「1日3つチャンスを書く」「ノートに書いたチャンスを見返す」、この2つを繰り返すことで自分の進むべき道が見えてくるノート・メソッド「ミーニング・ノート」をご存じでしょうか。2019年にそのノウハウを綴った書籍が発売されて以降、先の見えないコロナ禍を経て、いま、じわじわと愛好者を増やしています。
今回は、ミーニング・ノートの開発者である山田智恵さんと、ミーニング・ノートの実践者であるお父様の山田眞次郎さんに"親子インタビュー"を実施。智恵さんにミーニング・ノートについてご紹介いただくとともに、60歳で経営する会社が破たんした後、64歳で世界から注目を集める"アグリテック起業"を果たした眞次郎さんに、ミーニング・ノートの体験談を伺いました。
山田智恵さん
ミーニング・ノート開発者 / 株式会社ダイジョーブ CEO。2009年に父親が創業した会社が民事再生となり、翌年に一家全員無職となったことからチャンスを見逃すまいと、毎日3つのチャンスをノートに記録し始める。継続することで小さな価値や可能性を見つけ出せるようになり、数年で一部上場企業の部長に昇進し、外資系スタートアップの役員に就任。チャンスをつかむ方法を世の中に伝えるために、退職を決意し、 2016年に株式会社ダイジョーブを起業。 2019年に「ミーニング・ノート 1日3つチャンスを書くと進む道が見えてくる」(金風舎)を出版。ミーニング・ノートのオンライン・コミュニティを主催し、内省の習慣を身につけることをサポート。また、企業の人材育成のためにミーニング・ノートのプログラムを提供している。
山田眞次郎さん
博士(工学)/県立広島大学 MBA客員教授/起業家/株式会社プランテックス取締役会長。40歳で株式会社インクスを起業。2007年売上180億円と順調に成長するも、リーマンショックの煽りを受けて、2009年民事再生を申請。60歳で一家全員、無職・無一文となる。2014年千葉大学の植物工場を見て、仲間とともに、株式会社プランテックスを再び起業。 2016年、次女智恵の勧めで「ミーニング・ノート」を始める。そこからチャンスをつないでいくことで、プランテックスは2021年G20でベンチャー日本代表の5社に選ばれるまでに急成長。
どんな環境でも"自分の活かし方"が見つかるノート・メソッド
――ミーニング・ノートのメソッドについて、改めて教えてください
智恵さん: 毎日3つチャンスを探してノートに書き、1週間、1カ月単位で見返していくというシンプルなノート・メソッドです。大事なポイントが2つあって、1つは出来事を書くだけでなく、そのチャンスからなにを得たのか「意味づけ」を書くこと。もう1つは、チャンスがつながった時に線を引いて、どうつながっていくのかノートの中で追いかけていくところです。
これをすることで、チャンスの価値を見極める、チャンスの目利き力を鍛えるトレーニングにもなります。その結果、自分が進みたい道を見つけ出すことができるようになるんです。
――昨今、ミーニング・ノートを実践する方が増えているとか
智恵さん: ニーズが増えていると感じています。夜寝るまでYouTubeを見て、朝はLINEのメッセージで起きる……ずっと外から入ってくる情報の処理に追われる毎日ですよね。その結果、自分が何を考えているのかを振り返る内省の時間が極端に少なくなっています。そういう状況に危機感をおぼえている方が増えているのかなと。
それからいまは、新型コロナだけではなく、地球環境問題や戦争が始まってしまった政治の問題など、不安が多い時代ですよね。こうした"自分一人ではコントロールできない事柄"に振り回されてしまうと、その不安はますます増大していくばかりです。
一方でミーニング・ノートに書くことは全部自分に関係するものなんですよ。「どこに行った」「誰と会った」「何を話した」「何を考えた」など、現実に自分に起こった「あるもの」に目を向けるのが特徴です。
ノートを書く時間は1日たった数分ですが、自分に「あるもの」という財産を把握し、その「あるもの」をどう活かすかを考えることで、自分の軸ができてくる。変化が大きく先の見えない時代、ますます必要性が高まっているのではないかと考えています。
――実際、どのような方が実践されているのでしょうか?
智恵さん: 現在、ある企業で連続講座を行っているのですが、大きく2つのタイプに分かれます。
1つめのタイプは、30~40代でもう一度「自分が本当に望むことをやりたい」と考えている方々。新型コロナの影響も大きいと思いますが、組織のビジョンの範囲内だけで生きるのではなく、自分という個を最大限活かせるものは何かを探しているという印象です。
2つめのタイプは、50代以上の方で「退職後は何をやろう」と考えている方々です。体力もあるし、世の中に役立てることがあるのではないかと、第二の人生を模索されている印象を持っています。
――そんな実践者のお一人が、智恵さんのお父様である眞次郎さんというわけなんですね。はじめは、ミーニング・ノートの前身である「うれしいこと日記」を智恵さんに勧められて書き始めたとか、すぐに変化はありましたか?
眞次郎さん 2009年に経営していた製造業の会社が破たん・民事再生となり、一家全員が無職になって、どん底にいたときに智恵が勧めてくれました。
最初は無理やり今日うれしかったことを探し出して書いているような感じで、ノートをつけ始めたことであまり変化は感じなかったですね。
でも、3カ月くらいすると自分にとってうれしいことは何かを自覚できるようになりました。私の場合は、それが「ビジネス」だと気づいたので、もう一度起業することにしたんです。製造業は懲りたので、今度は植物工場に挑戦しようと思いました。
――2016年からは、いまのミーニング・ノートの実践を始められたとか。はじめはどんなことを書かれていましたか?
眞次郎さん ある日、智恵がノートをプレゼントしてくれて「今日からチャンスを探してノートに書いて」とミーニング・ノートの書き方を教えてくれました。何か書かなきゃと考えてみて……その日は前の会社の破たん後、数年ぶりに講演した日だったので、最初に「(1)辻村さんの企画で、民事再生後初めて講演した。」と書きました。
それ以外書くことがなかったので、「講演後に名刺交換した2人にお礼のメールを書いて、それを今日のチャンスにしよう」と思ったんです。それまでの人生で数百回講演してきましたが、講演で名刺交換した人にお礼のメールを書いたのは初めてでした。
「(2)Bさんにお礼のメールを書いた。」
「(3)Cさんにお礼のメールを書いた。」
これでその日の3つのチャンスにしました。
3日後くらいに2人から返信が来て、Bさんからは「すぐにお会いしたい」と書いてあったんです。植物工場の「プランテックス」を設立して2年間弱、ソフトウェアの開発は終わっていましたが、まだビジネスは始まっていなくて、創業メンバーは全員無給でした。そんな不安の中だったので、自分たちの植物工場技術に関心を持ってくれる人がいてうれしかったですね。
――見つけたチャンスは、その後どのようにつながっていったのでしょうか?
眞次郎さん そこからがすごかったんですよ。
Bさんがプランテックスに来てくれてプレゼンをしたんですが、そのときはビジネスにはつながリませんでした。そこで、ソフトウェアだけではビジネスにならないと気づき、ハードウェアの開発を始めました。
その後1年くらい音信不通だったBさんから連絡が来て、「これはチャンスだ!」と思って言霊を込めて返信しました。「今度はハードウェアもできており、成果が出ているのでぜひもう一度見に来てください」と。ミーニング・ノートを1年書いていて、だんだんどんな出来事がチャンスにつながりやすいかがわかってきたんですね。
その後、Bさんがハードウェアの見学に来てくれて、数千万円の開発費を出してくれることが決まりました。その後もチャンスをつなげていって、いまでは億単位での資金調達が叶っています。
――ミーニング・ノートを書き始めて会社の成長スピードが速くなったそうですが、なぜだと思いますか?
眞次郎さん チャンスをノートに書くことで五感を使って、チャンスを脳に叩き込むからだと思います。
頭でチャンスを考え、指の筋肉を操作して文字を書くわけですが、そのために目が文字を追うし、頭の中では「Bさんにお礼のメールを書いた」と音になる。その結果、書いたチャンスが1つの固有名詞のようになるんです。
それを週末に1週分見返すと、また目と脳で文字を追って頭に叩き込まれるので、書いたチャンスの多くは覚えています。
この忘れないということが重要で、知り合ってからすぐにチャンスにつながる人もいますが、2~3年経ってチャンスにつながる人が多いんです。時間が経っても小さなチャンスを忘れないことが、次のチャンスにつながり、会社の成長スピードを上げたのだと思います。
所詮、多くの人に助けてもらわないと会社は成長しませんから、これはとても重要です。
――ミーニング・ノートでビジネスパーソンが得られるメリットは何でしょうか?
智恵さん 「チャンスをつかむ確率がものすごく上がる」ということです。ミーニング・ノートは1つの確率論なんです。
例えば、父の例でいうと、Bさんにお礼のメールを送るという行動を起こさなければ、返事が来る確率はゼロですが、メールを送れば50%の確率で返事が来て、次につながる確率はゼロが50%になります。
毎日3つのチャンスを書き、それに対する行動を起こすと、1年で1000個の結果が起きるわけですが、行動を起こさなければ結果はゼロです。
ミーニング・ノートが他のノート・メソッドと違う点は、出来事を書いたり物事を整理したりするだけではなく、チャンスにつながる行動を訓練できることです。
チャンスをつかむために行動を起こすことの重要性は、会社の中で生きようが、転職、起業しようが、全てにつながります。
ミーニング・ノートで「不安を乗り越える力」を身につける
智恵さん 私は38歳のときに大企業を辞めて、ミーニング・ノートを広めるために起業しました。周囲からは無謀に見えたと思いますが、私はミーニング・ノートを5年間実践していたので、怖くなかったんです。
なぜかというと、それまで5年間毎日チャンスを3つ見つけることを続けたので、今後どんな状況でも、また新たなチャンスを見つけられるだろうという自信が出来ていたからです。
ミーニング・ノートでは心がネガティブに働く出来事をスパイシー・チャンスと呼んでいるのですが、それが怖くなくなるんです。それは、チャンスには必ず意味づけを書いてもらうからなんです。
「嫌だな……」と思う出来事から何か1つで良いので、そこから気づいたことや学んだことを書くようにします。その習慣がついていると、単なる嫌な出来事で終わらせるのではなく「必ず何かを得よう」という力がついてきます。それは筋トレと同じで一種のトレーニングなんです。
スパイシーチャンスを意味づける、もう1つの効果としては「この気づきを得るために必要な出来事だったのか」という心の決着をつけられるようになり、落ち込みから早く回復できるようになります。
まずは、ミーニング・ノートを3カ月続けてみてください。自分にとってチャンスにつながる出来事は何かが自覚できるようになります。そして1年続ければ、人生が変わっていくと思いますよ。
『新版 ミーニング・ノート』(山田智恵 著/金風舎 刊)
2019年に出版されて大好評であったチャンスをつかむメソッド「ミーニング・ノート」が豊富な事例とQ&Aが追加されて新版として再登場。チャンスの法則とチャンスをつかむメソッドを、この1冊で学ぶことができます。
『ミーニング・ノート歩き方ガイド2022 vol.2: 自分の進む道を見つけ出す』(山田智恵 著/金風舎 刊)]
智恵さんと眞次郎さんの対談も掲載され好評を得た『ミーニング・ノート歩き方ガイド 2022 vol.1』に続く第二弾。今回は、実際にミーニングノートを使う2名の方々との対談となっています。一人目は、ソニーで開発業務をこなす傍ら、週一度30分の朝会で、自身のチャンスを仲間と共有する取り組みを9ヶ月に渡って続けた福馬洋平氏。仲間と一緒に振り返りをする中で実感した変化を語っていただきます。二人目は、東京理科大学経営学部講師の渡邉万里子氏。ミーニングノートを学生に続けてもらうなかで感じた「VUCAの時代を生き抜く力」とは?きっと、あなた自身の未来に役立つ「チャンス」が眠っています。