日本政府が宣言した、2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」。これを実現するため、省エネ・再エネに関するさまざまな取り組みが加速しています。その1つが電気自動車(EV)の普及です。

2035年には乗用車の新車販売を100%、EVにすることなどが目標設定されているので、これから急速に普及が進みそうです。個人や家庭の車だけでなく、法人で利用する車も同様なので、今後は配達車や営業車もEV化していきます。むしろ、EVの普及は業務用途からスピードアップするかもしれません。

  • パナソニックの敷地内(大阪府)に設置された、EV充電インフラソリューション「Charge-ment(チャージメント)」の実証設備

    パナソニックの敷地内(大阪府)に設置された、EV充電インフラソリューション「Charge-ment(チャージメント)」の実証設備

そうした背景をうけ、パナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW社)は、EV充電器とEVの複数導入を計画する事業者向けの新サービスを2022年10月から展開します。EV充電インフラソリューション「Charge-ment(チャージメント)」です。

電気代を削減するポイント「ピークシフト」

チャージメントは、複数台のEV充電器「ELSEEV」をパナソニックのクラウドサーバーへ接続し、EVの充電制御を行うサービス。EV充電のピークコントロールをする点が大きな特徴です。

  • チャージメントは複数台のEVを運用する自治体や企業向けのサービス

例えば、営業用のEVを複数所有する事業所にて、お昼や夕方に複数の営業車が続けて帰ってきた場合を考えてみましょう。通常は充電器とEVを接続するとすぐ充電を行うため、帰社した複数のEVが一斉に充電を始めることになります。すると使用する電力が一気に増えて、大きなピークが発生しますよね。

消費電力のピーク上限が高くなると、事業者側には課題が出てきます。「ピーク電力や増加する電力に見合う設備増強が必要になること」、「電力使用量やピーク電力が増えることで電気料金の基本料金が上がること」の2つです。

  • 使う電気が増えると、電気設備の増強が必要に

  • チャージメントがない場合は(左)、18時にピークが発生。一方、チャージメントを導入した場合は(右)、ピークをコントロールして上限が低く保たれます

チャージメントは、利用状況に応じて使用電力のピークをコントロールするので、導入側では電気設備の増強が不要になる場合もあります。さらに基本料金の上昇も抑えるというわけです。チャージメントの導入シミュレーションでは、「低圧電力の拠点で充電器とEVを各10台導入したとして、年間120万円の削減効果が見込める(各車両の1日走行距離を100kmとした場合)」(パナソニックEW社 室井義則氏)とのこと。この金額は大きいですね。

「電気代は、過去の1年間でもっとも電気を使ったところにあわせて基本料金が決まります。一時的にでも電気使用量が上がると、1年間の基本料金が上がってしまうため、それを抑えるためにピークコントロールが必要なのです」(パナソニックEW社 芳本寛二氏)

  • パナソニックEW社 エナジーシステム事業部 エネルギーソリューション事業推進センター 所長 室井義則氏

  • パナソニックEW社 エナジーシステム事業部 エネルギーソリューション事業推進センター ソリューション商品企画部 部長 芳本寛二氏

電気のピークをコントロールすることが、電気代というランニングコストの低減につながります。

  • 使用電力のピークをコントロールすることは、ランニングコストを削減する重要なポイント

相談、運用管理までワンストップで行う

チャージメントのサービス内容を詳しく見てみましょう。まず導入前の段階で、導入効果をシミュレーション。導入事業者のニーズに応じたシステムを、幅広いラインナップから提案していきます。さらに、導入してからは利用データを計測して、改善の提案も行います。

  • 導入シミュレーションだけでなく、導入後もしっかりサポート

管理はデジタル化しているので、充電器の利用状況などは手元のパソコンやタブレットでチェックできます。充電条件の設定や、複数拠点の一元管理にも対応しています。

複数あるうち、任意のEVを先に充電するといった細かい設定も用意しているので、柔軟に運用できるでしょう。充電の時間帯を設定すれば、空調や照明などほかにも電気を使っている時間帯はEVの充電を待機状態にして、社員がいない夜間にEVを充電するといった使い方も考えられます。

  • 管理は遠隔で行います

  • 管理画面。どれくらい電気を使っているか、ひと目で分かります

  • 充電器を差し込むと赤いランプが点灯

  • 充電停止中の充電器には赤いランプがつきません

  • 複数のEV充電器を一元管理

導入コストは、10台のEVを導入する場合、初回に充電器、多回路エネルギーモニター、ブレーカー、ゲートウェイといった機器で約300万円。それに、機器の保守管理費用と、サービス運用費がかかります(ランニングコスト)。パナソニックEW社によると、EVの充電器が5台以上になるとピークコントロールの効果がより出やすくなります。

「EV充電のハードウェアとサービスがセットになっているところは他社にもありますが、チャージメントは導入前にシミュレーションをして豊富なラインナップから提案できるところが強み。また、導入後に何か問題が起きた場合も、ワンストップで対応できます」(室井氏)

別々の会社で管理していると、問題が起こったときにハードウェアの会社に連絡したり、クラウドの管理会社に連絡したりと、煩雑になりますね。この話を聞いて、パソコンとインターネットにトラブルが発生したとき、いろいろな場所に連絡して大変だったことを思い出しました。

必要な機材とあわせて、導入・保守・運用のサービスをパナソニックEW社がまとめて手がけるなら、何かあってもパナソニックEW社の担当窓口に連絡すればいいので、迷わずにすみます。導入前にはしっかりシミュレーションするため、営業拠点数や所有するEVの台数に応じて最適にシステム設計できるのも心強いところ。

「EVを複数導入したいけどどこに相談したらいいかわからない」「複数のEV導で電気の基本料金を上げたくない」といったニーズがあれば、チャージメントは魅力的なソリューションになるでしょう。また、パナソニックグループは電気設備のサービス拠点を全国に持っているため、どの地域でもアフターフォロー体制が整っている点も魅力といえます。

計測・制御はパナソニックのコア技術

今回は事業者向けのEVの充電器に関するサービスですが、将来的には蓄電システムや太陽光との連携や、集合住宅へのサービス展開なども検討していくそうです。

「以前から蓄エネ・創エネに関するサービスを提供しており、電気の計測と制御は当社のコア技術。チャージメントはこのコア技術を軸に展開するサービスです。将来的には一般向けの住宅領域でも、こうしたEVの制御サービスの展開が考えられます。特に一般家庭では、EVがもしものときの蓄電池として期待されています。そのとき、EVの電気をどう制御するのかがポイントになってきます。電気の有効利用、計測、制御といった当社の強みが生きてくると思います」(芳本氏)

ランニングコストを抑えられるだけでなく、サポート体制がしっかりしているところはパナソニックならでは。チャージメントはBtoB向けのサービスですが、カーシェアなどの分野で利用が広がれば、一般消費者の私たちも、もっとコストを抑えてEVが使えるようになるかもしれません。今後の一般家庭向けサービスの展開にも期待したいところです。

  • チャージメントは自治体や事業者向けのサービスとしてスタート

  • パナソニックは以前から、太陽光発電、蓄電システム、燃料電池といった幅広い創エネ・蓄エネサービスを展開。電気の計測・制御はパナソニックのコア技術