ニッチ産業、ニッチビジネス、ニッチ商品……。このような形で「ニッチ」という言葉を耳にしたことはありますか? 社会人の方なら聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。

今回は、そんな「ニッチ」について、基本的な意味と類義語、対義語、分野別の使い方を紹介します。また、似たようなイメージのあるブルーオーシャンやロングテールとの違い、ニッチの成功例についてもまとめましたので、「ニッチ」という言葉の理解を深めるために、ぜひ最後までご覧ください。

ニッチとはどういう意味?

  • ニッチはどのような使われ方をする?,A@ニッチ 意味

    ニッチはどのような使われ方をする?

最初に、ニッチの意味や語源、現在の基本的な意味、類義語や対義語について解説します。

ニッチの意味

ニッチは「すき間」や「適所」を意味します。これはニッチの語源の「niche」が西洋建築用語で「壁面のくぼみ」を指し、「くぼみ」のイメージから「すき間」を意味する言葉になりました。また、壁面のくぼみにオブジェを飾るイメージから、「適所」の意味も加わりました。

ニッチを使うシーン

ニッチという言葉は、主に経済やマーケティング分野などのビジネスにおいて使われます。ニッチ市場とは「潜在的な需要は認識されていても、従来の商品やサービスではその需要を満たせない市場」のことです。

一方、日常会話で使われることもあります。この場合、「ニッチな人」のような使われ方をし、「風変わりな」「個性的な」といった「一般的ではない」という意味に変化します。

ニッチの類義語・言い換え

ニッチを一般的な意味で使う場合は、「すき間」や「適所」と言い換えます。壁面のくぼみの意味で使う場合、類義語は「壁龕」(へきがん)となります。

経済やマーケティング分野で使う場合は「すき間産業」「すき間市場」のように、ニッチを「すき間」と言い換えれば問題ありません。「ニッチな〇〇」のように形容詞として使われる場合は「一般的ではない」「個性的な」「風変わりな」「マニアックな」といった表現に言い換えることが可能です。

ニッチの対義語

ニッチの対義語は意味によって変化します。マーケティング分野で使う場合、「ニッチ」の対義語は「大衆」「マス」「メジャー」となり、「ニッチ市場の対義語はマス市場です」のような表現をします。

ニッチを「一般的ではない」という意味で使う場合、対義語は「一般的」「標準」「スタンダード」といった単語があてはまります。

「ニッチ市場」とは

  • ニッチ市場は需要のすき間を狙ったもの?,A@ニッチ市場 条件

    ニッチ市場は需要のすき間を狙ったもの?

「ニッチ市場」とは「すき間市場」と表現できますが、具体的にどのような条件を満たせばニッチ市場と言えるのでしょうか。ニッチ市場となる条件を4つ挙げて解説します。

条件1 市場規模が小さく、誰も手を付けていない

ニッチ市場の第1条件は、市場規模が小さく、誰も手を付けていないことです。潜在需要があるとわかっていても、市場規模が小さいと大きな利益は期待できません。

条件2 大企業がターゲットとせず競合も少ない

小回りが利かない大企業では対応しきれない市場も、ニッチ市場となる条件の一つです。大企業で対応できない主な理由は、需要規模があまり大きくないため大量生産しても元が取れない、顧客のニーズに合わせた細やかなカスタマイズができない、といった場合です。大企業が参入しないため、ニッチ市場は中小企業やベンチャー企業にとって活躍しやすい分野とも言えます。

また、ニッチ市場となりやすいケースとして、参入障壁が高く競合が少ないパターンも挙げられます。その会社でしか持ち得ない高度で精密な加工技術があるために、ニッチ市場であっても大きなシェアを占める町工場は、ニッチ市場を制する典型的なパターンです。

条件3 可能性はあるがまだビジネスとして確立していない

ビジネスができる可能性があるが、何らかの障壁があるためビジネスとして確立していないということも、ニッチ市場の条件です。

例えば、需要はあるがあまりにも多様性があるため、ビジネスとして成立しづらい「標準サイズ以外の衣類」もニッチ市場の一つです。標準的な規格に外れた体型や身体の各部位に合う衣類は、非常に多くのサイズ展開が必要であり、大量生産メインの大企業はあまり力を入れていません。

条件4 少々価格が高くても、顧客がお金を出す

マニアックで熱狂的なファンがいて、少々価格が高くても顧客がお金を出すという条件も、ニッチ市場を成立させる条件の一つと言えます。

ニッチ市場は、市場規模が小さいため、薄利多売というビジネスモデルでの成功は困難です。そのため、商品の付加価値を高めるか、他では実現できない商品やサービスを提供して顧客単価を上げることで利益を出します。

ニッチとブルーオーシャン、ロングテールの違い

  • ブルーオーシャン、ロングテールとの違いは何?,A@ブルーオーシャン ロングテール 違い

    ブルーオーシャン、ロングテールとの違いは何?

ニッチ市場とよく似た言葉に、ブルーオーシャンやロングテールがあります。しかし、それぞれの意味は、違いもあるので使い分けが必要です。これらの言葉の違いについても確認しておきましょう。

ニッチは「採算が取れない」と考えられてきた分野

ニッチ市場は、潜在的な需要があるとはわかっていても、従来の方法では「採算が取れない」「商品を作ってもあまり売れない」と考えられてきた分野です。すでに先行して参入したが事業継続を断念した企業や、参入前の調査で期待したほどの利益が出ない、と敬遠されてきた分野とも言えます。

ブルーオーシャンは未開拓という点がポイント

一方、ブルーオーシャンは同業他社がまだ気づいていなくて、付加価値が高く、高利益の商品が生まれやすい市場のことです。「未開拓」という点がブルーオーシャンの特徴であり、ブルーオーシャン市場に気づいた同業他社が多くなるとレッドオーシャンになる可能性もあります。

ロングテールはニッチ商品のネット販売戦略

ニッチ商品は、単体としては需要が少ないですが、潜在的な需要は常に存在します。ニッチ商品を多く揃えることで、ヒット商品の売上よりも多い売上を目指す戦略のことをロングテールと呼びます。ロングテールは、特にネット通販との相性が良い点が特徴です。

事例としては、Amazonは、売上ランキング40,000位以下の商品が売上の8割を占め、ロングテールの成功事例として知られています。

経済・マーケット分野におけるニッチの使い方

  • 経済、マーケティング分野でのニッチの使い方とは?,A@ニッチ 使い方

    経済、マーケティング分野でのニッチの使い方とは?

潜在的な需要をうまく捉えた商品やサービスは、従来の大企業ではなかなか手を付けづらい分野であり、ベンチャー企業や中小企業向けと言えます。

ニッチ事業(ニッチビジネス)

ニッチ事業(ニッチビジネス)とは、特定の狭い需要に対する製品やサービスを提供するビジネスのこと。主にベンチャー企業や中小企業のように投下できるリソースが限られ、特定の狭い分野で優位性を追求する際に採用されるビジネスモデルです。

ニッチ戦略(ニッチマーケティング)

ニッチ戦略とは、マス市場のすき間を狙い、そのすき間市場で優位性を得て収益を上げるビジネス戦略のことです。ニッチ戦略では、狙ったすき間市場において、オンリー1またはナンバー1を目指します。

ニッチ商品

ニッチ商品とは、特定の層、あるいは特定の時期だけ利用する商品のこと。例えば、ウエディング用品や赤ちゃん用品は、人生において一時期のみ必要となる商品です。剣道や弓道のように、競技人口の少ないスポーツ用品もニッチ商品といえます。

ニッチャー(ニッチ企業)

ニッチャーとは、すき間市場で優位な地位を築いている企業のこと。企業の競争上の地位を「リーダー」「フォロワー」「ニッチャー」「チャレンジャー」という4つの分類に分ける考え方がありますが、その中の一つにも挙げられます。

グローバルニッチトップ

グローバルニッチトップとは、全世界のニッチ分野においてトップのシェアを持つ企業のことです。経済産業省では、毎年「グローバルニッチトップ企業100選」を選定しており、選定企業の取り組みを紹介しています。

2020年に選定されたグローバルニッチトップ企業の一例をいくつかピックアップしました。

  • 伊東電機:コンベヤ駆動用モーターローラー
  • オプテックス:自動ドアセンサー
  • 山八歯材工業:人工歯

「グローバルニッチトップ企業100選」の内容を確認すると、意外な分野でグローバルニッチトップとなっている企業が多いことがわかります。これからニッチ市場を目指す企業には、取組内容を知ることもできて参考になる資料です。

他分野におけるニッチの使い方

  • 他の分野でニッチは使われる?,A@ニッチ 分野

    他の分野でニッチは使われる?

ニッチは、建築分野やマーケティング分野以外でも使われる場合があります。その中から2例紹介します。

エコロジカルニッチ

エコロジカルニッチとは「生態的地位」とも呼ばれる生物学用語の一つです。生物種は、生きていける環境があり、他の生物種と生存競争を勝ち抜くか、餌の食い分け・棲み分けでニッチな環境を見つけて生き抜くかという方法で種を存続していきます。

例えば、肉食の猛禽類であるフクロウは、活動時間帯を昼にしているタカ・ワシとは違い、夜を活動時間帯とすることで生態的地位を得ています。

ニッチな趣味

「ニッチな趣味」というと、一般的な場面で使われる「風変わりな」「マニアックな」という意味になります。共通の趣味を持つ人は少ないですが、その趣味に対する造詣は深い傾向です。

ニッチ市場の成功事例

  • ニッチ市場で成功した事例とは?,A@ニッチ市場 成功 事例

    ニッチ市場で成功した事例とは?

ニッチ市場を制して成功を遂げた例は数多くありますが、イメージしやすい事例を3例ピックアップして紹介します。

コンビニエンスストア

ニッチ市場を制してマス市場までを制し、ニッチ市場の成功例として多く取り上げられるのがコンビニエンスストア(以降コンビニ)です。

コンビニ出現前、スーパーマーケットや百貨店のような小売店舗は、営業時間や定休日があり、年末年始は数日間休暇に入るのが一般的でした。

コンビニは、他の小売店舗が閉まっている時間帯に、売れ筋商品を厳選。出店地域も商業地域でなく住宅街や住宅街に近い駅前、他の大型小売店舗とは棲み分けをしたことにより、一般の人に受け入れられ、大躍進を遂げました。

解決本舗

化粧品メーカーの解決本舗は、10本から化粧品のOEM製造販売を行う会社です。大手の化粧品メーカーでもOEM対応は行っていますが、10本のような小ロットで受注している会社はほとんどありません。小ロットでのOEM販売は、大手化粧品メーカーにとって採算の合わない市場です。

解決本舗はオリジナルの化粧品を求める美容室やエステサロンが主な顧客となり、順調に事業を展開しています。

レンタルなんもしない人

「レンタルなんもしない人」は、一個人が「なんもしない」「1人分の人間の存在」を提供するサービスです。Twitterで依頼受付とこれまでの依頼内容をツイートして話題となり、テレビドラマにもなっています。

便利屋という仕事は昔から存在していますが、「なんもしない」を提供するサービスというものはこれまで商売になると考える人はいませんでした。まさにニッチ市場を見つけた事例と言えます。

ニッチの意味を理解して普段の会話で使いこなそう

  • ニッチの意味を理解して使うことが大事,A@ニッチ 理解 重要

    ニッチの意味を理解して使うことが大事

ニッチという言葉は、使われる文脈によって意味が変わってくる言葉です。一般的には「個性的な」「風変わりな」という形容詞として使われ、マーケティング分野では「すき間産業」「すき間市場」といった意味で使われます。

ブルーオーシャンやロングテールのように似た意味の言葉もありますが、正確には意味が異なるため、使い分けられるように意味の違いを確認しましょう。ニッチという言葉がビジネスシーンで出てきても、慌てることなく対応できるようにしてください。