東京メトロ南北線の品川分岐線について、東京都と東京メトロが住民説明会を開催し、その資料が東京都公式サイトに掲載された。報道もされているように、白金高輪駅からそのまま南下せず、白金台駅付近、高輪台駅付近を通る。しかし中間駅は設置されない。その理由と、あまり報じられない京急電鉄沿線の利点を考察する。
東京都の資料の題名は「東京都市計画 都市高速鉄道第7号線 東京メトロ南北線の分岐線」とある。報道等では「南北線延伸」「品川地下鉄」などと呼ばれている。本稿では「南北線分岐線」として進める。
「都市高速鉄道第7号線」は現在の東京メトロ南北線で、1962(昭和37)年、運輸省(現・国土交通省)の都市交通審議会が「整備すべき地下鉄」として運輸大臣に答申した路線のひとつ。7号線は「目黒~飯倉片町~永田町~市ケ谷~駒込~王子~赤羽町」と定義された。1991(平成3)年に赤羽岩淵~駒込間が開業し、全線開業は2000年。若干のルート変更はあったものの、ほぼ構想通りに開業した。飯倉片町は南北線の麻布十番~六本木一丁目間にあるが、駅はできなかった。
完成した南北線から品川駅へ延伸する構想は、2014年に都が公表した「品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドライン 2014」に記載された「品川駅東西地下鉄構想」が始まりとなっている。地元の港区ではなく、東京都としての提案だった。
品川駅は2003年に東海道新幹線の駅が開業した後、港南口の都市開発が進み、2011年にはリニア中央新幹線の起点になると発表された。1998年以降、京急電鉄が羽田空港へ「エアポート快特」の運行を始めており、羽田空港アクセスの要でもある。東京都は品川駅と都心方面のアクセスを改善したい考えがあった。この提案は、2016年の国土交通省の交通政策審議会答申第198号に「都心部・品川地下鉄構想の新設」として「白金高輪駅~品川駅」と定義された。新線計画としては異例の早さだった。
■「留置線延伸」と「環状4号線地下」が整備コストで有利
地図上で見ると、白金高輪駅と品川駅の距離は約1.5km。しかし、東京都が公開した資料によると、白金高輪駅から西の白金台駅方面に進み、そこから南東へ向かうという。かなり遠回りのルートになった。直線ルートは無理だとしても、白金高輪駅から国道1号(桜田通り)地下を進み、明治学院大学あたりで東へ、桂坂の下を通って国道15号を南下するルートが素直だったように見える。検討ルートは他にも、国道1号を高輪台駅付近まで南下してから東進し、品川駅を東西方向に配置する案もあった。
大回りルートになった理由のひとつは、白金高輪駅の留置線を使うからだろう。白金高輪駅の目黒方向に複線の留置線があり、東京メトロ南北線・都営三田線の電車を折り返すときに使っている。この留置線を延長すれば、白金高輪駅で新たな分岐を配置する必要はない。分岐のためにトンネルを拡幅する必要もない。ところが、この留置線は上下線に挟まれる形で、目黒方向の線路に沿って配置されている。この留置線を延伸し、さらに白金高輪方面の線路の下を通すためには、勾配線路を目黒方面に伸ばす必要がある。
もうひとつの理由は、建設中の幹線道路「環状4号線」の下を通したいから。地表から浅い深度で地下鉄を建設すれば、地上の地主の許可が必要になる。勾配の出口であれば用地買収も必要だろう。しかし、公道の下なら私有地に支障なく建設できる。曲線区間は私有地にかかるものの、白金台駅付近で地下鉄の線路をくぐるため、「大深度地下利用法」が適用される。地下40m以下であれば、地上の所有権が及ばない。ただし、品川駅付近の高輪3丁目付近は浅い曲線区間ができる。ここは市街地再開発事業の区域となっているため、都市計画を立体的に定める次第となった。
「白金台駅と高輪台駅の近くを通るけれども中間駅はない」と指摘する報道もある。これは公開資料の平面図が誤解を招いているように思える。平面図では、白金台駅と「南北線分岐線」が重なっているが、実際には白金台駅の東側をかすめていく。高輪台駅は大深度地下を通るため、乗換えはかなり不便。品川駅まで徒歩12~15分だから歩いたほうが早いし、港区のコミユニティバス「ちいばす」が20分間隔で走っている。
そもそも計画の意図は白金高輪駅と品川駅を結ぶことにあり、迂回ルートは物理的な理由とコスト比較の結果だろう。構想ルートと実際のルートが異なる事例は多い。山岳路線は谷沿いを迂回するし、ループ線やスイッチバックだって迂回の一種だろう。それがたまたま都会で起きただけのこと。駅を設置すれば費用が増える。港区が請願し、費用負担すればできるかもしれないが、掛けたコストほど便益はなさそうだ。
■京急電鉄沿線からも期待されているはず
現在の東京メトロ南北線は、赤羽岩淵駅から北は埼玉高速鉄道と相互直通運転を実施し、目黒駅から西は東急目黒線と相互直通運転を実施している。2023年3月に相鉄・東急直通線が開通すると、相鉄線との相互直通運転も始まる予定となっている。東京メトロ南北線の駅を見ていくと、東京メトロの銀座線、丸ノ内線、千代田線、有楽町線、半蔵門線、都営地下鉄の大江戸線と新宿線に乗り換えられる。JR線とは四ツ谷駅、市ヶ谷駅、飯田橋駅、駒込駅、王子駅で連絡。王子駅で都電荒川線にも乗り換えられる。
東京都の資料は「品川と六本木・赤坂エリアのアクセス向上」「都心部の災害時迂回ルート」「周辺鉄道路線の混雑緩和」を挙げ、整備効果図では羽田方面も視野に入れている。品川と都心部だけでなく、都心部と羽田空港のアクセスも便利になる。
ところで、京急電鉄沿線に住んだことのある筆者としては、京急電鉄沿線にも大きなメリットを感じる。いままで京急電鉄と東京メトロの接点はなかった。京急本線は泉岳寺駅から都営浅草線に乗り入れているものの、都心部の東側をかすめていく。新橋駅で東京メトロ銀座線に乗換え可能だが、都営浅草線と東京メトロ銀座線の駅は少し離れており、乗換えのために地下街をくねくねと歩く必要がある。
品川駅で東京メトロ南北線に乗り換えられたら、もう一度乗り換えるだけで、東京メトロのほとんどのエリアにたどり着ける。大門駅で都営大江戸線と乗換え可能となったことで、以前と比べて不便さは多少軽減されたが、東京メトロのエリアに行くために、いったん都営地下鉄に乗るとなると運賃が高い。「品川駅に東京メトロの路線か来てくれたら、都心へ早く行けて運賃も安くて便利だな」と常々思っていた。
■そして「蒲蒲線」が進捗する…かも!?
もうひとつ、注目すべき動きとして「蒲蒲線」こと新空港線の進捗が挙げられる。新空港線は東急多摩川線の蒲田駅を地下化し、そのまま京急蒲田駅を通って、京急空港線の大鳥居駅に至る。本誌記事「『蒲蒲線』大田区と東京都の負担割合が決定 - 進捗するも先は長い」で紹介したように、新空港線の接続・直通に関しては、京急電鉄側の協力が不可欠になる。
しかし、京急電鉄としては、いままで都心部から品川駅乗換えで京急本線に乗っていた乗客を奪われかねない。もし東京メトロ南北線が品川駅まで到達したら、そして都営三田線も共用区間として乗り入れたら、京急電鉄の空港ルートの集客機能として大いに期待でき、新空港線建設の説得材料になるはず。もっとも、本誌記事でも紹介したように、「蒲蒲線」は事業主体も決まっていない。
「南北線分岐線」は6月22日に環境影響評価調査計画書が作られ、東京都から都知事に提出された。工事予定期間は約10年とのこと。過去の報道では、調査期間として2年を見込み、都市計画審議会に諮るなどであと2年を見込めば、約14年で開業見込みとされていた。2036年前後の開通といったところか。リニア中央新幹線が新大阪駅に到達する頃までに間に合いそうだ。