マクラーレン・オートモーティブは同社初となる量産型プラグインハイブリッド車(PHEV)「アルトゥーラ」(Artura)の日本ツアーを開始した。PHEVといえばエコカーとしての性能であったり、ランニングコストの低さであったりに注目しがちだが、マクラーレンが作るとどんなクルマになるのか。マクラーレン正規販売店で聞いてきた。
電気はエコに使う? 性能に振る?
アルトゥーラはマクラーレン初のPHEV。既存モデルのPHEVバージョンではなく、同社がゼロから開発した新型車だ。
- 「アルトゥーラ」の概要
全長 | 4,539mm |
全幅 | 2,080mm(ミラーをたたむと1,976mm) |
全高 | 1,193mm(ドアを開けると1,954mm) |
エンジン | V型6気筒ツインターボ、3.0L(2,993cc) |
エンジンの最高出力 | 585ps |
エンジンの最大トルク | 585Nm |
駆動用モーターの最高出力 | 95ps |
駆動用モーターの最大トルク | 225Nm |
システム合計の動力性能 | 最高出力680ps、最大トルク720Nm |
車両重量(DIN) | 1,498kg |
0-100km/h加速 | 3.0秒 |
バッテリー総電力量 | 7.4kWh |
電気のみの航続距離 | 31km |
実車を見つつ話を聞いたのは、マクラーレン麻布 ゼネラルマネージャーの向田大輔さん。アルトゥーラについては「ハイブリッドのクルマというよりも、新しいライフスタイルを提案させていただくという気持ち」で販売するという。そのココロは。
「ゴルフなどに出かけて夜に帰宅する際、これまでだと大きな音を発生させながら帰ってきていたところが、アルトゥーラでしたら無音で帰ってこられます。軽井沢など、静かなところに別荘をお持ちのオーナーさまであれば、例えば森の中をドライブするとき、EVモード(電気で=エンジンを稼働させずに走るモード)にして窓を開けて走れば、鳥のさえずりや木の葉の擦れ合う音まで助手席の方と一緒に楽しめるんです。これは新しいスーパーカーとのライフスタイルだと思います」
もちろん、電動車だからといって走りには妥協していない。これまでV型8気筒だったエンジンが6気筒となったことを心配するマクラーレンファンもいそうだが、向田さんによれば「音に関しては従来よりも迫力が増しているくらいですし、6気筒になったことで高回転まで回しやすくもなっています。ファントゥドライブをお望みでしたら、ぜひマニュアルモード(ステアリングのパドルでシフトを選べるモード)を試していただければ」とのこと。マクラーレンにとって電動化とは、燃費を向上させたりランニングコストを抑えたりする手段というよりは、「あくまで、さらに高いパフォーマンスを実現するための選択肢」(向田さん)という捉え方のようだ。
マクラーレンファンは電動化を歓迎している?
とはいえ、マクラーレンの顧客にはモータースポーツの往年のファンも多そうだから、電動化には否定的なのでは……。向田さんに聞いてみると、そうでもない様子だ。
「私も否定的な声が多いのかなと思ったんですが、PHEVにも興味があるという方は実際、かなりいらっしゃいます。もちろん、純粋なガソリンエンジン車の方がいいということで、既存モデルを買い足すお客さまや、『完全なEVではないから、PHEVの方がまだマシか』とおっしゃる方もいらっしゃいますが(笑)。結局、現代のF1で走っているクルマもV6のハイブリッドなので、リッター数こそ向こうの方が少ないんですが、メカニズムは同じです。マクラーレンはF1に実際に参戦しているコンストラクターが作ったロードカー。そこが魅力です」
アルトゥーラの日本導入に向けては「乗ってみたいという声は、かなり届いています」と手ごたえを感じている様子の向田さん。このクルマには、新しいユーザーとの出会いも期待しているそうだ。
「IT企業を経営していらっしゃる方やテクノロジーに興味のある若手経営者、あとは、SDGs関連のコンサルタントをしているフリーランスの方々にも、アルトゥーラに興味を持っていただいています。そうした方々は、環境に配慮したスポーツカーに乗っているという、ご自身のPRもかねたクルマ選びをなさっているようです。実際に皆さまクルマがお好きなんですが、『エンジン車に乗っていると(SDGs推進の立場としては)言い訳できない』という部分もありますからね(笑)。アルトゥーラであれば、『ただ単に我慢するだけがSDGsではないよ』ということを発信できるかもしれません」
スーパースポーツカーとしての性能を失わないまま、森の中も静かに駆けぬけられるという新たなキャラクターを手に入れたマクラーレンの新型車・アルトゥーラ。若くして富を手にした現代の富裕層がどんな嗜好の持ち主なのかは知る由もないが、こうした新しい乗り物が、ひょっとすると彼らにとって名刺代わりのアイテムになるのかもしれない。