現代社会はストレス社会と呼ばれています。特に新型コロナウイルス感染拡大が続く昨今は気軽に外出できない日々が続き、ストレスの度合いがより高まっていることでしょう。そんなときは、「幸せホルモン」「愛情ホルモン」などの異名を持つ「オキシトシン」の力を借りてみるといいかもしれません。

本稿では、大切な人との絆を深めるときに分泌されるオキシトシンがもたらす作用についてご紹介します。

  • 「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンとは?

    「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンとは?

オキシトシンとは

オキシトシンは9個のアミノ酸で構成されるぺプチドホルモンの一種で、脳の視床下部で生産され、脳下垂体から分泌されます。

オキシトシンは赤ちゃんが乳頭を吸引する刺激によって、分泌が促進されます。すなわち、ママの母乳を出すためのホルモンです。また、オキシトシンは子宮平滑筋を収縮させることで、出産時は陣痛を起こして分娩を促し、出産後は子宮の回復を促進する働きも持っています。

これらの事実から、従来は妊産婦に与える影響が指摘されていたオキシトシンですが、今はそのほかにも私たちの心身にさまざまなポジティブ効果を及ぼすことが研究でわかっています。

オキシトシンによる効果

オキシトシンがもたらす効果の代表例には以下のようなものがあります。

■幸せな気分になる
■学習意欲や集中力が向上する
■ポジティブになりやすくなる

以下にさまざまな効果の詳細をまとめましたので、一つずつみていきましょう。

  • オキシトシンがもたらす効果を紹介します

    オキシトシンがもたらす効果を紹介します

幸せな気分になる

オキシトシンの効果として「幸福感」をもたらすことがよく知られています。その理由は、オキシトシン増加に伴って分泌される神経伝達物質「セロトニン」にあります。

セロトニンは安心感やメンタル面の安定に寄与することが明らかになっています。セロトニンの分泌量が増えると、ほっこりと癒やされるような幸福感を得られます。逆にセロトニンが低下すると攻撃性が高まったり、不安やうつ・パニック障害などの精神症状を引き起こしたりすると言われています。

学習意欲や集中力が向上する

オキシトシンが分泌されるとストレスや不安、痛みなどが緩和され目の前の事に集中できるようになると言われています。その結果、記憶力が向上し、学習意欲も高まります。

熊本大学大学院生命科学研究部の富澤一仁教授らは、マウスの記憶力向上にオキシトシンが関与していることを示唆する論文を発表しています。出産を経験した授乳中のマウスと同週齢の出産未経験のマウスを用い、迷路を利用した空間学習能力を比較したところ、授乳中のマウスと出産未経験のマウスでは「どこに餌があるか」を記憶する能力に有意差が認められたそうです。

授乳中にオキシトシンが分泌されていたことからオキシトシンがこの記憶の差に影響を及ぼした可能性が指摘されており、事実、出産未経験のマウスの脳内にオキシトシンを投与すると、有意に記憶の向上が認められたとのこと。

記憶力の向上は、受験生や学生はもちろん社会人にとっても重要な武器となるでしょう。

ポジティブになりやすくなる

オキシトシンにはストレスを軽減させ、不安や心配を緩和させる働きがあります。ストレスや不安から解放され心身がリラックスした状態となり、結果としてポジティブになり前向きになりやすくなると考えられています。

オキシトシンによる作用

続いて、オキシトシンの主な作用もみていきましょう。

抗ストレス作用

オキシトシンには、人間関係構築など社会的行動について不安なときに分泌されるストレスホルモンのコルチゾールの分泌を抑制する効果があると考えられています。

抗不安作用

オキシトシンが分泌されることで副交感神経の働きが活発になり、自律神経のバランスが整うと言われています。副交感神経が優位になると血管が緩んで血圧が低下し、心身もリラックスした穏やかな状態になるので、気分が落ちつき不安な気持ちが和らぐのでしょう。ドイツ・レーゲンスブルグ大学のノイマン教授らはオキシトシンに抗不安作用があることを見出しています。

オキシトシンを増やす方法

「自分が気持ちよい」と感じることを実行すればオキシトシンが分泌されるため、オキシトシンは自らの力で増やすことが可能です。以下に代表例をまとめてみたので、実践可能なものから取り組んでみるとよいでしょう。

  • オキシトシンを増やす方法をまとめました

    オキシトシンを増やす方法をまとめました

スキンシップを図る

信頼関係が成り立っている相手やペットとのスキンシップは、オキシトシンの分泌には大変有効だと言われています。スキンシップと聞くとハグやキスなどを思い浮かべるかもしれませんが、他人と手をつないだり、相手をなでたりすることもスキンシップの一つです。

タッチケアをする

痛みやストレスを抱える人に対し、肌に触れる「タッチケア」を取り入れている医療機関もあります。タッチケアと言われてもピンとこない人は、マッサージを思い浮かべるといいかもしれません。タッチケアをすることで、日常のストレスや不安、痛みの軽減などの効果が期待できます。

タッチケアの方法は簡単です。ソファなどで横になっている人に対し、手の平でアイロンをかけるようなイメージで背中の全体をなでてみてください。これだけでオキシトシンの分泌が期待できます。タッチケアは、された側よりもする側の方がより多くオキシトシンが出るという研究結果もあるそうです。

友人や恋人との会話を楽しむ

「久しぶりに友達と女子会をしてスッキリした」「恋人と話して癒やされた」という経験をされた方も多いのではないでしょうか。そういったときもオキシトシンが分泌されています。

この際、話す相手は必ずしも近くにいる必要はありません。遠くにいる親しい相手との電話でも、オキシトシンの分泌が期待できます。

匂いや香りを楽しむ

好きな香水やアロマなどの香りを嗅いでリラックスすると、オキシトシンが分泌されることもわかっています。

化粧品などの製造・販売を行う日本メナード化粧品によると、ローズやオレンジフラワー、バイオレットなどの天然精油を含む香りを女性にかいでもらったところ、脳からオキシトシンが分泌されることを発見したそうです。しかも、そのオキシトシンは血液を通して肌まで到達し、肌の幹細胞の「動く」という能力を高めることまで判明したといいます。肌の幹細胞は肌の細胞のもととなる細胞で、肌のターンオーバーを担っているため、若々しい肌に導くことも期待できると考えられています。

オキシトシンと食べ物の関係性

オキシトシンと食事に関する興味深い研究も報告されています。

ドイツ・マックスプランク研究所のローマン・ウィッティグ博士の研究によると、チンパンジーは仲間と食べ物をシェアしているとき、仲間同士で毛づくろいしているときに比べて2.5倍も多くオキシトシンが分泌されているそうです。この考えでいくと、1人で食事をする「孤食」よりも友人や家族、パートナーと食事を分け合いながら楽しく食べたほうがオキシトシンを多く分泌できそうですね。

また、オキシトシンは、神経伝達物質のセロトニン作動性ニューロンの働きを促進することでストレス反応を抑えると考えられています。実はこのセロトニンの原材料となるアミノ酸「トリプトファン」は食べ物から摂取することが可能なんです。

トリプトファンは以下のような食品に含まれています。

  • 豆腐
  • 納豆
  • みそ
  • しょうゆ
  • チーズ
  • 牛乳
  • ヨーグルト
  • ごま
  • ピーナッツ
  • バナナ

オキシトシンの効果を最大限に発揮したい際は、これらの食品を意図的に摂取するのもいいかもしれませんね。

オキシトシンとは何かを詳しく知ろう

この記事を通じて、オキシトシンが私たちの心身にもたらすポジティブな効果が理解いただけだと思います。

現代はストレス社会と呼ばれるだけに、生活を送るうえでさまざまなストレスに私たちはさらされています。そのようなときは、オキシトシンをうまく活用して心をデトックスできるように努めてみるといいでしょう。