせるなんて、生殺しの蛇に噛まれないよう気をつけてください
蛇の道は蛇(じゃのみちはへび)
物事はそれぞれの分野に詳しい人がいて、一般には分からなくても、同類の者同士はお互いにその方面について詳しいということを例えた表現です。
- 蛇の道は蛇だから、そのことはよく知っているよ
やぶへび
蛇は藪(やぶ)のなかにいることが多いです。やぶへびとは、「藪をつついて蛇を出す」とも言い、余計なことをして、かえって災いを受けてしまうという意味です。
- 言わなくていいことを言って相手の機嫌を損ねた。完全にやぶへびだった
蛇ににらまれた蛙(へびににらまれたかえる)
蛇は蛙を食べるので、蛙から見ると蛇は天敵です。蛇ににらまれた蛙とは、圧倒的な強者や苦手なもの、怖いものが目の前に出てきた場合、身がすくんで何もできなくなってしまうことを表しています。
- ○○さんの前では蛇ににらまれた蛙なので、いつも黙って話を聞いています
鬼が住むか蛇が住むか(おにがすむかじゃがすむか)
「どんな恐ろしいものがいるかわからない」「人の心の底にはどんな考えがあるかわからない」という意味です。
似た表現に「鬼が出るか蛇(じゃ)が出るか」というものもあります。こちらは「予測不可能で不気味な様子」を意味します。
- 妻の考えは鬼が住むか蛇が住むか、まったくわからないものだ
蛇は口の裂くるのを知らず(くちなわはくちのさくるのをしらず)
「欲が深すぎて身を滅ぼす」という意味です。蛇は非常に貪欲で、自らの口が裂けてたとしても大きな餌を飲み込もうとするという様子の例えです。
- 事業を拡大し続けた結果、失敗してしまうなんて、蛇は口の裂くるのを知らず、である
蛇が出そうで蚊も出ぬ(じゃがでそうでかもでぬ)
何か大きなことが起こるのではないかと思っていたにもかかわらず、結局何も起こらなかった様子を表す意味の表現です。蛇が出そうな藪に分け入った結果、同じく藪にいることが多い蚊すら出なかったという様子を表しています。
- 蛇が出そうで蚊も出ぬとは拍子抜けだ
蛇の生殺しの英語表現
蛇の生殺しの英語表現は、「limbo」「half-killing a snake」などが一般的です。それぞれ例文をご紹介します。
I am left in limbo because he doesn't reply intentionally.
(彼が故意に返事をしないので、私は蛇の生殺しです)Since they don't know the proposal will be accepted or not, they are half-killing a snake now.
(提案が受け入れられるかどうかわからないので、彼らは蛇の生殺し状態です)
蛇の生殺しの意味を知って正しく使おう
蛇の生殺しは、物事に決着をつけないまま相手を苦しめるという意味があります。類語も含めて、例文を参考に使いこなせるようになりましょう。