「情緒」という言葉は、趣、風情を重んじる日本文化には、なじみの深い言葉です。しかし具体的にどういうことを表しているのかと聞かれると、正しく理解している人は少ないかもしれません。
本記事では「情緒」のより詳しい意味や読み方、「情緒がある」「情緒豊か」などの使い方を例文とともに解説。情緒不安定になる原因と対処法や、類語、対義語もまとめました。
情緒とは? 意味や読み方をわかりやすく解説
「情緒」とは「物事に触れて呼び起こされるさまざまで微妙な感情や味わい・雰囲気」「一時的に発生し消滅する、激しい感情の動き・高まり」といった意味を持つ言葉です。
「情」は、物事に対する感情・心・気持ち・味わい・趣などを、「緒」は、物事の発端・始まり・糸口・起こりなどを意味する言葉です。この2文字を組み合わせることで、「始まり起こる味わい・趣」や「湧き起こる気持ち・感情」などの意味合いとなっています。
情緒の読み方は「じょうちょ」か「じょうしょ」
「情緒」の読み方は、初期の当用漢字表では「緒」を「しょ」と読み、「じょうしょ」と読まれていました。
その後、常用漢字表に変わってから「緒」に「ちょ」の慣用音が採用され、今ではじょうちょ」が一般的な読み方となりました。
情緒の使い方と例文、慣用句
「情緒」は時に呼び起こされる深い趣や懐かしさにしみじみとした感情、時に激しく高ぶる感情の動きなど、繊細多感な心の表現に使われます。
折々に揺れ動く気持ちや情感は、どう表現しどう伝えられるのでしょうか。ここでは、例文とともに情緒を含む慣用表現、使い方を紹介していきます。
情緒がある
「情緒がある」は言葉の通り、情緒が存在する、という意味の表現です。
「趣を呼び起こす独特な雰囲気」として表現する場合に、「この街にはどこか情緒がある」といった形で使用します。
情緒あふれる
「情緒あふれる」は、情緒が満ちあふれている状態を表します。
「物事に触れて湧き起こる感情」として表現する場合には、「彼女の情緒あふれる感性には、ただただ舌を巻くばかりだ」「情緒あふれる彼女の歌声に、聞き入ってしまったよ」などと使います。
また、「味わいを誘い起こす雰囲気」として表現する場合には、「彼の絵の魅力は、あの情緒あふれる色使いだよ」などと使います。
情緒豊か
「情緒豊か」は、情緒が十分にふくよかな様子です。
「細やかな感情、味わいの豊かさ」として表現する場合には、「彼女は情緒豊かな人柄の持ち主で、みんなから愛されている」などと使います。
また、「趣を呼び起こす独特な雰囲気」として表現する場合には、「中世を思わせる異国情緒豊かな街並みが、今も忘れられない」などと使います。
情緒的な
「情緒的」とは、情緒を備え持っているという意味になります。
例えば、「呼び起こされる多彩な感情」として表現する場合には、「情緒的な子の親は、繊細な方が多いものです」「彼は無口な感じだけど、あれで結構情緒的なんだ」などと使います。
また、「趣を呼び起こす独特な雰囲気」として表現する場合には、「最近の夏祭りは人出が多すぎて、情緒的にちょっと物足りないね」などと、味わいの意味を強めて使います。
情緒不安定
「情緒不安定」は、「一時的な激しい感情の動き・高まり」としての「情緒」が、治まることなく不安定な状態を指します。「彼女はちょっと情緒不安定がひどいから、仕事を休ませよう」などと使います。
気持ちが急に落ち込んだり、突然悲しくなって涙が出てきたりなど、感情の起伏が安定せずコントロールできない状態です。
これまでの「しみじみとした気持ちや雰囲気」とは全く意味合いの異なる情緒の使い方です。
情緒不安定になる原因と対処法
情緒不安定とは、感情が乱れているときのことを言います。不規則となりがちな生活習慣を送る中で、身体と心のバランスを維持していくためには、どんなことを心掛ければいいのでしょうか。
社会生活において、住環境や仕事環境にストレスはつきものですが、それに伴って心も疲弊してしまうことは好ましくありません。
ここからは、情緒不安定になる原因と、その対処法について紹介します。
原因
情緒は心が感じるものです。心の痛みは、心にしか見えない不安・恐怖・いら立ちなどのストレスですが、日々の生活の中で体のどこかが痛むだけでも気持ちも滅入ります。
つまり、情緒が乱れる原因は、心だけではなく体にもあると言えます。暴飲暴食や不規則な睡眠などの生活の乱れによる体調不良も、大きく情緒が乱れる原因となってきます。
対処法
生活習慣の見直しやストレス軽減のメンタルトレーニングなど、対処法はさまざまです。
また、情緒の乱れが長引き、思うような改善が見られない場合には、医療機関への相談も必要となります。しかし、根本的な原因は「体と心のバランスが崩れていること」です。
体調管理や生活のリズムを見直し、心としっかり向き合いながら、落ち着いた気持ちで一つ一つの思考を整理してみることも、心のケア・リフレッシュには大切なことです。
情緒の類語・言い換え表現
情緒の類語として「風情」「気分」「心理」について例文を交えながら解説します。
情緒の類語を知って正しく使うことは、情緒の意味の理解を深めるとともに、心の機微の表現幅を広げ、コミュニケーション能力を高めることにもつながるでしょう。
風情
「風情(ふぜい)」の意味は、「味わい・趣、様子、気配」などです。情緒の「さまざまな感情を誘い起こす雰囲気や趣」と共通する意味合いの言葉です。
<例文>
- 秋の季節感と相まって、なんとも風情のある温泉宿だ
- 山あいに小さな団子屋の赤のれんなんて、なかなか風情があるもんだね
- 彼の焼き物は、何度見ても風情を感じる
気分
「気分」の意味は、「雰囲気、その時の気持ちの様子、趣」などです。気持ちや雰囲気などで「情緒」と重なりますが、呼び起こされる感情に自分の主観がやや色濃く作用する意味合いとなります。
<例文>
- 仕事のことが気になって、会いたい気分になれないんだ
- そう言ってもらえると、それ程悪い気分でもなくなるよ
- 気分直しに、今夜は飲みに行こうか
心理
「心理」の意味は、「心のありさま、精神状態」などです。情緒同様、感情に触れる言葉ですが、呼び起こされた結果の心の状態や様子を軸とする言葉となります。
例文は、「彼の独善的な振る舞いを見ていると、心理的に混乱してしまう」「どんな心理が作用すると、ああいう言葉が出てくるんだろう」「何が分からないって、彼女の心理ほど分からないものはない」などです。
情緒の対義語
情緒の対義語「理性」「理論」「知性」について、例文を交えながら解説します。
情緒は「感情」を表現する言葉です。感じ取ることに論理性はないので、論理性を必要とするものが対義語となり、それは「理性」と関連する言葉となります。
理性
「理性」とは、「論理的に物事を判断すること」です。
感じることは感情に従うことであり、論理性は感情を排除して思考を組み立てることですので、理性は情緒の対義語となります。
<例文>
- 彼の悪い癖は、理性的に考えようとせず感情論に走ってしまうことだ
- もっと理性を働かせないと、問題は何も解決しない
- 理性を失ってしまったら、動物と変わらない
理論
「理論」とは、「論理的に物事を判断するための筋道や理屈」です。
感情は理屈で説明のつかないことであり、理論は理屈が通らないと説明がつかないことですので、理論は情緒の対義語となります。
<例文>
- 理論的に考えるためには、もっと裏付けが必要だ
- 君の理論は感情的で、筋道が通っていない
- もっと理論武装しないと、彼を論破することはできない
知性
「知性」とは、「物事を正確に知り、判断する能力」です。
感情に正解はありませんが、知性には正確に判断して正解を得ることが求められるため、知性は情緒の対義語となります。
例文は、「あまり知性に頼りすぎると、人間性を見失ってしまうだろう」「あらゆるものに興味を持ち疑問を抱くことが、知性を磨くことになる」「もっと知性を働かせれば、可能性は見えてくる」などです。
情緒を英語でいうと?
日本語の微妙な言い回しは、英語にはなじみにくいとされています。そのため、完全に当てはまる英語表現はありませんが、似たようなニュアンスの言葉を使用できます。
「情緒」は感情を表現する言葉ですので、英語の場合も「感情、感動、情感」などの英語表現が当てはまります。
ここでは、「emotion」「affect」「emotional lability」という、3つの英語を用いて使い方と例文を紹介します。
emotion
「情緒」の英語表現でよく使われるのは「emotion」で、「感情、感動、情感」などの意味を持ちます。複数形で喜怒哀楽を意味し、「strong emotions」(激しい感情)などと使います。
<例文>
- He is emotional.
彼は情緒が豊かです。
affect
「affect」も情緒を意味する英語ですが、「~に影響する、作用する」の意味で動詞として使われることが一般的です。ここでは、「be full of ~」(~に満ちている)を使って例文を紹介します。
<例文>
- She is full of affect.
彼女は情緒に満ちている。
emotional lability
情緒の「一時的に発生する、激しい感情の高まり」の不安定な状態を英語表現すると、「emotional lability」となります。「lability」は「不安定さ、不安定性、易変性」の意味となります。
<例文>
- He is emotional lability.
彼は情緒不安定です。
情緒とは湧き起こるさまざまな感情や趣、一時的で激しい感情を表す言葉
情緒の意味や使い方などについて紹介しましたが、いかがでしょうか。
「情緒」に込められた意味をしっかり理解して正しく使い、社会人の言葉マナーに磨きをかけましょう。