ソニーは2022年夏に向けて、3機種のXperiaスマートフォンを発表しました。このうち「Xperia 10 IV(エクスペリア テン マークフォー)」は、パフォーマンスと価格のバランスが取れたミドルレンジモデルです。この新機種の試作機を1週間ほど試用して、その実力を確かめてみました。
Xperia 10 IVの取り扱いキャリアは、NTTドコモ/au/ソフトバンク。auはサブブランドのUQ mobileでの取り扱いもあります。発売時期は7月上旬の予定で、価格はNTTドコモ版が64,152円(ドコモオンラインショップでの価格)。auとソフトバンクは6月16日時点で価格未定としています。
夏モデルXperiaの“鉄板”候補なるか
ソニーは、2022年夏商戦向けのXperiaスマートフォンとして、フラッグシップ「Xperia 1 IV」と、ミドルレンジ「Xperia 10 IV」、エントリーモデルの「Xperia Ace III」の3モデルを発表しています。
ハイエンドのXperia 1シリーズが“高嶺の花”になりつつある中で、Xperia 10 IVは6万円前後と、比較的手ごろな価格帯を維持しています。パフォーマンスや使用感については後ほど詳しく紹介しますが、多くの人にとってはこのモデルでも用途を満たすことでしょう。
縦長だけど“コンパクト”、片手操作向き
Xperia 10 IVを一言で表現するなら「コンパクトで軽量、電池長持ちな5Gスマートフォン」となるでしょう。エンタメ体験を充実させる機能がふんだんに盛り込まれたXperia 1シリーズと比べると華やかさでは及びませんが、多くの人がスマホに求める機能はきっちり備えています。手ごろな重さながら、バッテリーは5,000mAhと大容量なところもポイントです。
ディスプレイは、Xperia 1シリーズと同様に、「トリルミナスディスプレイ for mobile」と名づけられた縦横比21:9と縦長な有機ELディスプレイを搭載。解像度はフルHD+(2,520×1,080)となっています。
大きさは約153×67×8.3mmという寸法で、重さは約161g。ディスプレイサイズはスペック表記上は6インチとなりますが、縦長な形状のため、数値以上にコンパクトな印象を受けます。横幅で比較するなら、iPhone 8やiPhone SE(第3世代)と同じくらいのサイズ感です。握りしめるような持ち方をするにはちょっと大きすぎますが、右手の親指で画面左端まで届くため、片手操作も支障なく行えます。
側面と背面は樹脂素材で形作られています。背面のふちの部分はふっくらとした丸みがつけられており、見た目には柔和な印象を受けます。手触りも優しく、手に持った時のホールド感も良好です。
21:9という縦長の画面が生きるのは、ブラウザやSNSなどの縦スクロールが多いシーンです。TwitterやInstagramのタイムラインを流し見しているとき、少ないスクロール量で多くの情報を得ることができます。
2つのアプリを同時に開く「マルチウィンドウ」の機能も、縦長の画面ではより効率的に活用できます。Android標準のマルチウィンドウ機能は操作手順がやや複雑な点がネックですが、Xperiaではより使いやすくするための工夫が取り入れられています。
その1つがアプリ履歴画面に表示される「マルチウィンドウスイッチ」。このボタンを押すとカード型のアプリ履歴画面が上下2枠になり、最近使ったアプリから開きたい2つをスムーズに選べます。
アプリを素早く開けるランチャー機能「サイドセンス」も実用的です。あらかじめ2つのアプリの組み合わせを登録しておいて、一度に開くことが可能です。この機能は応用の幅が広く、例えば「YouTubeとTwitter」を同時に開いて動画を聞きながらタイムラインを流し見したり、「マップとカレンダー」を登録して予定を確認したり、「dポイントとPayPay」といった組み合わせを登録すれば、コンビニのレジもスムーズに対応できます。
イヤホン装着で迫力のサラウンド体験も
“好きを極める”をテーマとして、エンタメ視聴や創作に特化した機能を多く取り入れているXperiaシリーズですが、「Xperia 10 IV」の場合はエンタメ機能は多くはありません。例えばXperia 1シリーズのゲーム機能「ゲームエンハンサー」や撮影アプリ「Photography Pro」などは、Xperia 10 IVでは非搭載となっています。
その中で、注目したいのがオーディオ再生関連の機能です。Xperia 10 IVでは、立体音響技術の「360 Reality Audio」をサポートしています。
360 Reality Audioを使用するためには、本来はヘッドホンと360 Reality Audio再生対応アプリ、それに360 Reality Audio対応音源を用意する必要がありますが、Xperia 10 IVには「360 Reality Audio Upmix」というアップコンバート機能があり、“どんな音源も”360 Reality Audioとして再生できます。360 Upmixの設定には「音楽」と「シネマ」の選択肢があり、音声の性質に合った音質向上が可能となっています。
360 Reality Audioで聞く音源は、全方位から音楽が包み込むような音響で再生する技術です。よりかみ砕いた表現をするなら、ステレオヘッドホンでライブ会場や映画館で聞くような、臨場感のある音で楽しめます。いくつかの作品で試してみましたが、特に、劇場向け映画と360 Reality Audio Upmixの相性は良好なようです。例えば『シン・ゴジラ』の戦闘シーンの伴奏曲などは、Upmixオンで聴くと低音が立体的に響き渡るようになり、あたかも映画館で観ているかのような錯覚を覚えるほどでした。
このほか、オーディオ関連の機能では、ハイレゾ音源の再生もサポート。圧縮音源をハイレゾ相当に補完する「DSEE Ultimate」にも対応しています。また、3.5mmイヤホンジャックを備えており、有線イヤホンも利用可能。有線イヤホンをアンテナとして使うラジオも搭載しています。
エンタメ再生には物足りない面も
Xperia 10 IVの音楽・映像関連機能について、やや物足りないなと感じた点が2つありました。「ディスプレイ」と「内蔵スピーカー」です。
ディスプレイは先述したように、6インチの有機ELディスプレイを搭載しています。21:9という縦横比は、最近のディズニー・マーベル作品や『シン・ゴジラ』のような比較的新しい映画の画角にピッタリはまります。
一方で、前世代モデルのXperia 10 IIIからの変更点として、「HDR非対応」となっている点が残念なところ。洋画やNetflixの海外作品などは、暗いシーンがやや見づらい印象を受けました。他方、通常環境下でのディスプレイの明るさは約1.5倍に向上しているため、屋外などで画面を見やすさは改善されています。
また、オーディオでは360 Reality Audio UpmixやDSEE Ultimateといったアップコンバート機能が充実していますが、内蔵スピーカーではこれらのアップコンバート機能が利用できません。
スピーカーは前面の底部に搭載し、手で持っている時も音がこもらないように工夫されています。とはいえ、モノラルスピーカーなので、オーディオ再生時の迫力には欠ける印象です。このスマホのポテンシャルをフルに発揮したいなら、イヤホン・ヘッドホンの併用を強くおすすめします。
カメラは盛りすぎず、素直な写り
背面カメラは超広角16mm/800万画素、広角27mm/1200万画素、望遠54mm/800万画素というトリプルカメラ構成。広角レンズには光学式手ブレ補正を搭載しています。
スマホのカメラは被写体にあわせて色味を大胆に変化させる“映え”重視の調色が主流ですが、Xperiaシリーズはどちらかというとカメラ専用機に近い、味付けをしすぎない仕上がりが特徴です。この傾向はXperia 10 IVも踏襲しており、全般的にあっさりとした“自然な”色味の写真が得られます。
ズーム撮影ではソフトウェア処理で補完する超解像ズームのアルゴリズムが改善され、画質が向上しています。ただし、さすがに物理的な望遠レンズを備えたXperia 1シリーズのような性能は出せないようです。デジタルズームで5倍~10倍(最大倍率)程度まで引き延ばすと、解像感が大きく損なわれます。
また、逆光がある/明暗差がある場所でのシーンでの撮影性能は、2~3年前のフラグシップモデルと比較すると、やや見劣りしがちな印象を受けました。特に、明所での白飛びが目立ちやすいように感じます。
なお、このレビューで検証に用いた端末は発売直前の試作機のため、カメラのパフォーマンスを十分に発揮できていない可能性があります。一般的に、スマートフォンのカメラ性能は、発売前後やその後のソフトウェア更新で徐々に向上します。Xperia 10 IVについても、ホワイトバランスやHDR撮影の性能はソフトウェア更新での改善の余地がありそうです。
作例写真
大容量バッテリーといたわり充電機能
「軽いのに電池長持ち」というのが、Xperia 10 IVの大きなアピールポイントです。重さを約161gに抑えつつ、バッテリー容量は5,000mAhと大き目。ソニーは「容量5,000mAh以上の5Gスマートフォンとして世界最軽量」とうたっています。
さらに、Xperia 10 IVは、夜間にゆっくり充電する「いたわり充電」という機能を備えています。あえて急速充電を使わないことで、3年目以降に気になってくるバッテリー劣化(容量低下)を抑えられます。同じスマホを長く使い続けたいという人には特に役立つ機能といえるでしょう。
今回のレビューでは、発売前の貸出機に「モバイル通信を使わない」という試用条件があったため、実試用での電池持ちを十分試すことはできてはいません。そのため、あくまでWi-Fi接続時の使用感となりますが、待機時の電力消費はかなり抑えられており、充電頻度を減らすことができそうだと感じました。
試用時にはTwitterやNetFlixの動画視聴など、バッテリーを激しく消費する用途を合計で5時間程度はさみつつ、常時Wi-Fi接続の状態で持ち歩いて断続的に使い続けたところ、3日間以上、継ぎ足し充電なしで利用できました。5G対応のSIMを挿すと待機時のバッテリー消費が増えますが、それでも少なくとも1日半程度の電池持ちは期待できるでしょう。
ゲームは厳しいが、普段使いに用途に必要な機能はそろう
Xperia 10 IVは手ごろな価格帯で手に入るミドルレンジモデルとして設計されているため、例えば3D表現を多用したゲームや動画編集のような、シビアな性能が求められる用途には適していません。
搭載チップセットは「Snapdragon 695 5G」で、メモリは6GB。2022年夏発売のスマホの中では一段階下の価格帯と想定される競合機「AQUOS wish2」と同じチップセットを採用しつつ、搭載メモリの容量では上回っています。ストレージは128GBで、最大1TB対応のmicroSDスロットを備えています。Wi-FiはWi-Fi 5(IEEE802.11 a/b/g/n/ac)までの対応となっています。
おサイフケータイや防水防塵、指紋認証に対応しており、3.5mmのイヤホンジャックを装備するなど、求められる機能はきっちりと抑えています。テレビ機能(フルセグ・ワンセグ)は非対応ですが、FMラジオの受信に対応しています。
なお、前世代機からの変更点としてはHDRに非対応となったことに加え、「Google アシスタントボタン」も今回は搭載していません。
モバイル通信の対応バンド(周波数帯)は販売キャリアによって異なりますが、5Gではミリ波帯をサポート。4G LTEではいわゆる“他キャリア対応”が強化されており、国内4キャリアの主要周波数帯をおおむね網羅しています。また、au版とソフトバンク版はnanoSIMとeSIMのデュアルSIM対応となっており、2回線の同時待ち受けが可能です。
もっとも身近なXperiaとなった「Xperia 10 IV」
Xperia 10シリーズは、“Xperiaの入門モデル”という位置づけにある製品群で、それはXperia 10 IVでも変わっていません。ただし、「性能向上」と「フラッグシップモデルの高価格化」という2つの要因によって、Xperia 10 IVの存在感は歴代の10シリーズの中でも一層際立っています。
フラッグシップモデルの「Xperia 1 IV」は、今年も大手3キャリアで販売されますが、価格はいずれも19万円台と、前世代モデルと比較しても一段高い価格帯となっています。また、カラーバリエーションは前世代機よりも減る中で、ソフトバンクのXperia 1 IVはオンラインショップのみでの取り扱いとなるなど販路も限定されつつあります。
上位モデルが高価格化した背景にはさまざまな要因がありますが、1つにはXperia 1シリーズ自体が“よりこだわる人”に照準をあわせて、機能をより先鋭化させてきたことが挙げられるでしょう。裏を返せば、Xperia 1シリーズのようなフラグシップモデルは、多くの人にとって“必要十分”を大きく超える機能や性能に達しつつあるとも言えます。その結果、本来は入門機の位置づけだった「Xperia 10 IV」がより多くの人にとっての必要十分を満たす、いわば“大衆機”へとランクアップし、身近な存在となっています。
もっとも、Xperia 10 IVで“非搭載”とされた機能の中には、ディスプレイのHDR再生対応や、ステレオスピーカー、ゲームエンハンサーなど「できれば載せてほしかった」と思うものが多くあります。
ただし、それを差し引いても「Xperia 10 IV」にはスタイリッシュな縦長デザインや、イヤホン併用時のリッチな音響体験など、“Xperiaのこだわり”の根幹部分はしっかりと残されています。加えて、防水防塵やおサイフケータイ、電池持ちといった普段使いでは欠かせない要素もきっちりカバーしています。6万円台という価格帯を含め、手に取りやすさ、扱いやすさという点では、Xperia 10 IVは最上位モデルをもしのぐ“もっとも身近なXperia”となっています。