ソフトバンクグループは6月24日、第42回定時株主総会を開催しました。出席した株主数は114人(会場31人、オンライン83人)で、代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏を含む役員は(一部を除いて)会場で出席。株主からの質問は、会場、オンラインの両方から受け付けました。

  • ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏

armがあらゆる技術革命を牽引する

株主総会の前半、登壇した孫社長はあらためてソフトバンクグループの事業について説明。「ソフトバンクグループは、世界でも最大級のAIユニコーン企業の資本家です。今後の成長エンジンになるのは、ソフトバンク・ビジョン・ファンド事業(以下、SVF)と、armです」と孫社長。armについては「あらゆる技術革命を牽引する存在になる」として、さらなる飛躍に期待を寄せます。

  • SVFとarmの両輪で成長していくと説明

AI革命はまだこれからで、ソフトバンクグループの株式は長く持っていれば必ず上がる、と孫社長。ただ「ソフトバンクグループの株を“信用買い”している人がいるとしたら、気を付けてください。僕が言うんだから間違いないです。証券会社は5割くらいまで貸してくれますが、上がったり下がったりが激しいですから、ギリギリの勝負はやめて下さい。安心して眠れるように、ゆとりを持って長いお付き合いをお願いします」と、冗談を交えながら説明しました。

1時間を超えるプレゼンに「事務局から短くしてくれと言われたけど、つい気持ちが乗ってしまった」と反省の孫社長。このあと1時間かけて、株主からの質問に回答していきました。まずは、会場に来ている株主の質問から。

今後、SVFから中国アリババを超えるような投資先は何社ぐらい出てくるのか、と問われると「アリババを超えるとなると、475社のうち、まあ1社か2社か、うまくいって3社ぐらい。でも、その数社がドカンと当たると、それだけで全部を取り戻すぐらいのことだろうと思います。ベンチャーキャピタル投資ってのは、そういうもんだと思います」。ただ、SVFはアーリーステージのベンチャーキャピタルではなく(ユニコーンになる前後の)レイトステージの企業を対象にするため、当たる確率は高いとも主張。そして「未上場で急成長し、これからも大きくなる、アリババを超える可能性があるのは、我々のグループのなかではarm社ということになります。将来のGAFAに相当する規模になる可能性を持っています」と繰り返します。ちなみに10兆円、20兆円規模の企業であれば、SVFからは「いくらでも出てくる」とも説明していました。

  • SVFは475社に(2022年5月6日現在)

armをロンドンで上場させる考えについては「イギリスのさまざまな方からロンドンで上場させてほしい、と強いラブコールをいただいており、ありがたい。一方で、armのお客さんのかなりの部分が、シリコンバレーを中心としています。アメリカの株式市場からも、是非、我々の市場で上場してほしいとラブコールがありました。ありがたいことに、いろんなところからお声をかけていただいています。まだ決めてはおりません。専門家からも意見をいただいて検討しています。本命はナスダックですけど、まだ決めたわけではありません」。

来場した株主からは「アメリカのウォーレン・バフェット氏も91歳で、まだトップで頑張っております。ぜひ孫さんも、あと10~15年はトップを続けてもらって、全人類の希望の星となっていただきたい」という意見も。これに孫社長は「事業家としての孫正義は年をとりすぎていますが、投資家としての孫正義はまだまだやる気いっぱいです」と答えます。

ソフトバンクグループの株を21年間保有している、という株主には「すごい。21年間の途中には迷うこともあったんじゃないですか? 増やしていった? うわぁ、すごいなぁ。うちの宮内でも迷いはあったって言ってるんですよ」と驚いた表情。ソフトバンク代表取締役会長の宮内謙氏に視線を送ると、宮内氏は「迷いだらけだった」と答えて笑いを誘います。続けて孫社長は「株が高いときに買って、どん底を経験して、戻ってきた? こういう方はね、本当に我々の同志ですよね」。そのうえで「まだ40代ということで、もっともっと増やしたほうが良いんじゃないですか。まぁ信用買いは、あまりしない程度で増やして欲しいと思いますが」と話すと、会場も笑いに包まれていました。

  • ソフトバンク代表取締役会長の宮内謙氏

AIを武器に起業した日本の若者に投資したい

ここからはオンラインでの質問です。少し長い目で株価を見て欲しいとのことだが、あと何十年待てば良いのか、経営陣として行動が遅すぎるのではないか、という質問を受けると「いや、もういきなり辛辣な、目の覚めるような質問ですね。やっぱり、フェイス・トゥ・フェイスでは僕に聞きにくいことも、インターネットを通じると本音で質問が飛んできますね」と苦笑い。そのうえで「何十年までは待たなくて良いと思うんですけど、ただ半年後、1年後の株価を当てろと言われたら僕も困るというくらい、分からないもの。分かる人がいたら、その人は天才ですね。分からないから、みんな苦労してると思うんです。ただ、5年10年の単位で見れば、僕はかなり自信があるということです。桃栗三年、柿八年と、果物でもそのくらい時間がかかる。そのくらい持てばかなり美味しいものになるんじゃないかと、僕は自信を持っております」。

SVFによる投資先の価値が大きく下落しているように思えるが、今後の方針について教えてほしいと聞かれると「世界中の上場株の大半が下落しています。でも、僕の信じているものは微動だにしてない。インターネット革命、情報革命の進化は始まったばかりで、そこに逆張りはしない、ということです。LTV(純負債 / 保有株式)を25%未満にして、ほどほどに抑えて安全運転をする。こういう方針であります」。

  • LTVの推移

チャイナリスクについては「難しいですね。難しいっていうのは、技術の進化は間違いなく中国でも起きています。素晴らしいAI技術を持った会社が続々と現れて、急成長している。ただ中国の場合は、政府の方針が大きな影響を与えます。この政府の方針は、僕らには分からない。だからその政府の方針を注意深く見守りつつ、無茶はしない。ちなみにソフトバンクグループの保有してる株式資産の圧倒的大半が、アリババという時期もありました。1年半前です。アリババこけたら皆こけた、というのが1年半前。いま現在はアリババの比率は20%前後です」。ここでも安全運転で用心しながらやっていきたい、と説明しました。

日本のベンチャー企業にもどんどん投資をして欲しい、という意見には「SVF 2では国内企業4社に投資しております。ただ、日本のAI分野におけるユニコーンの数は、あまりにも少ない。イギリス、インド、インドネシアと比べても少ない。日本のGDPは世界3位ですよ。もっと数多くのAI企業がないといけない」。日本の若い起業家はAIを武器として使って、どんどん大きくしてもらいたい、ある程度の規模に育ったところでSVFが投資する、と説明しました。

僕の役員報酬は“実質ゼロ円”

配当金額がずっと据え置きになっている件については「増配した方が良いのか、自社株買いした方が良いのか、どっちかだと思うんです。増配は、そのときに株主だった人が配当を受け取って、翌日いなくなっても問題がない。短期的な株主にとっては良いのかも知れません。でも自社株買いなら、持っている1株あたりの財産が増えるわけです。自社株買いの方がベターな気はします。配当はある程度、やっぱり続けた方が良いとも思いますが。安定的な配当をしたい。どちらが、より優先的な株主還元かと言うと、僕は自社株買いの方が良いような気はします」。

別の株主からも、さすがに配当が少ない、44円は縁起も悪いので77円に増配するのが良い、『やりましょう』宣言お願いします、と言われると「いやいやいや、勘弁してくださいよ。そこで『やりましょう』とか、ノリの良い僕に言わせないで欲しいと思います」と笑いながら回答。

赤字なのに役員報酬が多すぎるのではないか、という意見には「多すぎますかね。まあ、今年は赤字ですけどね。1年前は6兆円の利益を出しました。僕の役員報酬は、ソフトバンクグループとソフトバンク株式会社の両方を足して1億円ですが、全額を寄付してますから、僕の役員報酬は実質ゼロ円なんです。少なくとも、僕は多すぎないと思います」と苦笑い。続けて「6兆円とか利益を上げていたときの報酬は、欧米の役員報酬に比べれば、結構低い方じゃないかと思います。我々はグローバル企業ですから、欧米の経営陣も取っていかないと強みを活かせませんし」。執行役員の報酬ということで言えば、世界的な他の企業と比べてもかなり安い方じゃないか、と説明しました。

  • 「僕の役員報酬は“実質ゼロ円”」と発言して笑いを取った孫社長

さらなる自己株式の取得をする考えについては「やりますよ、一言で言えば。今までも何回もやりました。ただ毎年、いくらやるかというと、それは言うべきじゃないですね。そのときそのときの状況を見て判断して、判断したらシュパッと発表する。いま、どこの会社に投資したら良いんだって話を聞きますが、僕自身は、ソフトバンクの株が1番安いと思っている。だって20兆円を超える株式を持ってて、数兆円の借り入れ額ですから。差し引き20兆円弱の純資産を持っていますから。安いと思ってるから、自社株買いを実施しているんですね」。

子会社のソフトバンクが上場してから好業績、高配当を続けているにもかかわらず、株価が公開価格1,500円くらいで頭打ちになっているのは、常に業績が安定しない親会社の資金需要にさらされているためではないか、という意見には「まあねぇ...。宮内、あなたじゃあ一言、コメントしてくださいよ。いつもね、宮内から言われてんですよ」と孫社長。

促されて、宮内氏は「あの本当にね。ソフトバンク株式会社の株価が1,500円を超えると、また下がったりして。ちょうど昨日、株主総会で1,500円を超えたんですけど。本当に、株主の方から『いつになったら1,600円、1,700円、...そして2,000円くらいになるんだって言われているんです。まあ、ただ我々の軍団はですね、通信事業だけでなく、Yahoo!、LINE、ZOZO、PayPayという形で、新しい事業を次から次へと増やしている。そういう意味では、非通信のビジネスモデルBeyond Carrier戦略は着実に成功しています。5年~10年を見ていただければ。私の後継でCEOを務める宮川(潤一氏)が、非常に高いビジョンでなおかつ10年計画をガッチリ作っておりますし、これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします」としたうえで、「まぁいまのご質問にあったのは、多分、ソフトバンクの株を親会社が売るんじゃないかということを牽制したご意見だったと思いますので、私はそれは非常に嬉しく思いました」と核心を突くひとこと。これには孫社長も「ソフトバンクの株を売らないで済むように、頑張りたいと思っております」と苦笑いしていました。