認知症保険とは認知症に特化した保険です。要介護となる主な原因は認知症が最も多く、認知症による経済的なリスクに備える必要性も高まっています。今回は、認知症保険の保障内容や介護保険との違い、認知症保険を検討する際に注意したいポイントを解説します。

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■認知症保険とは?

【認知症とは】

認知症とは、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活に支障が出てくる状態をいいます。

認知症の症状としては、以下のようなものがあります。

・もの忘れ(記憶障害)
・時間や場所がわからなくなる
・理解力・判断力が低下する
・仕事や家事・趣味、身の回りのことができなくなる
・行動・心理症状(BPSD)

認知症のなかでもっとも多いのが、アルツハイマー型認知症です。脳内にたまった異常なタンパク質によって神経細胞が破壊され、脳が萎縮してしまうことに起因します。次に多いのが脳血管性認知症で、脳梗塞等によって脳細胞に十分な血液が送られず、脳細胞が死んでしまうことに起因します。他にも、レビ-小体型認知症や前頭側頭型認知症があります。

内閣府のデータによると、2025年には認知症患者が約700万人になると予測されています。65歳以上の人口のうち5人に1人が認知症という時代が、もうすぐそこまでやってきていると言えます。

<65歳以上の認知症患者の推定者と推定有病率>

出典:内閣府「平成29年版高齢社会白書

【認知症保険の保障内容】

認知症保険は認知症に特化した保険です。認知症と診断された場合や一定の要介護状態に該当した場合に、一時金あるいは年金が受け取れます。

給付要件や保険料は保険会社・商品によって異なります。軽度認知障害と診断された時点で一時金を受け取れ、認知症予防に活用できるものや、認知症にはならずに公的介護保険の所定の要介護度に該当すると、以後の保険料が免除されるものなど、それぞれに特色があります。

【認知症保険が注目される理由】

内閣府のデータによると、要介護となった主な原因で一番多いのが認知症で、その割合は全体で18.1%、特に女性が19.9%と高くなっています。

<65歳以上の要介護者等の性別にみた介護が必要となった主な原因>

出典:内閣府「令和3年版高齢社会白書

平均寿命も延び、死亡リスクだけではなく、長生きリスクに備える必要性が増してきました。このことが認知症保険への注目度が増した要因と言えます。

■認知症保険と公的介護保険の違いは?

【介護保険とは】

介護保険制度は社会全体で介護を必要とする人を支えるための社会保険制度です。40歳以上が全員加入し、介護が必要になったときには申請をし、要介護認定を受けると、介護サービスが受けられます。

65歳以上の第1号被保険者は、要支援・要介護状態になった原因を問わず、公的介護保険のサービスを受けられます。40~64歳の第2号被保険者は、加齢に起因する16種類の特定疾病によって要支援・要介護状態になった場合に限り、公的介護保険のサービスを受けられます。

<特定疾病>

・がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)
・関節リウマチ
・筋萎縮性側索硬化症
・後縦靭帯骨化症
・骨折を伴う骨粗鬆症
・初老期における認知症
・進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病(パーキンソン病関連疾病)
・脊髄小脳変性症
・脊柱管狭窄症
・早老症
・多系統萎縮症
・糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
・脳血管疾患
・閉塞性動脈硬化症
・慢性閉塞性肺疾患
・両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

この16種類のなかには「初老期における認知症」も含まれます。つまり、40歳以上の人は認知症により要支援・要介護状態になった場合、公的介護保険の対象となります。

【公的介護保険は現物給付】

公的介護保険は現金給付ではなく、介護サービスの提供を受けられる現物給付が原則です。この点が民間の介護保険や認知症保険との大きな違いとなります。

また、介護サービスを利用するときには、第1号被保険者は1割~3割(所得により負担割合が異なる)、第2号被保険者は1割の自己負担が必要となります。

民間の認知症保険は、現金給付となり、給付額は契約内容によって異なります。受給要件を満たした場合には、一時金を受け取る、もしくは年金として継続的に受け取ることになります。

【要支援・要介護レベルで給付内容が変わる】

介護サービスを受けるには要介護認定を受ける必要があり、要介護度は、要支援1~要支援2、要介護1~要介護5の7段階に分けられています。同じ認知症であっても、要介護度によって、受けられる給付内容(サービス)が変わります。

民間の認知症保険は、保険会社がそれぞれに定める受給要件を満たす必要があります。

■認知症にかかる介護費用は?

公益財団法人生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)のうち、一時費用(住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用)の合計額は平均74万となっています。

また、介護を行った場所別で月額介護費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)をみると、在宅は平均で4.8万円、施設は平均で12.2万円となっています。

介護期間の平均は61.1カ月(5年1カ月)なので、介護費用の平均は在宅で約370万円、施設で約820万円となります。

もちろん介護期間が長くなればその分、費用も必要になります。また、介護をする人の収入が減ることも想定しておく必要があります。

■認知症保険は必要?チェックポイント

【何に備えたい?】

認知症の人が第三者にケガをさせてしまったり、物を壊してしまったりしたときの賠償費用が不安。そんな場合は損害保険会社などで取り扱う個人賠償責任保険で備えられます。個人賠償保険は単独加入も可能ですが、火災保険や自動車保険の特約として付帯することもできます。

また、自治体独自の認知症保険助成制度を導入している自治体も少しずつ増えてきています。お住まいの地域にそのような制度がないかを保険加入前に確認してみましょう。

医療費や介護費用に備えたいのか、賠償費用に備えたいのか、何に備えたいのかによってふさわしい保険も変わります。まずは目的を明確にしておくことが必要です。

【保障されない期間はあるか?】

保険契約後、一定期間の免責期間が設定されている商品があります。認知症保険は免責期間が長く設定されている保険も多いので、事前にしっかりと確認しておきましょう。

【持病があっても加入できるか?】

通常の生命保険よりも健康状態に関する告知項目が少ない保険もあります。

【給付要件は?】

給付要件は保険会社・商品によって異なりますが、以下のような条件が設定されています。

・器質性認知症と診断確定
・要介護認定
・日常生活自立度判定

検討している保険の給付要件はどのようになっているのかを加入前に確認しておきましょう。

【保険金・給付金の受け取り方は?】

一括でまとめて受け取る「一時金」と、継続的に受け取る「年金タイプ」があります。また、保険期間も10年や20年といった一定年数や60歳・80歳といった一定年齢までと定める「有期タイプ」と一生涯保障が続く「終身タイプ」があります。 保障を手厚くすればその分保険料も高くなります。保険料負担が大きくならないように必要な保障に合ったものを選びましょう。

■認知症保険加入時の注意点

【指定代理請求人を指定しておく】

給付金を請求する際に、認知症保険は特に被保険者本人が請求手続きを行うことが難しい可能性が高くなります。そこで、事前に指定代理請求人を指定し、被保険者本人の代わりに手続きを行えるように情報をしっかりと共有しておきましょう。

【介護を行う家族の収入減も想定する】

介護は長期間にわたることが多く、家族の負担も大きくなりがちです。働き方を変えて収入が減ることも考えられるので、費用がかかるだけではなく収入が減ることも想定しておきましょう。

【加入済み保険の保障内容を確認する】

すでに加入している医療保険などに特約として認知症への保障を付帯することもあります。 また、個人賠償保険は知らずに加入していることもあります。 加入済み保険の保障内容を確認し、内容が重複しないか、保険料を抑えて保障が得られないかを確認しておきましょう。

■まとめ

認知症への経済的リスクには、まず公的介護保険と預貯金で備えられないかを考えましょう。それだけでは備えが不足するときに認知症保険は備えへの選択肢の一つとなります。

まずは実際に認知症になったときにどれくらいの費用がかかりそうかを具体的に計算し、必要な備えを具体的にしていきましょう。

認知症に備えられるのは認知症保険だけではありません。必要な備えを具体的にすると、民間の介護保険や損害保険会社の個別賠償保険なども含め、自分にとって必要な保障を選べるようになります。