具体的には、米国Human Connectome Projectのデータベースに登録されている1027名のデータを用いた分析が行われた。心血管リスク因子として、身長と体重から算出したBMIおよび収縮期と拡張期の血圧データが使用された。体力の指標としては、NIH Toolboxで測定された持久力、歩行速度、手指巧緻性、筋力のデータが用いられた。
また社会的認知機能の指標としては、アニマシー知覚(対象物に意図や生物性を感じること)の正確性と、顔写真からその人の感情を読み取る社会的認知機能を評価する表情認知課題の反応時間と正答率が用いられた。
そしてfMRIを用い、社会的認知中(アニマシー知覚中)の脳活動が計測された。これらのデータを用いて、心血管リスク因子および体力と社会的認知中の脳活動の関係が調べられたほか、心血管リスク因子および体力が、社会的認知中の脳活動を介して社会的認知機能とどのように関わるかについての分析が行われた。
その結果、BMIと血圧が高く、体力が低いほど、社会的認知中の社会脳ネットワークに関わる領域(側頭頭頂接合部、側頭葉、下前頭回、後帯状皮質)の脳活動が低いことが判明したという。これらの関係は、特にBMI、持久力、手指巧緻性において強いことも確認された。また、心血管リスク因子と体力は、社会的認知中の脳活動を介し、アニマシー知覚の正確性と表情認知課題の成績と関わっていることもわかったという。
これらの結果は、BMIと血圧が高く、体力が低いことは、社会脳ネットワークに関係する脳活動の低下を介し、社会的認知機能の低下と関わることを意味していると研究チームでは説明する。
なお今回の研究では、因果の方向(心血管リスク因子と低体力が社会的認知機能低下の原因なのか、社会的認知機能が低いことが心血管リスク因子や低体力の原因なのか)は明らかにできていないとする。運動や食事などの健康的なライフスタイルが、社会的認知機能を向上させることができるのかどうかを調べるためには、実際に介入を行って効果を検証する必要があるという。
また、社会的認知機能との関係は特にBMI、持久力、手指巧緻性で強く認められたため、体重の減少と持久力および手指巧緻性の向上に効果が高い介入法は社会的認知機能の向上に効果的である可能性があるとしている。