これらを踏まえ、両研究チームは、皮膚のCXCL14の役割を解明するため、共同研究を開始することにしたという。皮膚表面には多数の細菌が常在しているが、まず、その中で悪玉菌として知られる黄色ブドウ球菌を感染させ、その増殖が検索されたところ、夜行性のマウスではCXCL14の発現が高い昼の間は菌の増殖が強く抑えられていたが、発現の低い夜では菌の増殖が盛んになることが明らかになったとする。それに対し、CXCL14を欠損したマウスの皮膚では、菌の増殖は一日中盛んなままであったという。
さらに、黄色ブドウ球菌由来のDNAの解析が行われたところ、CXCL14に強く結合し、皮膚での「TLR9」を介する自然免疫反応を増強することが判明した。
これらの成果を踏まえ、この作用がヒトでも同じなのか、ヒトと同じ昼行性霊長類のコモンマーモセットのCXCL14発現が検索されたところ、マウスとは逆に昼は低く夜は高いことが確認されたことから、CXCL14は夜間に強く表皮細胞から分泌され、表皮に侵入した細菌のDNAに結合し、これが近傍の免疫細胞である樹状細胞に取り込まれ、DNAセンサーであるTLR9を介して自然免疫を活性化し、病原体の過剰増殖から皮膚を保護していることが推察されたとしている。
CXCL14などのCXC型のケモカインは従来、「CXCR4」などの受容体を介してさまざまな細胞機能に関与するといわれてきた。今回、皮膚においては、CXCL14はこの経路ではなく、非メチル化「CpGDNA」と結合し、それを樹状細胞内へ運び込み、そのエンドゾーム内にあるTLR9受容体を活性化し、自然免疫を駆動させるという細胞経路を動かしていることが示されたほか、CXCL14は、皮膚表皮のみでなく、口腔粘膜、腸管上皮、呼吸器上皮にも、広く大量に分布していることから、これらの器官でも、菌が上皮を通って粘膜など身体の表層に入ることをブロックしている可能性があると研究チームでは指摘する。また、CXCL14は脳内でも多くの細胞に発現しており、今後は、各組織での物質のクリアランス機構におけるCXCL14の役割と分子メカニズムの解明が期待されるともしている。
なお、皮膚表皮細胞での、非常に強いCXCL14のリズムについては注目される点で、このリズムは、今回の研究から時計遺伝子産物が、CXCL14遺伝子プロモーターの「RORE部位」を直接制御することによって生み出されることが解明されたという。研究チームでは、今後、この分子機構を利用して、CXCL14発現を高めることで、感染防御の初期段階での抗菌作用を高めることができる可能性があるとしている。