パナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW社)は6月8日、マンション管理会社向けのIoTサービス「モバカン」を発表しました。マンション管理業務の効率化や省人化を目的とするもので、2022年10月から首都圏エリアを対象に提供を開始します。2023年度以降、順次サービスエリアを拡大していく方針です。

  • マンション管理会社、住民、サービス業者に利便性を提供しつつ、マンションの資産価値を高める「モバカン」

昨今のマンション管理業界において、マンションの資産価値に関して維持管理のウェイトが増していることをご存知ですか。日本のマンションは全体的に築年数が上昇してきており、中古マンション市場が伸びる一方で、管理員やフロントマンの不足、設備の維持や修繕費用の高騰といった問題も顕在化してきました。

2022年4月には改正マンション管理適正化法が施行され、長期修繕計画や修繕積立金のガイドラインが改訂となります。資産価値を計るうえで、マンション管理が適切に維持できているかどうかが以前よりも重視されるようになっているのです。

  • マンションの維持管理の良さが売買資産価値の高さにつながるように

パナソニックEW社の「モバカン」は、マンション管理員や管理会社フロントマンの業務をIoTで省力化し、住民や出入り業者の利便性向上とコスト削減を図ることで、マンションの価値向上につなげようというサービスです。マンション業界で働く人はもちろん、これからマンションを購入しようとしている人や、現在マンションに住んでいて修繕の時期が近づいている人などには、気になるサービスではないでしょうか。

モバカンの提供するサービスは大きく3つ。「遠隔での鍵貸出機能」「フロントマン向けのIoT管理」「住民の満足度向上」です。1つずつ見ていきましょう。

  • モバカンの3つのサービス

(1)遠隔での鍵貸出機能

遠隔での鍵貸出機能は、マンション管理員の業務を軽減するものです。通常、マンションの清掃・点検などで出入りするメンテナンス業者は、あらかじめ通告した時間にマンションを訪問し、入り口で管理員と対面で鍵の受け渡しと返却を行っています。モバカンでは、備え付けのスマートボックス(セキュアキーボックス)に鍵を保管して、遠隔からの確認によって貸出・返却を管理します。

  • 鍵の受け渡しや返却などを無人で管理

管理会社から出入り業者へと、備え付けのスマートキーボックスのパスワードを発行・通知することで、作業時には管理員の立ち会いがなくても鍵の貸出と返却確認が可能になります。出入り業者だけでなく、マンションの住民が集会所や駐車場、キッズルームなどの共用施設を利用する場合にも、管理員の駐在時間を気にしなくてよくなります(鍵の管理が必要な住民向け共有設備があるマンションの場合)。

履歴から鍵の貸出状況が確認できるので、未返却ならばすぐに気が付き、セキュリティも向上。管理員は負担が減り、一人で複数のマンションを管理できるようになり、人件費の抑制にもつながります。

  • セキュアキーボックス(クマヒラ社製)

(2)フロントマン向けのIoT管理

管理会社のフロントマン業務を効率化するサービスです。現在、多くのフロントマンは管理会社のオフィスと担当マンションを行き来しながら、管理員や住民とは電話・FAX・郵送といったアナログの手法でやりとりしています。

モバカンでは、掲示物や郵送物をデジタル化。物件ごとに、協力会社との対応や住民からの申請、掲示板・書庫の管理、キーボックスの管理、住居者情報の編集などを、Web上のダッシュボードで一元管理します。モバイル端末から管理すれば、在宅ワークも容易でしょう。

  • モバカンの管理画面(イメージ)

  • 施設の利用予約状況などが一目でわかる仕組み。画面は開発中のもので、発売時の画面と異なる場合があります

(3)住民の満足度向上

マンションの住民が利用する共有サービスの利便性を高め、各種手続きを簡単にするサービスです。各戸に備え付けのインターホンを利用します。

たとえば、管理組合の議事録やエントランス付近に掲示される掲示物、緊急連絡先などは、電子化してインターホンから参照可能になります。いちいち階下に行かなくても確認でき、ペーパーレス化も推進。インターホンに二次元コードを表示することで、詳しい内容をスマートフォンから見られます。また、共用施設の予約や確認、鍵の受け渡しにもインターホンを活用します。

  • 各戸備え付けのインターホンを活用することで、住人はデバイスを追加で導入する必要がありません

パナソニックはマンションのインターホン市場で50%を超える高いシェアを占めており、この強みを生かす考えです。なお、インターホンはパナソニックの2016年以降に製造された「マンションHAシステム Iシリーズ Clouge」もしくは「マンションHAシステム Dシリーズ Windea」が対象。他社製など対象外のインターホンが導入されているマンション向けには、スマートフォン用アプリでの対応を検討しています。

共有施設の予約・確認や、設定などのユーザーインタフェースは、物件ごとに共有施設の数や種類が異なるため、カスタマイズが必要。これも基本的にはパナソニックが用意することになります。

大規模修繕に向けた管理費アップの抑制にも期待

パナソニック くらし空間イノベーションセンターの川勝正晴室長は、「インターホンは高齢者から児童まで誰でも使える、マンションの住民にはなじみ深いデバイスです。常に電源が入っており、最近は画面の7インチ化も進んでいるなど、マンションの施設を利用するインタフェースに適してします」と語ります。

モバカンの導入に当っては、通常のインターホン設備のほか、マンションゲートウェイ、VPNルーター、スマートキーボックスなどのオプション機器が必要になります。これらの機器代金や設備工事費はパナソニックが負担し、導入から住民へのサービス説明や使用説明までサポートする予定です。

  • モバカンのシステム図イメージ

サービス利用代金は、サービスメニューによって異なり、都度見積もりを作ることになりますが、おおよそ1物件で月額3万円~10万円程度を見込んでいます。この料金は、マンション管理会社がパナソニックに対して支払います。

「モバカン」が対応するマンション戸数は、仕様的には最低1戸からだいたい500戸規模。ボリュームゾーンとしては、200戸~300戸のマンションを想定しています。2030年には4,000棟を獲得したいとのことです。

  • マンションHAシステム Iシリーズ Clouge

  • マンションHAシステム Dシリーズ Windea

一般的に、マンションは12年~18年の周期で大規模修繕を計画しているところが多く、特に2回目以降の大規模修繕に向けては管理費が高騰する一因となっています(1回目の大規模修繕は資金的に余裕のある場合が多いため)。管理費の上昇を抑えながら、住民の利便性も高め、なおかつ資産価値も高める――。そんなモバカンが気になる人も多いはず。

パナソニックEW社は6月16日~17日に東京ビッグサイトで開催の「マンション総合EXPO 2022」に出展し、モバカンの実機やデモ画面を展示する予定です(東7ホール 小間番号2-11)。マンション管理会社で働く人はもちろんですが、マンション管理組合の役員を務めている人は(または一戸の住民として)、実際の操作性や導入手順を確認しに行ってみてはいかがでしょうか。