マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の利上げについて解説していただきます。
6月14-15日、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)を開催し、0.75%の利上げを決定しました(結果判明は日本時間16日午前3時)。
94年以来の大幅利上げ
0.75%の利上げは94年11月以来となる大幅なもの。声明文や直後のパウエルFRB議長の記者会見では、景気を犠牲にしてでもインフレを抑制するとの意向が表明されました。
先週10日に発表された米国の5月CPI(消費者物価指数)は前年比8.6%上昇となり、4月の8.3%から一段と加速しました。また、同じ日に発表されたミシガン大学の調査では、家計が今後1年だけでなく、今後5-10年間のインフレ率をこれまで以上に高く予想していることが判明しました。そうした家計(や企業)の「インフレ期待」は自己実現的にインフレ率を高める可能性があるため、中央銀行は重要視しています。
予想通りの結果でいったん材料出尽くし?
CPIやミシガン大学の調査を受けて、FOMCを前に金融市場ではFRBが一段と思い切った利上げに踏み切るとの観測が強まっていました。そのため、FOMCの結果はほぼ金融市場の予想通りでした。いったん材料出尽くしとなったことで、今週に入って大きく下落していた米国の株価は反発、逆に大きく上昇していた長期金利(10年物国債利回り)は大幅に低下しました。
米株の反発は一時的か
株価が反発したのは、パウエル議長が「0.75%の利上げが一般的になるわけでない」と説明したことで安心感が広がったためだとの解説もあります。ただ、7月についても0.75%の利上げの選択肢を排除しませんでした。今後の状況次第では大幅な利上げが続く可能性もあり、なにより景気の鈍化はある程度容認されるでしょうから、金融市場がいつまでも安心していられる保証はありません。
後述するように、利上げの打ち止めや利下げへの転換が23年の比較的早い時期に実現するかもしれません。ただし、それらが現実味を帯びるまでは金融市場の神経質な展開は続きそうです。
FOMC決定の詳細
声明文の冒頭では、1-3月期のマイナス成長(GDP前期比年率マイナス1.3%)の後に景気は持ち直しているとみられること、そして失業率が低水準にとどまっていることが指摘されました。
続く段落では、政策金利を0.75%引き上げて1.50-1.75%にすると表明し、「利上げの継続は適切だと予想する」との判断を示しました。そして、「FOMCはインフレ率を2%の目標に回帰させることに強くコミットする」と宣言されました。前回までの「金融政策の適切な引き締めに伴い、インフレ率は2%に回帰すると予想する」とのセンテンスは削除されました。
最新の経済見通し(後述)では、24年までの見通し期間中にインフレ率は2%まで下がらないので(24年で2.2%)、上記の文言修正はそれと平仄を合わせた格好です。
FOMCの票決は10対1。カンザスシティ連銀のジョージ総裁(積極利上げ派!)が0.50%の利上げを支持して反対票を投じました。
経済見通しとドット・プロット
FOMCの経済見通し(中央値)では実質GDP成長率の見通しが3月時点より全般に下方修正されました。また、失業率は3月時点では現行水準(5月3.6%)近辺にとどまると予想されていましたが、24年に4.1%まで上昇するとの見通しに修正されました。経済成長を犠牲にしてでもインフレを抑制するとの決意の表れでしょう。
「ドット・プロット(FOMC参加者各個人の政策金利予想)」の中央値は、22年末に3.375%、23年末に3.75%、24年末に3.375%と、3月から上方にシフトしました(3月時点ではそれぞれ1.875%、2.75%、2.75%)。22年末までにあと1.75%の利上げが予想されているので、残り4回のFOMCで0.50%を3回、0.25%を1回とみることができます。
23年中の利下げ転換も
ドット・プロットから政策金利の軌道を想定すると、遅くとも24年中には利下げに転換すると読めます。ただ、利上げ打ち止めが23年中なのか、24年に入ってからなのかは判断が難しいところ。23年末の政策金利が22年末から0.375%しか上昇しないとの見通しからは、23年の序盤は22年同様にアグレッシブな利上げを行い、23年中の比較的早い段階で打ち止めから利下げに転じるとの想定も可能でしょう。そうであれば、長期金利や米ドルのピークは比較的早くやってくるかもしれません。
政策金利の中立水準(下表中の「長期」)は2.50%と、3月時点(2.375%)からほとんど変わっていません。22年後半には政策金利を「引き締め」の領域まで引き上げるということでしょう(だから景気にブレーキがかかって、インフレ圧力が減殺されるという理屈)。
もっとも、上記はあくまで「中央値」に基づくもの。実際には、各個人の予想にはバラツキがあり、「中央値」がFOMCで合意された見通しではないことに留意する必要があります。