アドビは6月14日、サブスクリプション型クラウドサービス「Adobe Creative Cloud」を構成するアプリやサービスの最新アップデートをリリースした。対象のメンバーシッププランを契約している会員は追加料金なしで順次バージョンアップして利用できる。

  • Lightroomの編集画面。動画のトリミングや色補正などをサポートした

    Lightroomの編集画面。動画のトリミングや色補正などをサポートした

ここでは、報道機関向けに開催されたオンライン説明会の様子とともに、おもなアップデート内容を紹介していこう。

動画、フォト、デザイン、3Dの各製品がアップデート

今回のアップデートは、「Adobe Creative Cloud」を構成するアプリのうち、Premiere ProやFrame.ioなどのビデオ製品、Lightroomなどのフォト製品、PhotoshopやIllustrator、Frescoなどのデザイン製品、Substance 3Dなどの3D製品にまたがる大規模なもの。

説明会では、Adobe IDを取得すれば基本機能を無料で利用できるクリエイティブツール・サービスのAdobe Express(旧名称:Creative Cloud Express)に関する最新情報も公開した。一部すでにリリース済みの機能もあるが、ここでは新機能と併せて説明していく。

モバイルでもCamera to Cloud機能を使った共同編集作業が可能に

ビデオ製品では、2021年に買収によりAdobeファミリー入りを果たした映像制作コラボレーションサービス「Frame.io」の機能のうち、「Camera to Cloud」のモバイル対応が挙げられた。

同機能はカメラで撮影した映像をそのままクラウドにアップロードして共同作業者と共有できるというもの。録画データと同期したプロキシファイルを生成して使うためアップロードとダウンロードが非常に高速で、遠隔地の共同作業者とほとんどリアルタイムでやりとりできるのが特徴だが、利用するには一部のビデオエンコーダーに対応した高価なカメラが必要でハードルが高かった。

今回、サードパーティ製アプリ「FiLMiC Pro」がCamera to Cloud機能をフルサポートしたことで、iPhoneやAndroidスマートフォンなどのモバイルデバイスでも同じような共同作業が行えるようになった。

説明会ではそのデモを実施。遠隔地にいる共同作業者のうち、一方がiPhoneのカメラで撮影すると、ほぼ瞬時にもう一方のデスクトップ版Premiere ProのFrame.ioパネル上にサムネールが表示されていた。

そのビデオを取り込み編集してアップロードすると、今度は撮影者側で編集済みビデオを閲覧できるように。さらに撮影者がそのビデオにコメントをつけると編集者側の素材にも直ちに反映され、コメント内容を見て修正することが可能だった。

  • Camera to Cloud機能を使い、モバイルデバイスのカメラで撮影した動画を共同作業者とクラウド経由で共有しているところ。スマホで撮影した動画が瞬時に遠隔地にいる共同作業者のパネルに表示されるため、取り込んで編集できる

Lightroomが動画編集をサポート

フォト製品ではLightroomが大きく進化し、動画編集ができるようになった。従来は、動画データをライブラリに取り込むことはできたが、編集自体はサポートしていなかった。今回のアップデートによって、動画のトリミングはもちろんだが、色補正なども写真素材と同様にスライダーやプリセットを使って行えるようになった。

ビデオ関連のプリセットも多数用意。好みのものを選ぶだけで、イメージに合った補正を行うことが可能になった。なかでもAdobe Sensei(AIと機械学習を組み合わせたアドビのテクノロジー)による「おすすめ」は、動画素材を解析してそれに合ったプリセットを提案してくれるため、動画編集に慣れていないユーザーでも手軽に活用できるのが便利。

デモでは、実際に「おすすめ」のプリセットを利用する手順も紹介されたが、Adobe Senseiが提案するサムネールから選ぶだけととても簡単。もちろん、プリセットを適用したあとで個々のパラメーターを調整して色を追い込むこともできる。

また「適用量」スライダーもあるため、全体のテイストは変えずにプリセットの効果を調節することも可能。たとえばレトロな色合いにしたいと思ってプリセットを適用したものの、色褪せた感じが強すぎる場合、適用量を調整することでそのレトロなイメージを保ったまま効果を弱めることができる。

  • 「適用量」のスライダーの概念図。プリセットを選ぶと、そのサムネールの下に表示されるスライダーで、全体のテイストを保ったまま効果のかかり具合を調整できる

おもしろいのは、Lightroomで補正した写真や動画を選択してコピー&ペーストするだけで、ほかの写真や動画に同じ補正を適用できる点。SNSに写真と一緒に動画を投稿する際、そのトーンを揃えたいことがあるが、そんな場合に便利そうだ。

このほか、説明会では友人や知人と写真を手軽に共有できるアルバム共有機能の動画対応や、機械学習による自動赤目補正機能なども紹介された。

  • 機械学習を活用した自動赤目補正機能も搭載

Photoshopの開発中ニューラルフィルターもお披露目

デザイン製品では、PhotoshopやFresco、Illustratorの新機能や機能強化を公開した。

Photoshopはデスクトップ版、iPad版、Web版がそれぞれ進化。そのうちデスクトップ版では、被写体などの選択範囲を自動で抽出してくれるオブジェクト選択ツールの精度が大きく向上。髪の毛の細かい部分まで精細に抽出できるため、複雑な被写体を切り抜いて背景と合成するのが格段に楽になった。

また、「編集」メニュー→「変形」→「ワープ」のプリセットに新しく「円柱」を追加。缶や瓶に貼り込むテキストの変形を簡単に行えるようになっている。

このほか、開発中の機能として新しいニューラルフィルター「写真を復元」もお披露目された。これはAdobe Senseiを活用して、褪色したり傷がついた写真をきれいに復元できる機能。古い紙焼きの写真をスキャンしてデジタル化した際などに活躍しそうだ。正式リリースを楽しみに待ちたい。

  • ニューラルフィルター「写真を復元」を適用する前(左)と適用した後(右)

  • ニューラルフィルター「写真を復元」の適用前(左)と適用後(右)。古い写真を色鮮やかに蘇らせることができる

iPad版は、5月のアップデートでデスクトップ版の定番機能である「コンテンツに応じた塗りつぶし」に対応したことを改めて発表。このほか画像の背景をワンクリックで削除できる「背景を削除」、被写体を高精度に自動抽出する「被写体を選択」なども搭載し、よりデスクトップ版に近い作業が行えるようになっている。

Web版は、「トーンカーブ」や「境界線を調整」、「スマートオブジェクトに変換」などの待望の機能をベータ版として追加。デスクトップ版との機能差はまだ大きいが、基本的な作業ならWeb版だけでもある程度は完結できそうだ。

Frescoは、ゆがみツールや漫画向けベクターブラシの追加、自動選択ツールの機能強化などが改めて披露された。このうち自動選択ツールは、クリックしたピクセルに近い色を自動的に選択してくれる機能だが、その選択する色の範囲(カラーマージン)をスライダーで微調整できるようになっている。

  • 自動選択ツールが、選択する色の範囲をカラーマージンスライダーによる微調整に対応

    自動選択ツールが、選択する色の範囲をカラーマージンスライダーによる微調整に対応

Illustratorは、最近のアップデートで3D機能の大幅な強化が図られているが、その関連機能を紹介。

作成したグラフィックを「3Dとマテリアル」パネルにドラッグ&ドロップで登録したり、3Dオブジェクトの遠近感をスライダーで簡単に調整したりすることが可能に。

オブジェクトやテキストを簡単に立体化できる「膨張」に「両側を膨張」というオプションが用意され、立体化したオブジェクトを裏面から見た時も膨らんだように見える表現ができるようになった。

  • Illustratorで作成したグラフィックを「3Dとマテリアル」パネルにドラッグ&ドロップするだけで登録可能に

    Illustratorで作成したグラフィックを「3Dとマテリアル」パネルにドラッグ&ドロップするだけで登録可能に

  • 「3Dとマテリアル」パネルに登録したマテリアルは、簡単に3Dオブジェクトの表面に貼り付けられる

    「3Dとマテリアル」パネルに登録したマテリアルは、簡単に3Dオブジェクトの表面に貼り付けられる

  • 「両側を膨張」で立体化したテキストを回転しているところ。裏面も膨らんているのがわかる

    「両側を膨張」で立体化したテキストを回転しているところ。裏面も膨らんているのがわかる

そのIllustratorでは、少し前にアドビの3D製品「Substance 3D」のマテリアルの一部を使用できるようになったが、今回のアップデートではそのツールセット「Substance 3D Collection」のAppleシリコンネイティブ対応も果たされている。そのほか、VR対応3Dモデリングソフト「Substance 3D Modeler」の年内リリースも発表された。

デザインスキルのない人でも気軽にクリエイティブできる「Adobe Express」

プロフェッショナル向けのサービスであるAdobe Creative Cloudに対して、デザインの知識やスキルがない人をターゲットにしたサービスが「Adobe Express」だ。2021年12月にAdobe SparkからAdobe Creative Cloud Expressにリブランディングされ、今回、名称が再度変更になった。

Adobe Expressは、プロのクリエイターが作成した多彩なテンプレートをアレンジしてオリジナルのデザインを作れるというもの。Adobe IDを取得すれば基本無料で、チラシやポスターのグラフィック、ロゴ、ブックカバー、メニュー、ショートビデオ、YouTubeサムネール、Webページ、履歴書、招待状などを作成することができる。

SNSに投稿する画像にも対応しており、5月のアップデートではその画像の投稿予約を設定できるようになった。また、AIがプロジェクトに最適なフォントを選んで提案してくれる機能や、プロジェクトに合った配色を試して適用できる機能なども追加した。

  • Adobe Expressは、AIがプロジェクトに最適なフォントを選んで提案してくれる機能なども搭載

    Adobe Expressは、AIがプロジェクトに最適なフォントを選んで提案してくれる機能なども搭載

このほか、JPEGやPNGをベクター化してSVGファイルに変換する機能や、指定したURLからQRコードを作成できる機能なども搭載し、より幅広いシーンで活用できるようになっている。

なお、今回のアップデートの一部は、リリースと同時にAdobe Blogでも公開されるため、気になる人はぜひチェックしてみてほしい。