YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】

第9弾は「若手制作者編」で、深夜バラエティゾーン「バラバラ大作戦」で『ホリケンのみんなともだち』『イワクラと吉住の番組』の2番組を手がけるテレビ朝日入社7年目の小山テリハ氏と、架空の国の架空の言語・ネラワリ語によって繰り広げられる『Raiken Nippon Hair』で「テレビ東京若手映像グランプリ2022」を制し、『島崎和歌子の悩みにカンパイ』『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』を手がけたテレ東入社4年目の大森時生氏が登場。『今夜はナゾトレ』『新しいカギ』などを手がけるフジテレビ入社19年目の木月洋介氏をモデレーターに、全4回シリーズでお届けする。

第3回は、最近若い制作者がトライアルできる機会が増えてきたという話題から。また、テレビ離れが叫ばれる世代である2人がテレビ業界に入った理由、そしてそれぞれにとって師匠にあたる存在とは――。

  • 「バラバラ大作戦」「テレビ東京若手映像グランプリ2022」『水曜NEXT!』 (C)テレビ朝日 (C)テレビ東京 (C)フジテレビ

    「バラバラ大作戦」(上段)と(下段左から)「テレビ東京若手映像グランプリ2022」『水曜NEXT』
    (C)テレビ朝日 (C)テレビ東京 (C)フジテレビ

■「投票」の難しさ、シビアなジャッジ

木月:最近、各局で若手の皆さんの企画を放送するチャンスが増えていると思うのですが、どう思いますか?

大森:若手にチャンスを与えるという空気感はすごく感じます。テレ東も「若手映像グランプリ」をやりましたけど、各局でも地上波の枠ごと渡して若手が作るという試みが増えてますよね。その中でも「バラバラ大作戦」は先駆者的なイメージを持ってて、いいなあと思いながら、ファン投票とか大変そうだなと思って(笑)

小山:それはおっしゃる通りです。「バラバラ大選挙」は本当に毎回心臓が潰れそうになるくらいしんどいです(笑)

(一同笑い)

小山:イベントとしては盛り上がりますけど、私たちスタッフの責任なのに演者さんに背負わせちゃうのも申し訳ないですし。『あのちゃんねる』をやっていたときは、あのちゃんって「選挙がんばるぞ!」っていうキャラクターじゃないので、「みんな選挙活動してるけどどうする? やんないよね?」みたいな感じで(笑)

大森:投票って難しいなというのは、今回の「若手映像グランプリ」でも思いました。「バラバラ大作戦」と全然規模は違うんですけど、YouTubeの再生数と一般投票と社内投票という三本柱だったので、社内で先輩とかに会うと「投票お願いします」って一応言うみたいな(笑)

小山:その時期の社内は本当の選挙みたいになりますよね。

木月:でも、やっぱり「バラバラ」があるのは良いですよね。あれだけたくさんの枠があって、しかもレギュラーで毎週できる。若手が育ちますよね。番組を毎週回すという筋肉が鍛えられる。

小山:半年に1回くらい企画募集があるので、それは本当にありがたいですね。実際に上の時間帯に行ってる番組もありますし、レギュラー放送を回していく中で筋トレさせていただいている気持ちもあります。

木月:20分っていうのが、またいい尺ですよね。

小山:そうなんです。30分でしっかりやるってなると、もう1展開考えなきゃいけないですからね。

木月:『久保みねヒャダこじらせナイト』は最初の頃20分番組だったんですけど、20分だと1コーナーで行けるんですよね。だから、4本撮りするなら4コーナーを用意しといて、1個ハネたら5本にしようかという感じで。

小山:今は「バラバラ」だけじゃなくて、『お願い!ランキング』の中で『そだてれび』っていう全部署から企画募集する番組も始まって、それもやらせてもらってます。バラエティ、ドキュメンタリー、アニメ、ドラマという枠があって、どれに出してもいいので、私はドキュメンタリー(『本日のお客様は、あなたのおばあちゃんです。』)をやってるんですけど、面白いですね。自由度がすごく高くて、若手にすごくチャンスをくれるなと最近思います。

大森:自分がテレ朝さんにいたら、いっぱい企画出すだろうなって思いますね。夢があるというか。でも、ちゃんとした企画が通ってるイメージがあって、結構シビアな判定をされてそうだなという雰囲気があるんじゃないかと勝手に思ってます。

――企画より演者さんが立ってる番組が多いイメージがあるという話を、この前ある作家さんとしました。

小山:そうですね。『イワクラ吉住』もそれで通してもらった気がしています。あのちゃんにしてもそうですけど、見たことのない人や、見てみたい組み合わせの発掘というのも重視されているように感じます。

木月:そこが結構シビアなジャッジですよね。

小山:それであっという間に終わっちゃうんです(笑)。新陳代謝がいいからチャレンジができる枠が生まれるわけですけど、今作ってる側からすると短期間で結果を出さなきゃいけないので、結構シビアだと思いますね。

■世帯視聴率一辺倒だった評価指標が多様化

木月:フジテレビの『水曜NEXT!』はどう見てますか?

大森:単純な感想で申し訳ないんですけど、本当にいい枠だなと思います。2週で1本というのも面白いですよね。

小山:テレ朝にも以前2週連続で30分ずつという枠があったんですけど、2週なので割り切って一点突破できるし、前・後編で展開を変えて今後も見えるようにも作れるし、やりたいようにできるからいいですよね。

大森:『ここにタイトルを入力』は6回というのがすごいですよね。

木月:あれは『月曜PLUS』という枠で、どちらかというと深夜で話題になるような番組を編成していくらしいです。フジテレビにはそういう枠が他にも少しずつ増えてますね。

大森:実はテレ東は若手の枠みたいなのがなくて、自分の企画をやりたいというときに悩ましい部分がちょっとありますね。

木月:フジテレビも数年前までは若手のお試し枠が無い時期があったんですよ。僕が入った頃は「ニューカマーズ」っていう深夜のお試し枠があって、当時のバラエティのトップの港浩一さん(次期フジテレビ社長)の方針がやはりすごかったんですが、若手企画コンペがたびたび行われて、僕もそこで3年目で企画が通ってさまぁ~ずさんとの番組をやらせてもらったり。月曜深夜の1列目と呼ばれる23分のレギュラー枠があって半年に1回チャンスが回ってきたり。『ショーパン』『カトパン』など「パンシリーズ」と呼ばれる帯の生放送を結構な若手に任せてもらえたり。僕も5年目の時に『カトパン』の演出を担当していましたが、あの時代の若手育成の仕組みは素晴らしかったです。そういう仕組みがあるときに全部無くなって、数年経って最近ようやく復活してきた感じなんです。やっぱりTVerとか配信が始まったのが大きいですよね。

――評価指標が世帯視聴率じゃなくなりましたからね。

木月:だから皆さんの環境としては絶対良くなってきてると思いますね。