神舟十四号は断熱コートを身にまとう
CSSの建設という使命を背負った神舟十四号には、これまでにないいくつかの特別な技術や装備が施されている。
小型衛星から宇宙ステーションまで、あらゆる宇宙機にとって重要な要素のひとつが熱設計である。大気がない宇宙空間は、太陽光が当たる部分は100℃以上に、影になる部分はマイナス100℃以下になるなど過酷な環境で、宇宙機の設計ではこうした熱をどう制御するかがとても重要であり、もし間違えれば故障、あるいは機能喪失という事態に陥る。
さらに宇宙ステーションの場合、建設状況に応じて機体の大きさや太陽に対する向き、熱を処理できる能力などが変わるためとくに難しく、注意深い熱設計が必要になる。また、宇宙ステーションだけでなく、それとドッキングしている宇宙船も同様であり、今回打ち上げられた神舟十四号は、これまでの神舟宇宙船では経験しなかったような熱環境にさらされることになる。
そこで、神舟十四号には、新開発の低吸収・低放射熱制御コーティングが施されている。開発者らが「外衣(コート)」と呼ぶこの装備は、特殊なコーティングを施すことで、日光による温度上昇を低減するとともに、宇宙船から赤外線として放射される熱の放射率も低減。これにより、宇宙船の急激な温度上昇、低下の両方を回避し、適切な温度範囲を保ち、船体や宇宙飛行士を保護することができるという。
このコーティングは、昨年10月に打ち上げられ、今年4月に帰還した神舟十三号にも試験的に施され、実際に宇宙での実証をクリア。神舟十四号で本格的に採用されることになった。
また、じつは神舟十四号は、今回の打ち上げに先立ち、神舟十三号の救助のための待機ミッションという役割も担っていた。万が一、宇宙にいる神舟十三号になにか重大な問題が起きた際、宇宙飛行士は地球に帰ってくることができなくなる。そうした事態に備え、いざとなれば彼らを救助するため、約8.5日で打ち上げられるようにスタンバイしていたのである。
こうした備えはISSの運用でも行われており、ロシアの「ソユーズ」宇宙船と米国の「クルー・ドラゴン」宇宙船、そして将来的には米国の「スターライナー」宇宙船という、複数の異なる宇宙船を運用することで、万が一の際に対応できるようにしている。また、かつてスペースシャトルがハッブル宇宙望遠鏡の修理ミッションを行った際には、別のシャトルが救助のためにスタンバイするということも行われていた。
さらに、今年後半に神舟十五号が打ち上げられれば、中国にとって初となる、2機の有人宇宙船の同時運用を行うこととなり、地上の管制チームや施設設備にとっても新たな挑戦となる。
そしてなにより、CSSが完成すれば、人類は約20年ぶりに複数の宇宙ステーションを運用することになり、宇宙での実験や技術試験の質や量の向上が見込めるなど、人類のフロンティアの拡大にも寄与することだろう。
CSSの完成と運用開始という使命と、そのためのさまざまな新たな試みを背負った今回のミッション。その行方に注目したい。
神舟十四号のクルー
陳冬宇宙飛行士
1978年生まれの43歳。中国人民解放軍空軍の戦闘機パイロットを務めたのち、2010年に中国宇宙飛行士(Taikonout)に選ばれた。2016年に「神舟十一号」に搭乗し、約1か月の宇宙滞在をこなした。
今回が2回目の宇宙飛行で、ミッションのコマンダーを務める。
劉洋宇宙飛行士
1978年生まれの43歳。空軍の戦闘機パイロットを務めたのち、2010年に中国宇宙飛行士に選ばれた。2012年に「神舟九号」に搭乗して宇宙へ飛行、中国初の女性宇宙飛行士となった。同ミッションでは宇宙ステーション実験機「天宮一号」に滞在し、宇宙ステーションの建造、運用の礎を築いた。
今回が2回目の宇宙飛行士となる。
蔡旭哲宇宙飛行士
1976年生まれの46歳。空軍で戦闘機パイロットを務めたのち、2010年に中国宇宙飛行士に選ばれた。
今回が初の宇宙飛行となる。
なお、前述のように陳氏はコマンダーを務めるが、劉氏と蔡氏の役割は発表されていない。通例であればオペレーターやフライト・エンジニアといった役割が与えられるが、なにか役割の区分けや分類に変更があったのか、単に広報されていないだけなのかは不明である。
参考文献
・http://www.cmse.gov.cn/xwzx/202206/t20220605_50061.html
・http://www.cmse.gov.cn/fxrw/szssh/