「変わらず前を進んで行ければ」
渡辺明名人への挑戦権を争う第81期順位戦、(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)、6月16日にはB級1組及びC級2組の1回戦が一斉に行われました。この中で注目を集めたのは羽生善治九段―山崎隆之八段戦でしょう。両者は前期に惜しくもA級陥落となりましたが、復帰を目指して出直しの一戦です。先後は事前に決まっており、山崎八段の先手でした。
第81期順位戦B級1組のリーグ表
本局は横歩取りに進みました。最近の羽生九段は後手番で横歩を取らせる将棋が多いです。直近の王位リーグで3勝した後手番も2局が横歩取りでした。
■竜をあえて作らせる
将棋は早い段階で山崎八段が注文を付けて大駒総交換となり、さらに羽生九段の玉頭にいきなり王手で飛車を打ち込んで激しく攻めていきました。後手玉がピンチのようですが、飛車角を手放した山崎八段の手駒には歩しかなく、攻め足はここで止まりました。
対して羽生九段は先手玉の左右から歩で敵陣を崩しにかかり、その後に飛び出した58手目の△7八飛が、守りの金が利いているところにガツンと打ち込んでいく何とも派手な一着。▲同金△同歩成と進み後手の駒損ですが、先手陣にと金を作ったのが大きく、また先手玉は直前の応酬から、逃げ道を狭められています。そして後手陣は飛車打ちに強い形です。以下も的確に先手玉を追い詰めた羽生九段が勝利、A級復帰に向けて好スタートを切りました。
■羽生九段が通算1500勝を達成 特別将棋栄誉敢闘賞を受賞
この勝利で羽生九段は公式戦通算1500勝を達成しました。大山康晴十五世名人の通算1433勝を2019年の6月に抜いてから、一人孤高の道を歩んできましたが、特別将棋栄誉敢闘賞となる節目の勝利を得ました。1985年12月のデビューから、年平均で40勝以上というペースです。
昨年度に40勝を記録した棋士が4人しかいないことからも、羽生九段のすさまじさがうかがえます。
「これで終わりということではないので、変わらず前を進んで行ければいいと思います」と局後に羽生九段は語りました。その言葉通り、羽生九段にとっては通過点に過ぎません。これからの戦いに期待しましょう。
相崎修司(将棋情報局)