楽天グループ、パナソニック ホールディングス、西友の3社は共同で、自動配送ロボット(UGV:Unmanned ground vehicle)の公道走行による配送サービスを発表。茨城県つくば市内の一部エリアにおいて、2022年5月28日から開始している。
具体的には、7月30日までの毎週土曜日に、つくば駅周辺の約1,000世帯を対象として、「西友つくば竹園店」で取り扱う商品を注文から最短30分で配送するというものだ。UGVの公道走行によって、スーパーが販売している商品を最短30分で届けるオンデマンド配送の実現は、国内初となる。サービス開始に先立ち、メディア関係者向けの説明会とデモンストレーションが行われたので、その様子をレポートする。
生鮮食品や冷蔵・冷凍商品の配送も可能に
まず、楽天グループ株式会社 コマースカンパニー ロジスティクス事業 ドローン・UGV事業部 ジェネラルマネージャー 向井秀明氏が登壇し、サービスの概要を説明。
今回のサービスでは、西友つくば竹園店が配送元となり、期間は2022年5月28日から7月30日までの約2カ月間だ(毎週土曜日のみ)。対象の商品は、飲食料品や日用品など2,000点以上。生鮮食品や冷蔵・冷凍商品、お弁当・お惣菜も含む。1回ごとに手数料として110円かかる。
楽天は2022年の2月から3月にかけても、今回と同じエリアでUGVによる配送サービスの実証実験を行っていたが、今回は配送エリアを拡大。加えて、対象商品も以前の実験と比べて大幅に増えている。前回は実験ということで、手数料や配送料金はナシだったが、今回のサービスでは手数料を導入した。本サービスまで見据えて、一歩進めたというところだろう。
サービスの流れもシンプル。スマートフォンから専用サイトで注文するだけで、店舗からUGVが出発して公道を自動走行し、自宅前で受けとるという仕組みだ。
Uberなどのように、UGVの配送中はリアルタイムで現在位置を確認でき、目的地に近づくと自分のスマホに通知が来る。届ける時間は事前の予約で決めるほか、UGVが空いていれば「すぐに配送」も選べる。
今回のサービスにあたっては、楽天が配送専用のロッカーと保冷ボックスを開発。常温・冷蔵・冷凍という3つの温度帯で配送が可能になり、実用性が向上した。保冷ボックスに入れた商品の温度は90分の間、基準内で保たれる。また、店舗側の注文・配送管理システムも新たに開発し、注文と配送を一元的に管理できるようになった。
続いて、パナソニックHD株式会社 テクノロジー本部 モビリティソリューション部 部長(兼)モビリティ事業戦略室エリアサービス事業戦略担当 東島勝義氏が、今回のサービスで利用されているロボット・プラットフォームについて解説。
今回、楽天とパナソニックHDが共同で、多様なニーズに応えるロボット・プラットフォームを開発した。ロボットの走行を担う安全自律走行プラットフォームはパナソニックHDが、その上の荷室は楽天グループが担当している。
安全自律走行プラットフォームは数多くのセンサーを搭載し、機能安全に関する国際規格に適合している。また、公道での配送サービスを支える運用ソリューションも進化させ、これまではパナソニックグループが運用してていたが、今回は楽天グループが運用することになった。UGV自体は自動で動くが、監視員が1人、UGVに常時随行することになっている。また、複数のエリアにおける配送サービスを、1つの運用センターで集中管制する仕組みも構築した。
今回のサービスは、楽天グループ、西友、パナソニックHD、つくば市という4者が、それぞれの領域で協力することによって実現したもの。今後も自動配送ロボットの活用によるイノベーションを加速させ、安全・安心で便利な社会の実現を推進したいとのことだ。
デモンストレーションも問題なく成功
説明会終了後、実際にデモンストレーションが行われた。利用者は、2月~3月に行われた試験サービスを2回利用したという藤沢さん。デモンストレーションについては、楽天グループの牛島裕之氏が内容を紹介した。
デモの最初から最後までUGVを追いかけながら取材したのだが、筆者の感想は「走行が安定していてすばらしい」だ。実は、筆者は2007年から5年間にわたって、つくば駅周辺で行われている「つくばチャレンジ」というロボットの公道走行チャレンジを取材したことがある。特に初めうちの数年は、あらかじめ指定されたコースを走行するだけのミッションにどのロボットも苦労しており、わずかの段差を超えられなかったり、コースを間違えて止まってしまったりするところを見てきた。
2008年のつくばチャレンジでは、本走行(1km)にチャレンジした21台のロボット中、完走したのはわずか1台という結果だった。しかし今回のUGVは、橋など多少の勾配はものともせず、重い商品を搭載した状態でとても安定して走っていた。
つくばチャレンジから十数年も経っているとはいえ、ロボット技術が大きく進化したことを実感した。UGVの周りに搭載されたカメラの映像はリアルタイムで運用センターが確認しており、今回のサービスでは常に監視員がUGVに随行している。もし何か危険なことがあったら緊急停止できるのだ。デモンストレーションの最中でも、UGVのすぐ前を横切った歩行者に対してセンサーが反応し、自動停止する場面が見られた。UGVの最高スピードは時速4km程度とのことだが、大人が少し早足で歩くくらいの速度なので、今回のサービスエリアを考えると十分だろう。
デモンストレーションに参加した藤沢さんは、「以前の実験サービスでは対象外だった生鮮食品やお弁当などが配送対象になったことで、より便利になってうれしい」と語っていた。
今後の展開予定を楽天の向井氏に聞いたところ、「今回の配送サービスは本格的な実用化を見据えたもの。法制度の変更などにも配慮しつつ、正式サービスへ向けて準備を進めていきたい」というコメントをもらった。つくばの緑豊かな街中(まちなか)を、鮮やかなUGVがアナウンスしながら移動していく様子は未来的でもあり、自然と風景に溶け込んでいるようでもあった。今後の展開に期待したい。