忖度とはもともと「相手の状況をおしはかり配慮すること」を表す言葉ですが、本来の意味とは異なる使い方が広まってしまった言葉でもあります。
本記事では、忖度の本来の意味と新しい意味について、共に例文を交えて使い方を解説。デメリットや海外での考え方、類語・反対語、英語表現も紹介します。
忖度とは? 本来の意味や新しく広まった意味をわかりやすく解説
まず、忖度の言葉の意味や用途について解説します。忖度は、本来の意味とは違う意味が広まっている言葉です。ここでは、どちらの意味も紹介していきます。
忖度の本来の意味は、相手の心中を推量し配慮すること
忖度の本来の意味は、「他人の心を推し量る(おしはかる)こと」「推し量って相手に配慮すること」です。「忖」という字は、「忖る」と書いて「はかる」「おしはかる」と読みます。この字自体にも「忖度」の意味が含まれており、相手の心を推測する意味で使われます。
また、忖度という言葉の歴史は古く、中国最古の詩集とされている「詩経」でも用いられています。日本には、10世紀から使用例が確認されており、「母の気持ちを忖度する」など日常的に使われていた言葉です。
忖度を本来の意味で使うのはどういう時?
忖度には「相手の気持ちを考えて察する」という意味が含まれるため、本来はどちらかというとポジティブな意味で使う言葉です。
例えば「急な出張が入り楽しみにしていた忘年会に来られなくなった友人に忖度し、日程変更を提案した」の場合は、来られなくなったことを残念がっている友人の気持ちを察して、こちらから日程変更を持ち掛けるという思いやりの意味になります。
政治の話題などで、忖度をネガティブな意味で使うのは誤用?
上述の通り、忖度は相手の気持ちや状況を推し量って配慮することを意味するため、本来はネガティブな意味を含みません。
しかし、近年は忖度という言葉が拡大解釈されて「(社会的に悪いことも含めて)上役などの意向を推し量る」といった意味で使われるようになりました。上の者に気に入られようとしてへつらい、機嫌をとるような意味合いです。
現在はまだ、このネガティブな意味合いを掲載する辞書は少ないですが、いずれ正式な使い方として定着するかもしれません。
忖度の読み方は「そんたく」
忖度は「そんたく」と読みます。「すんど」ではないので注意しましょう。
新しい意味での「忖度」は、2017年の流行語大賞にも選ばれた
前述のように、「(社会的に悪いことも含めて)上役などの意向を推し量る」「上の者に気に入られようとしてへつらい、機嫌をとる」という意味は、本来の意味ではありません。
しかしこの新しい意味での「忖度」は、森友・加計学園問題で使われたことがきっかけで、近年世間に広まっています。当時、ネガティブな意味合いとしてニュースなどで度々取り上げられ、急速に広まりました。
2017年の新語・流行語大賞では、年間大賞にも選ばれています。
忖度の使い方と例文
ネガティブな印象が広まってしまったものの、本来はポジティブな意味を持つ言葉である忖度。
ここでは、本来の意味であるポジティブな意味で使う場合と、最近広まったネガティブな意味で使う場合の使い方と例文を紹介します。
本来のポジティブな意味での使い方と例文
忖度は「相手の気持ちを考えて察する」という意味が含まれるため、以下のような使い方ができます。
例文
・取引先に忖度して、契約内容を調整する。
・購入を迷う顧客に忖度し、少し離れた場所で控えている。
・家事や子育てに忙しい妻に忖度して、食事の用意をする。
最近広まったネガティブな意味での使い方と例文
本来の意味とは異なりますが、こびへつらうような意味合いで使う場合は、以下のような使い方ができます。
例文
・あの人は部長に忖度ばかりして、部下には何もやってくれない。
・首相に忖度したような答弁をする。
・会長に忖度すると、組織に批判的な行動がしにくくなる。
日本には具体的に意見を言わず、忖度する文化がある
なお忖度は日本独自の考え方に基づくため、海外では忖度そのもの自体が理解できないと捉えられるケースも多いです。国内外における、忖度に対する捉え方の違いについて紹介します。
日本には古くから「言わぬが花」「沈黙は金なり」など、具体的に言いたいことを口にしないことが美徳とされる慣習があります。そのために相手が実際に口に出していない事柄でも、自然と忖度して「自己の想像で行う」頻度が高いです。
一方の諸外国では自分の意見を言うことが当たり前であり、具体的な指示もなく上役の様子やあうんの呼吸で業務を行うような文化が基本的にはありません。
忖度をすることでデメリット・短所もある
「忖度」は相手や自分の利益のために、いろいろと推し量って先回りで動くことを指します。
しかしそれはあくまで自分の想像のをもとに動くことになるので、実際には相手の意図や希望を勘違いしている、という可能性も大いにあります。
その場合、相手や自分の利益にならないばかりか、むしろ好ましくない状況になってしまったり、大幅な修正が発生したりすることが考えられます。
「なんだかいつも空回りしている」という短所にならないよう、忖度するだけでなく、相手に希望をしっかりと聞き、また自分の思いをはっきりと伝えることも大切かもしれません。
忖度の類語・言い換え表現と意味の違い
忖度には、関連する言葉がいくつかあります。忖度との共通点と違いについて紹介します。
忖度に似た言葉には「推測」「憶測」「推察」「斟酌」があります。
推測
推測(すいそく)の意味は「あることがらや情報に基づき、推し量って考えること」です。自分の考えをめぐらして判断するという意味であり、忖度にある「相手のこと」を推し量る意味は含まれません。
また、推測の「推」は「推理」のように事実から論理的に状況を分析する意味が強くなります。そのため、推測は「ひとつのことを多方面から分析し、考えを深めていく」というニュアンスが強くなります。
例文
・私は、このように推測します。
・現場の証拠から、事故の原因を推測する。
・A社とのプロジェクトは、長引くだろうと推測します。
憶測
憶測(おくそく)の意味は「確かな根拠もなく、いいかげんに推測すること」です。憶測で「○○ではないか」という場合は、その話自体に根拠はありません。そのため、状況によっては「でたらめだ」と捉えられる場合があります。
忖度は、相手の立場を優先して考えをめぐらせますが、憶測の場合には、より主観が強くなります。憶測は不用意に言いまわると、「信用ならない人だ」と思われたり、ありもしないうわさがひとり歩きをはじめたりする可能性がある表現です。
例文
・個人的な憶測では、彼が犯人だと思う。
・彼はすぐ憶測でものを言うため、真に受けてはいけない。
・A社の今後の動向について、さまざまな憶測がなされている。
推察
推察(すいさつ)の意味は「他人の事情や心中を思いやること」です。
忖度と同じように、今までの状況やわかっていることを踏まえて、目に見えない感情や事情などを察する行為です。真相や相手の気持ちがわからない場合に使われます。ただ「忖度」にある「配慮する」という行動までの意味は持ちません。
また、「ご推察の通り」はビジネスメールなどで「そのとおり」という同意を表す場合の慣用表現として用いられます。
例文
・ご推察の通り、今回の件は誤りです。
・本件については、おおよその推察がついていました。
・複雑なご事情と推察いたします。
斟酌
斟酌(しんしゃく)の意味は「相手の事情・心情などをくみとること」です。その上で「くみとって手加減すること」も斟酌には含まれます。
斟酌の場合は、相手の気持ちのほかに経済状況や取り巻く環境など、さまざまな要因を踏まえつつ、具体的に何か行動を起こす際に使われる言葉です。
例文
・斟酌を加えて、採点を行った。
・少年であることを斟酌し、事件の責任は問わないものとする。
・景気の状況を斟酌して生産高を調整する。
忖度の反対語・対義語
忖度と反対の意味の言葉として用いられる機会が多いものに「独善」があります。
独善
独善(どくぜん)の意味は「自分ひとりが正しいと考えること」「ひとりよがり」です。忖度が相手の様子や気持ちを考える行為に対し、独善の場合はあくまでも自分一人の考えです。空気を読まない利己的な考えだったり、身勝手な考えやわがままな考えに陥っていたりする状態を指します。
例文
・彼は独善的な行動ばかりをとるため、部署内でも浮いている。
・私の上司は独善的で、部下の意見に聞く耳をもっていない。
・あの独善的な性格では、人から好かれることもないだろう。
忖度の英語表現
海外には正確に忖度を示す言葉はありませんが、忖度に近い英語表現はいくつかあります。
- conjecture(推測)
- surmise(推測する)
- reading between the lines(行間を読む)
- reading what someone is implying(誰かが暗示していることをくみとる)
ビジネスでもよく使われる忖度は、間違った使い方が定着しつつある言葉
忖度は日本人らしい思いやりの気持ちを含む言葉です。昨今「上層部の意向を推測して従う」といった意味が広まりつつありますが、本来は、相手との関係を示す意味はありません。
正しい意味を踏まえて、忖度という言葉を使うようにしましょう。