この測定システムは、研究チームが提案して実証を行った、単一画素型のシリコン光検出器でも実装可能で、かつ高分解能測定が実現可能な「フーリエ変換型量子赤外分光法(QFTIR)」に基づいているという。

装置の流れとしては、まず励起レーザー光を非線形光学結晶AgGaS2に入射することで、VNIR光子と指紋領域の赤外光子の対が発生。この光子対を、波長フィルターで分離し、赤外光子を鏡で反射させるほか、可視光子とレーザー光も、別の鏡で反射させて非線形光学結晶に再度入射されると、再度光子対が生成。この2つの光子対の発生プロセスは、その出力からは、光子対がどちらのプロセスで生じたのかを区別することができないため、量子力学的に干渉する。その2つのプロセス間の「位相差」を、赤外光子の反射鏡の位置を掃引し変化させることで、発生するVNIR光子は増減し、その結果VNIR光子の検出信号をプロットすると、量子干渉縞が表れるという。

そして、この干渉縞をフーリエ変換することで、赤外光子の強度スペクトルが得られることとなり、この量子干渉縞および強度スペクトルは、赤外光子の経路に挿入した試料の、各波長での吸収により変化するため、試料を挿入していない時のそれと比較することで、赤外域の吸収スペクトルを得ることができるという仕組みだという。

  • 指紋領域での量子赤外吸収分光装置の概要図

    指紋領域での量子赤外吸収分光装置の概要図 (出所:京大プレスリリースPDF)

量子もつれ光のうち、波長約860nmのVNIR光子をシリコン光検出器で検出することで、指紋領域である波長8~10.5μmの量子赤外分光を、フッ素樹脂(PTFEシート)をサンプルとした検証実験が行われたところ、波長8.3μmおよび8.7μm付近に吸収線が見られたとするほか、従来型のFTIR(フーリエ変換型赤外分光計)では観測の困難な、赤外光の位相変化スペクトルの計測にも成功、物質鑑別や定量評価に新たな情報を提供できることが示されたとしている。

なお、研究チームでは、将来的にコンパクトで高性能な赤外分光装置の実現により、環境モニタリングや、医療・セキュリティなどさまざまな分野への波及効果も期待されるとしており、今後については、今回の技術の実用化を目指し、より長波長域での赤外量子分光測定の実証や、装置の小型化・高感度化などの研究を推進していくとしている。