このほか、気泡があるとなぜウィスカー結晶が成長するのかについての調査として、気泡と同じサイズ程度の細管でOTPを結晶成長させたところ、OTPの結晶は液体と触れていないにも関わらず、結晶が成長し続けることが判明。結晶成長のためには分子の供給が必要であり、成長速度などからも、液体からではなく気泡から分子が供給されていることが示されたとする一方、気泡は小さくならないことは、気泡の分子量が変化していないことを意味しており、この結果から結晶への供給量と液体からの蒸発量のバランスが取れていることが示唆されたと研究チームでは説明。これらの事実は、液体から気泡に蒸発し、気泡から結晶へ蒸着しながら結晶成長していることを意味し、ウィスカー結晶の成長過程は通常の結晶成長とは異なる機構であるといえるとしている。
なお、ウィスカー結晶の形成機構が、(1)気泡の発生、(2)気泡を介しての結晶成長であることが明らかになったことから、同結晶を抑制するためには、(1)の気泡発生を抑えれば良いと推察されたことから、アセトンのような有機溶媒を混入することでキャビテーションを抑えられると考察。実際にトルエンもしくはアセトンを1%溶かした系で実験したところ、気泡は発生せず、ウィスカー結晶が形成されないことが確認されたとする。
今回の研究成果は、ウィスカー結晶を制御できる可能性を示すと研究チームでは説明するほか、ウィスカー結晶が形成できなかった物質でも、意図的に気泡を混入することで、ウィスカー結晶の成長が実現するかもしれないとする。また、今回の研究では詳細な調査が行われていないが、気泡のサイズとウィスカー結晶のサイズにも関連がある可能性があることから、ウィスカー結晶の細さの制御も期待できるとするほか、今後、研究を発展させることで、将来的にはナノワイヤーの作成など、さまざまな応用も期待できるとしている。