ワコムは2021年に引き続き、世界中から約1万人のクリエイターが参加する大規模オンライン作画フェス「Drawfest3」を、ピクシブと共同開催しています。今回は、1週目の6月18日にStudy day(学ぶ日)を、2週目の6月25日にFeedback day(発表する日)を実施する構成です。

  • 今年もワコム×ピクシブの「Drawfest」が開催

    今年もワコム×ピクシブの「Drawfest」が開催

本稿では18日にYouTube Liveにて限定公開配信されたプログラムの中から、クリエイターのMika Pikazoさん、はなぶしさんによるセッションの模様をお伝えしましょう。

Drawfestとは?

Drawfestは、視聴者参加型のオンラインイベント。2021年5月に1回目、2021年12月に2回目を開催。そして2022年6月、3回目となる「Drawfest3」が行われています。

Drawfest3から、講師のレクチャーと参加者の作品に対する講評を分けて行うようになりました。Study dayでは人気イラストレーター・アニメーターが、絵の描き方や創作テクニックを解説。

Study dayでの学びをもとに、視聴者は1週間内で作品を制作。翌週のFeedback dayで登壇者がpixivに投稿された視聴者の作品を取り上げ、改善点などのアドバイスを行い、最終的にプログラムごとの受賞作品を選出していく流れです。今回も、ワコムの液晶ペンタブレット「Wacom One」など豪華賞品が用意されています。

  • 受賞者にはワコムの液晶ペンタブレット「Wacom One」が贈呈されます

    受賞者にはワコムの液晶ペンタブレット「Wacom One」が贈呈されます

さて、18日のプログラムではMika Pikazoさんが、はなぶしさんに「目のまばたき」や「風に舞う髪の毛の表現」などのコツを教わっていきました。元東映アニメーション所属のアニメーター・イラストレーターである、はなぶしさん。一体どんなアドバイスをし、Mika Pikazoさんの作品はどのように成長していくのでしょうか。

出会いで開けた、アニメーションの世界

  • もともと、はなぶしさんのファンだったというMika Pikazoさん。ひょんなことからアニメーション制作にトライしました

    もともと、はなぶしさんのファンだったというMika Pikazoさん。ひょんなことからアニメーション制作にトライしました

その冒頭、アニメーションについて「面白そうだけど本当に大変そうで、怖いなって思っていた」と明かしたMika Pikazoさん。それでも、TwitterではなぶしさんからコメントをもらったのをきっかけにDMを送り、レクチャーを受けたことでアニメーションの世界が開けた、と振り返ります。これに対し、はなぶしさんは「何かを教えた、って感じではないです。ひと言、ふた言を伝えただけです」と控え目なコメント。

  • YouTube Liveでは、ふたりの手元が映し出されました

    YouTube Liveでは、ふたりの手元が映し出されました

続けて、Mika Pikazoさんは、「いまの若いイラストレーター、アニメーターの方は1人でどんどん学んでいてすごいと思う。自分の場合は、アニメに必要なソフトはどれで、何をしなくちゃいけないのか、ということがわからなかった。だから、はなぶしさんに見てもらえたのが本当にありがたくて、挑戦しようという気持ちになれました」と感謝を伝えていました。

今回の使用ソフトは、アニメ制作で広く使われ、Mika Pikazoさんもイラスト描画で慣れ親しんでいた「CLIP STUDIO PAINT」(通称:クリスタ)。アニメへの挑戦がスタートしました。

「まばたき」の研究

まず作ったのは、まばたきのアニメーション。Mika Pikazoさんは「最初は眉毛を動かさずに、目だけを閉じていた。表情が連動していなかったんですね。はなぶしさんに、眉毛を動かすと感じが出ることを教えてもらいました。修正したら、自然な表情に。目を閉じるのと連動して、眉毛がちょっと下がるんですね」と解説。

  • まばたきのアニメーションに挑戦

    まばたきのアニメーションに挑戦

ドラゴンボールなど、有名なアニメにも携わってきたはなぶしさん。目を閉じる動きについては「3枚くらいで表現することも多いんです」と明かします。

Mika Pikazoさんは「目を軽く閉じるコマも加えたほうが、なんか可愛いかなって思って。そこで真ん中のコマを増やしたら5枚くらいになりました」と説明。これに対してはなぶしさんも「色々考えながら、どうやったらよく見えるかなって試行錯誤していくこと、とても重要です」と応じます。

これをもとに、Mika Pikazoさんは、細部まで詳細に描き込まれたイラストレーションがアニメのように動く作品を完成させました。

はなぶしさんは「目の周りの模様も、まばたきに合わせてちゃんと動いている。これはもう本当に“イラストアニメーション”っていう新ジャンルだと思う。アニメって、簡潔な絵を目指すべきって発想があるんですが、やっぱイラストから入った人だから、描き込みが多くてすごい。普通だったら、これを動かす段階で心が折れるはず」と絶賛。一方、描いた本人は「どうして、こんな細かい模様まで入れてしまったんだろう、でももう戻れない、と思いながら描きました」と、笑いながらも制作の苦労を語りました。

  • Mika Pikazoさんの作品。瞳のなかでハイライトが小さく動き、目を閉じた後も目尻が揺らぐなど、細かい芸にはなぶしさんも「完成形を目指す執念が違うなって思いました」と称賛

    Mika Pikazoさんの作品。瞳のなかでハイライトが小さく動き、目を閉じた後も目尻が揺らぐなど、細かい芸にはなぶしさんも「完成形を目指す執念が違うなって思いました」と称賛

ここで、はなぶしさんがワンポイントアドバイス。「無意識のとき、つまり目が乾かないようにまばたきをするときって、動きが速いんです。でも“演出的な意味合い”を持って、何かの決意の中でまばたきをするときは、ゆっくりした動きになる(つまり、作画枚数が多くなる)。アニメの現場では、登場人物の心情を考えながら描きます。まばたきひとつでも、芝居になるんです」と話していました。

髪がなびく動きに挑戦!

次にMika Pikazoさんは、髪の毛が風でなびく動きに挑戦。風が下から吹き、髪の毛全体がフワっと持ち上がるシチュエーションです。作ったものをはなぶしさんに見せて、修正点を教えてもらったそう。

「髪の根元から毛先に向かって動く表現があると、リアルになることを教わりました。髪が何度も波が打つように表現できた。髪の毛が細く、軽くなったような、ちゃんと“モノ”としての立体感と重さが出て、自分でも驚きました」(Mika Pikazoさん)

  • 修正前(上)と修正後(下)。風で前髪と後頭部がふんわり膨らみ、風が上に逃げて毛先が広がり、根本が元の位置に戻り始め、やがて全体が落ち着く、この4枚をリピートします

    修正前(上)と修正後(下)。風で前髪と後頭部がふんわり膨らみ、風が上に逃げて毛先が広がり、根本が元の位置に戻り始め、やがて全体が落ち着く、この4枚をリピートします

「4枚リピートはなびきの基本です。テレビアニメでもよく使われます。これが爆風になると、スピードがめちゃめちゃ速くなる。だから2枚リピートで表現することもあります。1、2、1、2と2枚の絵を繰り返すだけでも、なびいているように見えるんです」(はなぶしさん)。

  • はなぶしさんによる、1コマずつの丁寧な解説。勉強になります

    はなぶしさんによる、1コマずつの丁寧な解説。勉強になります

YouTube Liveのコメント欄には、視聴者から「躍動感がすごい」「風を感じますね」「アニメーションの表現って奥深いな」「思ったよりも少ない枚数で表現できるんですね」といった声が寄せられました。

アニメからイラストへ良いフィードバックも

Mika Pikazoさんは、アニメーション製作で得た気づきをイラスト制作にもフィードバックできている、と明かします。

「それまでイラストでは、線画を1枚にまとめてパパっと仕上げちゃおうという意識があったんですけど、アニメーションをやってから、髪の動きなどを考えるようになって。例えば、髪の毛をレイヤーで塗り分けて、後ろの髪だけぼかしたり。空間を意識したりするようになったんですね。以前は1枚のイラストとして綺麗なものを目指そうと思っていたんですけど、アニメをやってから、髪の毛の動きを表現することの面白さに気づきました」(Mika Pikazoさん)

  • アニメで得た気づきをイラスト制作にも活かしているそう。その例として、自身がデザインした「プロジェクトセカイ」1.5周年の記念衣装をまとった初音ミクのイラストを挙げました

    アニメで得た気づきをイラスト制作にも活かしているそう。その例として、自身がデザインした「プロジェクトセカイ」1.5周年の記念衣装をまとった初音ミクのイラストを挙げました

完成したイラストを前に、はなぶしさんは「確かに躍動感がありますね。動いている途中の感じが出ている。身体をねじっているから、髪の毛が遅れてついてくる。動作の遅れとか、空間を描きたいっていう考え方は、すごくアニメーション的です。そこを考えるのが多分、アニメの楽しみの1つ。僕も、これがこういう風に動くから、こうなる。これを動かすときに以前は何があったか、なんて考えながら組み立てています」と、自身の体験も振り返って話します。

それから、はなぶしさんは初音ミクが頭を振ったときのツインテールの動きを、いちからアニメーションで表現。手早く動きが作り上げられていく様子に、視聴者は一様に驚きの声をあげていました。

  • 初音ミクのツインテールの動きを再現

    初音ミクのツインテールの動きを再現

アニメーションで大切な「芝居の順序」

最終段階として、Mika Pikazoさんは目のまばたき、髪のなびき、頭を振ったときの髪の動きを取り入れたアニメーションを作成。はじめに横目でこちらを見ていた初音ミクが正面を向き、そのとき風が吹いて髪がなびき、初音ミクは笑顔になる、という一連の流れです。

Mika Pikazoさんは、「とりあえず製作したものをはなぶしさんに送ったんですが、分からない部分もあって、悩んでいたんです」と振り返ります。

  • Mika Pikazoさんがつくった最初のラフ

    Mika Pikazoさんがつくった最初のラフ

動画を目にしたはなぶしさんは「芝居の順序を整理する」ことの大事さを伝えたそうです。

始めは横目でこちらを見ている初音ミクが、次に正面を向く。そこには何か理由が必要になる、とはなぶしさん。「何かが舞い降りたのか、上空からやって来たのか。風が吹いた理由も、それでしょう。初音ミクは一瞬面食らいますが、正面を向いて笑顔になる。その『芝居の順序』を整理するとストーリーが生まれますよね」と解説。

  • 一連の動きからストーリーが生まれる

    一連の動きからストーリーが生まれる

これに対して、Mika Pikazoさんは「最初のラフを作ったとき、動作の意味なんて全然考えてませんでした。キャラクターがリアクションするからには、何らかの理由があるんだ、ただ動いてるわけじゃないんだ、ということを教えてもらいました」と感心。YouTube Liveのコメント欄には、視聴者から「動作の理由を考えるのか」「イラストもアニメも、ストーリーが大事なんだなぁ」といった書き込みが見られました。

ここで、はなぶしさんからワンポイントアドバイス。

「キャラクターのアイデンティティって、わりと髪型によるところがありますよね。髪型が変わると、全然違うキャラクターになっちゃう。だからアニメーターも、最初のうちは髪のなびきを描けないんです。でも、別のキャラに見えてしまうことを恐れてはダメ。初音ミクでも、あの髪型が崩れると別のキャラに見えてしまう怖さがある。でも動いたら、案外大丈夫なんです。なびきはビビったら負けです」(はなぶしさん)

「なびきはビビったら負け」という痛快なフレーズに、Mika Pikazoさんも「名言!」と反応。そして、Mika Pikazoさんが完成させた作品は、はなぶしさんも「すごく美しいです」と絶賛する出来栄えに。

Mika Pikazoさんは「これを描いたときに思ったのは、アニメーションってこんなに大変なんだな、ということ。髪の毛を動かすコマが全部で17枚くらいあり、それだけ絵を描かないといけなかった。楽しいけれど、思ってたより時間もかかっちゃった。すごく短い秒数でも、色んな苦労がある。でも教わったカメラワークなども意識して、ストーリーがあるものを描けたかなと思います」と満足げ。

  • Mika Pikazoさんが完成させたアニメ作品

    Mika Pikazoさんが完成させたアニメ作品

はなぶしさんは「1枚1枚がイラストになっている。良い描き込み具合ですよね。CLIP STUDIOだけで、ここまで完成度を高めたとは。1枚あたりのクオリティがすごい。アニメーションをどこでストップしても1枚絵のイラストで、まさに『イラストが動いている』って感じがします」と驚いていました。

ループがうまくつながらない…、視聴者のお悩みに回答

講座のあとは、視聴者から質問が寄せられました。

アニメーションに必要な線の太さについて聞かれると、はなぶしさんは「こうしなきゃいけない、っていう決まりはないんですが、線を太くすれば押し出しの強い絵になるし、細くすれば色の中に溶け込んだような画面になる。どんなイメージを目指したいかによって線を描くと良いと思います」と回答。

「アニメーションのループがうまくつながらない」という質問には、「さっきの髪のなびきのアニメですね。4を描いてるときに1につなぐことを逆算して描いていきます。2や3を描いているときに4のことも考えますし…。こればっかりは、数を描いて慣れていくしかないですね。自分の中にパターンを作っていく、ということでしょうか」とはなぶしさん。

Mika Pikazoさんには、どういう基準で色を選んでいるか、という質問が。「イラストを描くとき、この色を使おうと決めているわけではないんですが、自分の場合はカラフルで激しい、ビビットな色を使うことが多くて。そのときに基準となるのは、自分が見ても目が痛くならないレベルに抑えること。派手であればあるほど良いってわけでもなくて、遠くから見てもちゃんと目立つ、けれどうるさくないっていうところを大事にしています。あとは、白と黒の比率にも気を付けています」と答えていました。

オススメのアニメーション製作の練習方法について聞かれると、はなぶしさんは「1つはロトスコープという方法があります。自分の動きをスマホで撮って、その上からなぞっていく方法ですね。これやると、かなり掴めると思います」と回答。

Mika Pikazoさんは「私も初心者なんですが、まずは目をパチパチまばたきするところから始まって、髪の毛を動かしてみて…と、基礎的な部分を勉強して、それでそれを応用したアニメーションを作ってみて、その何個かをまとめてアニメーションにする、っていうのが自分の中では良い練習法かなと思いました」と答えました。

課題テーマは「風」、Mika Pikazoさんも挑戦

最後に、Feedback dayの課題が発表されました。テーマは「風」。イラストアニメーションの基礎表現である、まばたき、なびき、振り向きのいずれか、または複数を使ったアニメーション制作に取り組みます。

動画の時間は6秒以内で、指定の3色を含めるという条件があります。投稿企画の開催期間は6月30日まで。受賞作品は、6月24日までに投稿された作品から選考されるとのこと。

  • Feedback dayの課題。色については、指定の3色+他の色も使ってOK。運営からは「pixivでは動画投稿はできないので、今回のプログラムはアニメーションGIFでpixivに投稿するかたちになります」との説明もありました

    Feedback dayの課題。色については、指定の3色+他の色も使ってOK。運営からは「pixivでは動画投稿はできないので、今回のプログラムはアニメーションGIFでpixivに投稿するかたちになります」との説明もありました

Mika Pikazoさんは「私も同じ『風』のテーマでこの1週間、アニメーションを作る予定です。その製作過程も私のTwitterアカウントで公開できたらと思っているので、もしよかったら一緒に、アニメを頑張って作っていきましょう」と、参加者に呼びかけました。

無事にYouTube Liveを終えて、Mika Pikazoさんは「まだまだ、はなぶしさんに教えてもらいたいことがあります。またこういう形で、皆さんに話せる機会があったら嬉しい。イラストアニメーションって本当に楽しいので、これを機に一緒にスタートしてくださる方がいたら嬉しいです」とコメント。

はなぶしさんも「僕自身、人に教えて初めて自分が考えていることが言葉にできた部分がありました。僕ってこういうこと考えてたんだな、と思った。こういう機会を与えてもらって、本当にありがたかった。すごく楽しかったです」と応じていました。