四国新幹線の実現をめざす「四国新幹線整備促進期成会」は、「四国アライアンス地域経済研究会」がまとめた「新幹線と四国のまちづくり調査」の報告書を6月1日に発表した。既存の整備新幹線駅を参考に、四国新幹線の駅のあり方をまとめた。この中で、四国新幹線の駅候補地として10カ所を挙げている。具体的な駅のイメージを提案し、沿線地域の気運を高めるねらいがある。

  • 四国新幹線の構想路線図と駅候補地(「新幹線と四国のまちづくり調査」を参考に地理院地図を加工)

「四国新幹線」と「四国横断新幹線」は、全国新幹線鉄道整備法にもとづき、1973(昭和48)年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示された。いわゆる基本計画路線である。四国新幹線は大阪市と大分市を結び、経由地として徳島市、高松市、松山市を結ぶ。四国横断新幹線は岡山市と高知市を結ぶルートだった。しかし、大阪市・徳島市間の紀淡海峡と鳴門海峡、松山市・大分市間の豊予海峡の建設費が大きく、実現には至らなかった。

2013年に四国4県と四国経済連合会、JR四国などで結成された「四国の鉄道高速化検討準備会」が、「海峡を含まず、瀬戸大橋で岡山に連絡する」ルートで検討したところ、投資基準を満たす可能性が出た。2014年には、試算結果として「概算事業費1.57兆円、年間経済波及効果169億円、費用便益比1.03」と発表。これ以降、四国新幹線は東西方向・南北方向を結ぶ路線の総称となり、四国内一体整備の方針となっている。

■候補地は香川県4、愛媛県1、高知県2、徳島県9

報告書に示された候補地は次の通り。

●香川県「高松駅付近」「栗林駅付近」「伏石駅付近」「高松空港駅地下」

「高松駅付近」は高松駅の南側に設置する。高松駅は宇高連絡船と接続した時代の名残から、港に向かった行き止まりの駅となっている。現在の高松駅の真横に新幹線駅を設置すると、徳島方面へ続かない。かといってスイッチバック式は運用面において現実的ではない。急カーブで徳島方面へ向かうと高松城趾に当たる。そこで、在来線の高松駅より南側に傾ける。香川経済同友会の案では、現在の高速バスターミナル付近とされ、ことでん(高松琴平電気鉄道)の高松築港駅も新幹線駅の南側に隣接させる。

  • 高松駅の位置(「香川経済同友会 四国新幹線(新)高松駅構想について」を参考に地理院地図を加工)

「栗林駅付近」はJR高徳線の栗林駅に併設する。高松駅から数えて3駅目、距離は4.3km、所要時間は7分。特急列車も停車する。本州四国連絡橋公団(1970~2005年)が新幹線駅として検討していたという。国の特別名勝である栗林公園に近く、マンションが建ち並ぶベッドタウンとして開発が進んだ。栗林駅の西側でことでん琴平線と交差しており、新幹線駅と合わせてことでん側も駅を新設すれば、交通結節点として整備できる。琴平方面の観光も便利になる。

「伏石駅付近」はことでん伏石駅の交差部で、高松自動車道と並行する位置。伏石駅はバスターミナルを整備中で、新幹線駅を設置すれば高松市中心部だけでなく、香川県全域から新幹線にアクセスできる。

「高松空港駅直下」は高松駅の南、約15kmの位置。高松市の外れにある。全国からの航空便と新幹線の接続が便利になり、高松空港から愛媛県・徳島県・高知県の県都へ約1時間でアクセスできる。四国のハブ空港を狙った案。新幹線ルートとして、岡山~徳島間を最短距離で結ぶ利点もある。

  • 栗林駅、伏石駅、高松空港の位置(「新幹線と四国のまちづくり調査」を参考に地理院地図を加工)

筆者の観光客視点では、最も有力な地点は「高松駅付近」と思われる。ビジネス・観光の拠点として、高松駅周辺は企業やホテルが集まっているほか、JR予讃線・高徳線やことでんが発着する交通結節点である。港があり、小豆島など瀬戸内の離島観光にアクセスできる利点も見逃せない。「高松空港駅直下」は四国の交通結節点として便利なように見えて、高松市や香川県の利点は薄いような気がする。四国各県の県都はすでに空港があり、ここで乗り換える必要はない。むしろ高松空港に必要な路線は、ことでんを延伸したアクセス鉄道だろう。

●愛媛県「松山駅」

現在、松山駅周辺では2024年度の完成をめざし、高架立体交差工事が進んでいる。松山駅は在来線の駅の西側に高架ホームを建設し、現在の在来線ホームの跡地を新幹線駅に転用すると想定している。駅の高架工事が完成すると、伊予鉄道の市内電車が松山駅付近に乗り入れ、さらに西側へ延伸予定もある。松山市内のアクセスは便利になり、予讃線で南予・宇和方面とも連絡できる。愛媛県の県都駅はこの一択となる。

  • JR松山駅周辺の整備計画図。在来線地表部の空白地が新幹線駅候補(「JR松山駅周辺のまちづくりパンフレット」より)

●高知県「高知駅付近」「後免駅付近」

「高知駅」については、北口に乗り入れてJR土讃線と垂直に接続する案と、南側で土讃線に並ぶ案の2案がある。土讃線には、高知県西部の土佐くろしお鉄道中村線・宿毛線へ直通する特急「あしずり」「しまんと」が発着。高知県東部の土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線に直通する快速列車も発着する。とさでん交通の路面電車・路線バスも集積する交通結節点となっている。

「後免駅付近」は土讃線に並ぶ形で、後免駅の北側にホームを設置する。土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の起点であり、室戸方面の観光拠点となるだけでなく、高知龍馬空港にも近い。高知県第2の交通結節点というだけでなく、周辺の土地に開発の余地もある。新幹線駅をきっかけに第2の県都を作るという考え方だろう。

  • 高知駅、後免駅の位置(「新幹線と四国のまちづくり調査」を参考に地理院地図を加工)

筆者の見立てでは、素直に高知駅がいい。高知駅から後免駅まで普通列車で20分前後。高知駅に余地がないならともかく、観光や出張などで高知へ行きたい人にとっては高知駅発着がベストで、高知駅から離す理由はない。余談だが、後免駅が新幹線駅になった場合、駅名は「後免」のままだろうか。「新高知」になったとしたら、「後免」という趣のある駅名が消える。寂しい。

●徳島県「鳴門エリア7地点」「徳島阿波おどり空港」「徳島駅」

「鳴門エリア7地点」は、JR鳴門線の鳴門駅のほか、撫養(むや)駅、金比羅前駅、教会前駅、立道(たつみち)駅に併設、あるいは神戸淡路鳴門自動車道の鳴門IC東側、吉野川パイパスと大谷川の交差部の候補群を示す。本命は鳴門駅併設で、土地収用などで難しい場合は残り6地点を選び、開発を行う。このエリアを選定した理由は、岡山・高松方面から直線的に建設できるほか、紀淡海峡ルートによって淡路島および関西方面のアクセスを考慮したからだという。関西に最も近い立地で、四国の玄関口として期待されている。将来の徳島から大阪方面の延伸においても都合がいい。

「徳島阿波おどり空港」は鳴門エリアと同じ構想に加えて、全国から四国への入口になる。大阪ベイエリアにある関西国際空港、大阪国際空港、神戸空港、南紀白浜空港と連携することで、中長期にわたる投資効果を期待できる。災害時は徳島阿波おどり空港が他の空港の代替機能を発揮できる。徳島阿波おどり空港の周辺は製造業の工場も多く、新たな企業の誘致も期待できる。

「徳島駅」は県都・徳島市の中心であり、JR高徳線・徳島線・牟岐線のほか、路線バスのターミナル機能もあるため、徳島県全域にアクセスできる。徳島市は2019年6月にまちづくり計画を策定し、牟岐線徳島~文化の森間の鉄道高架事業と合わせて「水辺の空間を生かした賑わい交流軸」を形成する構想がある。鉄道高架事業に合わせて新幹線の高架駅を建設すれば、県都の機能は増強される。

  • 徳島駅、鳴門エリア、徳島空港の位置(「新幹線と四国のまちづくり調査」を参考に地理院地図を加工)

筆者が見立るまでもなく、「徳島駅」案が有力になるとみられる。鳴門エリアも空港も徳島市中心から離れすぎており、「新幹線は県の中心市街地を結ぶ」という理念から離れる。

鳴門エリアでは、在来線の「紀淡海峡鉄道」を先行開業する構想がある。すでに鳴門大橋に鉄道用の構造物があり、紀淡海峡をトンネルで結ぶ。新幹線を通すまでは、関西空港鉄道のようにJR・私鉄の在来線が乗り入れ、徳島あるいは高松へ直通する。鳴門エリアは「紀淡海峡鉄道」を待ってもいいと思う。

「徳島阿波おどり空港」は徳島駅までリムジンバスで約28分。料金は600円。アクセスは良いほうだが、軌道系アクセスを新たにつくるなら、四国新幹線の途中駅として、徳島駅の手前に設置してもいい。

■中間駅はここにほしい

「新幹線と四国のまちづくり調査」は、前半で他の地域の新幹線駅と地域づくりの取組みを紹介している。四国の新幹線駅とまちづくりに生かすためで、かなり詳しい内容だ。しかし、後半で候補に挙がった駅はすべて「県都駅」で、中間駅には触れていない。

四国新幹線は建設コストを下げるため、単線で試算されている。ダイヤを工夫して、速達列車は行き違いなしで直行するとしても、増発を考えれば中間に行き違い設備が必要で、駅を設置する可能性もある。どこに設置すればいいだろう。

徳島県内で「鳴門エリア」「徳島阿波おどり空港」を中間駅としてもいい。同様に中間駅候補地を探してみると、瀬戸大橋へ合流、あるいは高松・松山への分岐点にあたる宇多津・坂出付近に駅がほしい。琴平観光の入口にもなる。分岐点といえば、高知方面の分岐点となる愛媛県四国中央市も、運転上で必要な駅になるだろう。

愛媛県ではもうひとつ、新居浜~伊予西条間にも駅がほしい。今治へのアクセスルートになるし、なにより「新幹線の父」ゆかりの地だ。第4代国鉄総裁の十河信二氏は新居浜出身で、西条市長も務めた。ここに駅を置くことは、地域の活性化はもちろんだが、鉄道に携わる人々のロマンでもあると思う。十河信二記念館の鏡像越しに、四国新幹線の雄姿を見たい。