老後の生活費に漠然とした不安を抱えている人は多いのではないでしょうか。老後資金がいくら必要かは、働き方や収入、生活スタイルによって人それぞれ。だからこそ、結局わが家はいくら貯めればいいのかが分からず、見て見ぬフリになりがちです。 今回は、老後資金の必要額や実際の貯蓄額の平均をもとに、わが家に合った貯め方を考えます。

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■老後資金は2,000万円本当に必要!?

【老後2,000万円問題の根拠は?】

老後資金というと、「2,000万円」という金額を思い出すかもしれません。2019年に発表された金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書をきっかけに、いわゆる「老後2,000万円問題」が大きな話題となりました。

参考:金融庁 金融審議会 「市場ワーキング・グループ」報告書 の公表について

この2,000万円の根拠となっているのが、総務省が公表している「家計調査」です。

2017年の家計調査では、高齢夫婦無職世帯の実収入209,198円と実支出263,718円の差額が約5.5万円でした。不足額が毎月5.5万円となる場合、20年であれば約1,300万円、30年であれば約2,000万円の備えが必要である、というのが根拠となっています

出典:金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第21回)厚生労働省提出資料

この根拠のもととなっている数字が変われば、もちろん必要額も大きく変わってきます。

【最新データで必要額を試算】

総務省「家計調査」2021年のデータを用いると、必要額はどう変わるのかを試算してみましょう。

2021年の家計調査では、高齢夫婦無職世帯の実収入236,576円と実支出255,100円の差額は約2万円と2017年の半分以下となっています。不足額が毎月2万円となる場合、20年であれば480万円、30年であれば720万円となります。

出典:家計調査報告[家計収支編]2021年(令和3年)平均結果の概要

2,000万円と720万円では備えへの負担感も随分変わります。情報に振り回され過ぎずに、わが家の備えを考える必要があることを感じていただけるのではないでしょうか。

【老後資金を考える際の注意点】

●平均データと上手に付き合う

平均はあくまで平均です。平均データがわが家の実情とは大きく乖離していることも当然あり得ます。とはいえ、わが家のデータがない場合、平均データを利用してまずは考えてみると行動のハードルが下がるのも事実です。

先の試算でも分かるように、前提条件が少し変わるだけで大きく結果は変わります。平均データを利用するときには、参考程度で考え、少しずつでもわが家のデータに修正していきましょう。

●介護費用についても考える

家計調査をもとに試算した老後資金には、特別な支出(介護施設への入居や住宅リフォーム費用など)は含まれていません。そのため、ご自身やパートナーに介護が必要になった場合の費用もある程度想定しておく必要があります。

公益財団法人生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護期間の平均は61.1カ月(5年1カ月)。介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)のうち、月々の費用の平均は8.3万円となっています。

また、一時費用(住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用)の合計額は平均74万となっていることから、介護費用には一人あたり平均約580万かかっていることになります。

●働き方によって必要額は大きく異なる

老後資金については、たくさんの情報が溢れています。ただし、その情報の多くは会社員を想定して書かれています。会社員と個人事業主・フリーランスとでは、受け取れる年金額に大きな差があります。

情報収集の際には、この情報はどんな働き方をしている人向けの情報なのかを確認するようにしましょう。

■老後資金、いくら貯めている?平均貯蓄額

実際にみなさんの平均貯蓄額はどれくらいあるのでしょうか。

金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和3年)」によると、60歳代の平均貯蓄額は2,427万円(中央値)、70歳代では2,209万円(中央値1,000万円)となっています。老後を60代以降と捉えれば、平均額では2,000万円以上の老後資金を貯めていると言えます。

【金融資産保有世帯】

平均 中央値
50歳代 1,825万円 800万円
60歳代 3,014万円 1,400万円
70歳代 2,720万円 1,500万円

【金融資産を保有していない世帯も含む】

平均 中央値
50歳代 1,386万円 400万円
60歳代 2,427万円 810万円
70歳代 2,209万円 1,000万円

収入の多寡や家族構成など、人によって条件が異なる上、老後資金の必要額も個人差があるので、判断が難しいところではあります。ただ、最新データによる老後の生活費の不足額720万円と介護費用二人分1,160万円の合計が1,880万円であることを踏まえて中央値で資産額を見ると、金融資産が不足している世帯が多いと言えます。

■老後資金のためにまずはやりたい3つのこと

【将来の働き方や過ごし方をイメージする】

何歳まで働くのか? 老後はどこで暮らすのか?なかなかイメージしづらいかもしれませんが、まずは一旦決めてみましょう。仮決めすると、より具体的にイメージしやすくなります。パートナーとお互いのイメージをシェアすることでも老後の過ごし方がより具体的になるはずです。

●年金額を試算する

老後資金をいくら貯めるかを考えるには、入ってくるお金を知る必要があります。まずは、老齢年金の受給額を試算しましょう。年金額は年金の加入状況や働き方、収入によって大きく変わるので、自分の場合はいくらか?を確認することが非常に大切です。

「ねんきんネット」にログインすると、現在の働き方を続けた場合や、働き方を変えた場合の年金額をシミュレーションできます。また、スマートフォンやタブレットで年金額を試算できるツール「公的年金シミュレーター」が2022年4月から試験運用を開始されているので、さらに手軽に年金額を試算できるようになりました。

参考:厚生労働省「公的年金シミュレーター使い方ホームページ(試験運用中)

●毎月の生活費を知る

老後の生活費は今の生活費をベースに考えます。老後は生活サイズをコンパクトにするつもりだったとしても、今の生活費が毎月50万円のご家庭と25万円のご家庭とでは、必要額も大きく変わるはずです。 実際に今のわが家の生活がいくらで成り立っているのかを確認した上で、老後の生活費も考えましょう。

■老後資金の貯め方メリット・デメリット

必要額が決まったら、次は貯める手段を決めます。さまざまな手段がありますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。

どれが得か?ではなく、どれがわが家に合うか?という視点で選ぶことが大切です。それを見極めるために、それぞれの手段の特徴を知りましょう。

【iDeCo】

●メリット:

  • 掛金が全額所得控除の対象になる
  • 運用益が非課税で再投資される
  • 受取時にも税制優遇を受けられる

●デメリット:

  • 原則、60歳になるまで資産を引き出せない
  • 掛金の上限額が決まっている
  • 元本割れのリスクがある

【つみたてNISA】

●メリット:

  • 20年間は運用益・分配金が非課税
  • いつでも自由に資産を引き出せる
  • 初心者でも少額から、低コストかつ長期的に運用可能

●デメリット:

  • 選べる金融商品が限定的
  • 損失が出たときに税制上の恩恵を受けられない
  • 元本割れのリスクがある

【財形年金貯蓄】

●メリット:

  • ある程度の強制力がある
  • 利子等に非課税措置が受けられる

●デメリット:

  • 年金以外の目的で払い出すと非課税措置がなくなる
  • 満55歳未満の勤労者に限られる

【個人年金保険】

●メリット:

  • 強制力がある
  • 死亡時の保障も得られる
  • 個人年金保険料控除の対象になる

●デメリット:

  • 途中解約すると元本割れの可能性がある
  • インフレに弱い
  • 保障部分の保険料がかかる

■無理なく老後資金を貯めるポイント

【老後資金は必須とゆとりをわけて考える】

老後の生活を考えるとき、理想と現実のバランスを難しく感じるかもしれません。

「退職後はゆっくり旅行がしたい」や「自宅をリフォームしたい」など、出てきた希望をすべて盛り込むと、必要額はその分大きくなります。将来に備えることを重視する余り、今の生活が逼迫してしまうのも考えものです。

最低限の生活をするのに必要な必須部分と心豊かに暮らすのに必要なゆとり部分をわけて考えて、まずは必須部分を確実に貯めるようにしましょう。

【わが家に合った貯める仕組みをつくる】

自分の手を動かさなくても自動で貯まる仕組みをつくりましょう。「老後にはまだ時間がある」そう思うと、ついつい貯めることを先送りにしてしまいがちです。どんな貯め方を選ぶにしても、自動引き落としなどを活用し、日々意識しなくても勝手に貯まるようにしておくのが貯め続けるコツです。

【定期的にライフプランを見直す】

将来のことは一度考えて終わりではありません。環境や状況が変われば、イメージする老後の過ごし方も変わります。年に一度はライフプランを見直すことを習慣化して、想定している老後資金にも大きく影響する変化があれば、必要額も修正しましょう。

【今すぐ行動する】

老後資金を貯めるには、時間が大きな味方となってくれます。とはいえ、日々の忙しさから「もう少し落ち着いてから……」と老後資金への対策を先送りしてしまうこともあるのではないでしょうか。

そんなときには、ねんきんネットの登録に必要な年金基礎番号を調べたり、記帳して預貯金の残高を調べたりといったように、小さな行動でいいので、今すぐ動くことを意識しましょう。

まとまった時間が取れない場合は、「毎週金曜日は必ずひとつ行動する」といったように、やるべきタスクを小さく分解して、少しずつでも積みかさねていくことをオススメします。

■まとめ:老後不安を解消するために

老後資金はご家庭によってその必要額は大きく異なります。だからこそ、借りものの数字ではなく、わが家の数字で考える必要があります。

1.老後の生活を具体的にイメージする
2.現在の生活費をもとに老後の生活に必要な額を試算する(介護費、ゆとり費を含めた額も試算する)
3.受け取れる年金額をシミュレーションする
4.老後までに貯める金額を計算する
5.貯める手段を選んで、自動で貯まる仕組みをつくる

簡単ではないかもしれませんが、今から少しずつでもこの5つのステップを踏むことで老後への不安を減らせます。ぜひ、すぐに取り組めることを探すところからはじめましょう。