アップルは、秋に正式リリースを予定する「watchOS 9」の新機能を世界開発者会議(WWDC)で発表しました。多くのApple Watchユーザーに人気のアプリ「アクティビティ」と「ワークアウト」がどのように変わるのか、米AppleのCOO(最高執行責任者)であるジェフ・ウィリアムズ氏と、フィットネスヘルステクノロジー担当シニアディレクターのジェイ・ブラニク氏にインタビューしました。

ワークアウトアプリのユーザーインターフェースが大きく進化

ジェイ・ブラニク氏は、Apple Watchの誕生時からwatchOSによるフィットネス体験のデザインに携わってきた責任者です。

  • 米Apple フィットネスヘルステクノロジー担当シニアディレクター ジェイ・ブラニク氏

ブラニク氏は「私たちはフィットネスの初心者からエキスパートまで、あらゆるタイプのApple Watchユーザーに健康の維持・増進へのモチベーションを高めてもらうため、さまざまな機能を開発してwatchOSに載せてきました」とコメント。

「体を動かす動機になり得ることは、人それぞれに違うことを私たちは知っています。だからこそ、最新のwatchOS 9にも多彩な新機能を追加します。たくさんのApple Watchユーザーに使ってもらえることを、私たちも心待ちにしています」

watchOS 9の新機能は、さらに使いやすくなる「ユーザーインターフェース」、パフォーマンス測定のためのより詳しい「メトリクス(指標)」、そしてワークアウトを次のレベルに押し上げる「ユーザー体験」と深く結びついています。

ワークアウトの実践中、Apple Watchの画面にリアルタイムに計測されるさまざまな情報が、Digital Crownを回してビューを切り替えるだけで参照できるようになります。

watchOS 9の新機能である「心拍数範囲」を表示するビューも便利そうです。現在のところ、アクティビティリングの進捗は、ワークアウト中はアプリを切り替えないと見られません。Digital Crownを回してアクティビティリングのビューに切り替えると、素速くデータが確認できます。

  • ワークアウトの計測中にDigital Crownを回してビューを変更。アクティビティリングの進捗が素速く確認できるようになります

心拍数範囲を自動測定。ワークアウトがカスタマイズできる

Apple Watchが内蔵する心拍センサーが計測した「心拍数範囲」は、トレーニングの効率アップにも役立てられます。

ウォッチをペアリングしたiPhoneのヘルスケアアプリから、ユーザーの年齢を登録。Apple Watchが計測した安静時心拍数のデータをかけ合わせて「5つの心拍数範囲」が自動的作成されます。

  • ヘルスケアアプリに登録されているユーザーの情報をもとに、パーソナライズされた「5つの心拍数範囲」が計測されます

心拍数範囲は、ワークアウトの強度を調整するための指標にもなります。サードパーティのデベロッパーが作るiOS/watchOS対応のワークアウト系アプリも、コーチング機能などがさらに充実するかもしれません。

「心拍数範囲は、ユーザーのフィットネスレベルの変化に応じて30日ごとに自動更新されます。Apple Watchのテクノロジーがトレーニングの効果を最大化し、ユーザーのフィットネス向上を支援できることをとてもうれしく思います」

こう語るブラニク氏が、最も気に入っているというwatchOS 9の新機能のひとつに、ワークアウトアプリに追加される「カスタムワークアウト」があります。

ワークアウトと休憩のインターバルをユーザー自身が設定して、複数のカスタムトレーニングのメニューが保存できます。運動と休憩を繰り返すカスタムトレーニングは、アクティビティが切り替わるタイミングをApple Watchの触感フィードバックか、または音声で知らせてくれます。

ブラニク氏は「屋外フィールドでHIIT(高強度インターバルトレーニング)を実践したい時にもカスタム機能が役立つでしょう」としています。アクティビティのペースや強度、サイクリングの場合はケイデンス(回転数)など計測値を通知するように設定をカスタマイズすることも可能です。

  • ユーザーが自身で作成したカスタムトレーニングのメニューを保存。繰り返し実践できます

さらにApple Watchは、屋外ウォーキング・ランニング、ハイキングのワークアウトを実践する際に「心拍数回復」の推定値も解析できるようになります。心拍数回復の履歴はヘルスケアアプリに記録され、グラフや数値を見ながら時系列の経過もたどれます。

本格的なアスリート向けの新機能も充実

watchOS 9には、積極的に体力づくりやスポーツ競技の成績向上を目指すエキスパートも大満足の、上級者向けワークアウト機能も追加されます。

ブラニク氏は、エキスパートにぜひ使ってもらいたい新機能として「マルチスポーツ」をアピールします。マルチスポーツを選ぶと、Apple Watchのモーションセンサーを活用して、スイミング/サイクリング/ランニングの“トライアスロン競技”が、ワークアウトの節目ごとに止めることなく計測できるようになります。ラン・バイク・ランの2種目によるデュアスロン形式の計測にも対応します。

  • 種類の異なる3つのワークアウトを自動で切り替えながら記録する「マルチスポーツ」

筆者は、Apple Watchのワークアウトをおもに屋外ランニングに活用しています。watchOS 9から「ランニングフォーム指標」が記録できるようになるのが楽しみです。ブラニク氏も、Apple Watchランナーに向けて次のように呼びかけています。

「watchOS 9から、ランニング中の『歩幅の長さ』『接地時間』『上下動』などのデータ指標をワークアウト中にApple Watchで確認したり、iPhoneのフィットネス/ヘルスケアアプリに記録が残せるようになります。従来は、これらのデータを測定するためにさまざまなセンサーが必要でした。アップルの開発チームは、Apple Watchが内蔵するセンサーだけで正確な測定を行うアルゴリズムを作りました。ランナーの皆さまのモチベーション向上に役立ててもらいたいと思います」

  • 歩幅や上下動など、ランニング中のフォームの指標を確認しながら美しい走り方が追求できます

これだけ本格的なアスリート向けの新機能が揃ってくると、秋のwatchOS 9の登場ととともに「スポーツタイプのApple Watch」が出てくるのではないかと筆者は勝手に盛り上がっています。

iOS 16からiPhoneが単体でフィットネス計測に対応する

アップルデバイスによるフィットネスの「ユーザー体験」を、Apple Watchを持っていないiPhoneユーザーも楽しめるように、iOS 16からiPhone単体でフィットネスアプリの一部機能が使えるようになります。

例えば、iPhoneを持って歩き回るとアクティブカロリーの消費量が計算され、アクティビティの「赤いリング」に反映されます。1日のゴールとして設定した目標値に対して、ユーザーがどの程度体を動かしてきたか、ムーブリングの完成度が目安になります。

  • iOS 16から、iPhone単体でフィットネスデータの計測ができるようになります。データを家族や友人と「共有」する機能も、Apple Watchのユーザーと同様に楽しめます

ヘルスケアの領域を統括するCOOのジェフ・ウィリアムズ氏は「いつもユーザーの身近にあるApple Watch、iPhoneが多くの人々のヘルスケアを支えていることが私たちの誇り」と語っています。

「アップルは科学的知見に基づいた、正確で信頼性の高いヘルスケア機能をユーザーに提供することをポリシーとしています。同時に、私たちはユーザーのプライバシーを守ることを最優先に位置付けて、さまざまな機能やサービスを開発しています」

ユーザーの健康に関わるデータは最も慎重に取り扱われるべきであると、ウィリアムズ氏はインタビューの間にも繰り返し強調しました。

  • 米Apple COO(最高執行責任者)のジェフ・ウィリアムズ氏

ヘルスケアのデータは、緊急時に必要なメディカルIDを除き、すべてデバイス上に暗号化された状態で保存されます。サーバー上で管理されるデータ、およびデータの送受信時にも強固な暗号化処理がかけられます。ヘルスケアに関わる情報は誰と、どのような内容について共有するかユーザー自身が決定できます。その情報は、アップルが読み取ることはできません。

アップルが気合いを込めて開発した、watchOS 9とiOS 16のアクティビティ、ワークアウトの新機能を試せる機会が今からとても楽しみです。近日開始が予告されているApple Beta Software Programにも注目ですね。