「便宜を図る」や「便宜上」、「便宜的」といった形でよく見掛ける「便宜」について解説します。「便宜」はビジネスシーンでは頻繁に使用されますが、同時に使い方には注意したい表現です。読み方や意味、言い換えなど、しっかりと把握しておきましょう。英語表現もご紹介します。
「便宜」とは
まずは「便宜」の基本的な意味を見ていきましょう。
「便宜」の読み方
「便宜」は、「べんぎ」もしくは「びんぎ」と読みます。「べんぎ」という読みが一般的な用法となりますので、ますはこちらをしっかりと覚えておきましょう。なお「宜」は「宣言」の「宣(せん)」と似ていますが、異なる漢字です。「適宜」などの言葉にも使われる、「よろしい、都合が良い」という意味の漢字です。表記する際は、混同しないように気をつけましょう。
「便宜」の意味
「便宜」は、「必要なものやある目的にとって好都合であり、便利なこと」「特別な処置、その場に適したやり方」「音信、便り」などの意味を持っています。主に1つ目と2つ目の意味で用いられることが多いでしょう。
「便宜を図る」の使い方には要注意
特にビジネスシーンでは、「利便性を配慮し、特別な処置などを行う」という意味で、「便宜を図る」という表現もよく使用されます。例文としては「彼のために、便宜を図ってあげてほしい」などとなります。
ただし、この「便宜を図る」には、文脈や受け手によっては「慣習やモラル、法律などに反する形で利益を供与する」といったニュアンスを含むことがあります。例えばニュースなどでは、「便宜を図る見返りとして、賄賂を受け取ったとして…」などのフレーズを耳にすることもあるでしょう。そのため、特に仕事上で使う際には注意が必要です。
「便宜を図る」という表現に対してネガティブなイメージを持つ人に対して、感謝の意を伝える意図で「このたびは便宜を図っていただき、ありがとうございます」などといった場合、相手が不快感を抱く可能性があります。取引先や目上の人、上司などに謝意を示す場合には、「便宜を図る」を「ご配慮」や「ご対応」、「お取り計らい」などに置き変えて、「このたびはご配慮いただき、ありがとうございます」といった表現にしてもいいでしょう。
「便宜」を使ったその他のフレーズ
その他、下記の形でもよく使われますので覚えておきましょう。
便宜上
「ある物事に関して、その方がより都合が良い、便利であること」を表します。「上」は「~の観点から、~の面で」という意味です。例えば「会社では便宜上、旧姓を用いている」などの形で使われます。
便宜的
「絶対的なものではなく、その場の都合が良いように、取りあえず物事を処理する様子」という意味です。間に合わせ、その場しのぎというニュアンスがあります。「十分な時間が無かったので、便宜的な処置を取った」などの形で使われます。
便宜供与
「他の人に対して便宜を与える、つまり物や利益を提供して特別な計らいをすること」です。
労働組合と会社間の文脈では、労働組合が会社に対して、労働組合の影響力を強めるための取り計らいを求めることを意味するとされています。
また、警察の取り調べにおいては、容疑者に「昼食は何を食べたいか」を聞くことも、便宜供与にあたるとされています。
「便宜」の使い方と例文
「便宜」は、「好都合なこと」や「特別な処置」などを意味する言葉です。次の「便宜」の例文を参考に、正しく使えるようになりましょう。
・愛好者への便宜を図るため、年間パスポートはかなり割安な設定にしました
・この法案は、育休制度などを通じて子育て世代へ便宜を図るためのものです
・あの会社にはさまざまな便宜を図ってきたので、今回のコンペには有利に働くはずだ
・便宜上、英文表記をそのまま残しています
・この名称は正式決定前の、あくまでも便宜的なものです
・会社が労働組合に対し、便宜供与となる経費援助を行うことは、原則として禁止されている
「便宜」の言い換え表現
言葉の意味をより深く理解するためには、類語や言い換えを確認することも大切です。「好都合なこと」や「特別な処置」などを意味する「便宜」についても、似た意味を持つ言葉がありますので、いくつかご紹介しましょう。
好都合(こうつごう)
「条件などに当てはまり都合が良いことやその様子」という意味です。使い方は「彼の申し出は、こちらにも好都合だった」などとなります。
重宝(ちょうほう)
意味は「便利で役に立つこと。また、そう思って常に使うことやその様子」です。読みは同じで、「調法」という表記もあります。
利便(りべん)
「都合の良いことやその様子」という意味を持ちます。
便利(べんり)
「目的を果たすのに都合が良いこと。重宝で役に立つことやその様子」という意味を表します。
便益(べんえき)
「便宜と利益、つまり都合が良くて利益のあること」という意味です。
有利(ゆうり)
「他よりも状態や条件が良く利益のあることや、利益の望めること」を表す表現です。「その決定は、わが社に有利に働いた」などの形で用います。
配慮(はいりょ)
「心遣い、心を配ること」を意味します。「配慮する」「配慮いただく」などの形で、「便宜を図る」の言い換え表現として使用できます。
取り計らい(とりはからい)
「物事が何事もなく上手に運ぶよう、考えて処理をする」という意味の表現です。こちらも「取り計らう」「お取り計らいのほど」などの形で、「便宜を図る」の言い換え表現として使用できます。
「便宜」の英語表現と例文
「便宜」の英語表現は、「convenient」が一般的です。その他に、「expedient」や「benefit」なども考えられます。また、「便宜上」に該当するものとして「for convenience」などの表現があります。
convenient
「便利な、使いやすい、都合が良い」などを意味する形容詞です。名詞は「convenience」です。
(それは私にとって好都合です)
・For convenience, guest rooms were on the second floor.
(ゲストルームは便宜上、2階にあった)
expedient
「expedient」は、「好都合で、便宜主義の」などを意味する形容詞です。道徳的ではないという意味があるため、ネガティブなニュアンスを含みます。
(その計画は、便宜主義なやり方で進められた)
benefit
「benefit」は、「利益、ためになること」などを意味する名詞です。
(彼は、その会社から便宜を受けた)
「便宜」の意味を知って正しく使おう
「便宜」は、「好都合なこと」や「特別な処置」などを意味します。
日常生活よりも、むしろビジネスシーンでよく使われる言葉でしょう。実際、利用者や顧客にとっての「好都合なこと」や、取引先に対する「特別な処置」をあれこれ考えることこそが、ビジネスの基本と言ってもいいかもしれません。これらの行為を表現する言葉として、「便宜」はとても便利な存在です。
ただし、本文でも触れましたが「便宜」や「便宜を図る」といった表現は、文脈によってはネガティブなイメージを与える可能性があるので注意しましょう。
ビジネスシーンでは「便宜」は頻繁に用いられ、それだけに意味や使用法などをしっかりと押さえておきたい言葉です。皆さんもこの記事を参考に、「便宜」の意味するところをしっかりと把握しておきましょう。