売れすぎて入手困難な状態が続く「ヤクルト1000」。売れすぎて店頭でも宅配でもなかなかお目にかかれず、もはや幻の存在。健康・美容に詳しい医師・医学博士の木村至信(しのぶ、通称キムシノ)氏と時事ネタトークした。

  • ヤクルト1000は熟睡、悪夢、どちらを招く?

ヤクルト1000を知っている?

ヤクルトとは、株式会社ヤクルト本社が販売する乳製品乳酸菌飲料の商品名、またそのブランドのこと。発売は1935年と歴史は古い。整腸作用がある乳酸菌シロタ株を配合していることでおなじみだ。

――先生、乳酸菌シロタ株って一体なんですか?

キムシノ氏 「乳酸菌シロタ株については、さまざまな考え方があります。同株は主に良い菌を増やし悪い菌を減らす、腸内の環境を改善する、お腹の調子を整えるといった働きがあるようです。日本細菌学会の説では、『ヒトが飲んでも、胃液や胆汁に負けないよう強化培養されており、生きて腸まで届く』と説明されています。乳酸菌などの腸内善玉菌は乳幼児期がピークで、どんどん減って60歳ごろには10分の1ほどになってしまうので、食品や飲料で補う必要はあるでしょう」。

ヤクルト1000の1000は実は1000「億個」

これまで、ヤクルトにはシロタ株を増量した「400」などもあったが、今話題のヤクルト1000は、その名の通り、1000! どころか、単位は1000「億個」。実はヤクルト1000、2019年10月に国内の宅配ルートで発売されていたが、2021年末ごろから、人気が爆発。

ネットユーザーから「よく眠れるようになった」「朝の寝起きが最高」など、なぜか睡眠関連の投稿が相次いでいるのだ。

――お腹の働きを整える働き以外に、睡眠にも作用するんですか?

キムシノ氏 「頭とお腹で場所は離れていても、脳と腸は互いに影響を及ぼし合っていて、この関係を『脳腸相関』といいます。さらに、脳腸相関には、腸内にすむ腸内細菌が大きな役割を果たしていることが分かり、『脳-腸-微生物相関』といわれるようになったのです。そして、その脳-腸-微生物相関に乳酸菌がひと役買って、腸内環境を整えて脳内ストレスを取り除き、安眠に至るというわけです」。

――ヤクルト1000で睡眠の悩みが解消した人って、腸内環境に問題があったのかもしれませんね。

キムシノ氏 「睡眠時間は十分なはずなのにすっきり目覚められないなどの場合は、睡眠の質が良くないのかもしれません。質の良い睡眠には、リズムと深さも大切です。睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠があります。閉じたまぶたの下で眼球がきょろきょろ動いているレム睡眠と、ぐっすり眠って眼球が動かないノンレム睡眠です。その2つの睡眠の周期的なリズムと、ぐっすり眠っているノンレム睡眠の時間が大切なのです。

よい睡眠のためには、適度な運動や規則正しい食事なども大切ですが、腸もその鍵を握っていることが分かってきました。緊張するとお腹が痛くなったり、環境が変わると便秘をしたりという経験はありませんか? 古くから、経験的に、脳の状態が腸に影響を及ぼすことは知られていましたが近年、それとは逆に、腸の状態の変化が、脳に影響を及ぼすことが分かってきました」。

いくらいいものでも過信は禁物

睡眠や整腸に良い作用があるのは分かった。実際、ヤクルト1000はトクホ、つまり特定の保健の目的が期待できる機能性が表示された食品「特定機能性食品」だ。でも手に入らないし、過度の期待も良くないのでは。

また、「悪夢を見た」というSNSの投稿も少なくない。確かにどんなにいいものでも、体質的に合う、合わないはあるのだろう。

――例えば、機能性をうたうヨーグルトと、睡眠ホルモンといわれる「メラトニン」のサプリを取れば、ヤクルト1000の代用になりそうですがどうでしょう?

キムシノ氏 「いいところに気づきましたね。正直言えば、代用になります! メラトニンサプリ以外に、ヒトの20%を占めるアミノ酸の一つグリシンや、DHA、EPA、DAGE(ジアシルグリセリルエーテル)は、一時的に睡眠に不満を感じている健康な方の深睡眠とレム睡眠の割合を増加させることで、睡眠の質を向上させる機能があります。さらに、一時的に活気・活力が低下している方の不安感・緊張感・気分の落ち込みを和らげ、一時的な活気・活力の向上と日中の眠気の軽減に役立ちます。

ちなみにビフィズス菌は大腸に働きますが、これにもメンタルを安定させたり、睡眠を整えたり、免疫を上げたりする力があります。乳酸菌は種類がたくさんあり、ガセリ菌のサプリも効果があるようです。ただこのシロタ株のすごいところは、大半の成分が胃酸で分解されて失活する中、かなりの濃度で腸まで届く強靭な乳酸菌であることは、特筆できると思います」。

――それと、寝る前に飲むと、糖質が気になりますよね。

キムシノ氏 「夕食後に飲むのが、一番効果的なようです。個人的にあの甘さや味は好きですが、たくさん飲めば糖質が気になりますね。例えば別商品『Newヤクルトカロリーハーフ』にはシロタ株は200億個ですが、1本あたりのカロリーは半分になります。それから、実際は乳酸菌のエサになるオリゴ糖も一緒に取るのが効果的で、カロリーゼロのオリゴ糖入り商品は販売されています。ヨーグルトにオリゴ糖を入れるのも良いです」。

日常的にヨーグルト、疲れたらヤクルト1000

欧米はコロナ禍を乗り越え、日本も屋外マスクの解除など雪解けの雰囲気はあるが、「なんとなく不安が残る。体の免疫を整えてくれるものが知りたい」という人々の動きにスッポリはまったのではと、このブームについてキムシノ氏は指摘する。

キムシノ氏 「実際的には、即効性や効果は劇的なものではないでしょう。半年飲んだあたりで、気づけば良くなったみたいな感じだと思います。また、どれだけ飲んでも疲れていれば悪夢も見ます。

ただし、体に悪いものではないので、摂取は問題ないです。体調管理をより意識したいなら、夏場にエアコンを効かせすぎない、適度な運動、食事のバランスに気をつけるなどの努力が必要でしょう。私はお腹が弱いので、200億個くらいで十分ですし、ヨーグルトを毎日食べているので、時々疲れたら飲むくらいがちょうどいいです」。

取材協力:木村至信(きむら・しのぶ)

横浜市の馬車道木村耳鼻咽喉科クリニック院長・産業医・医学博士。テレビやラジオのレギュラー番組を持つタレントでもあり、「木村至信BAND」でメジャーデビューする女医シンガーの一面も。