千日手2回からの死闘

藤井聡太棋聖へ永瀬拓矢王座が挑戦する、第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負(主催:産経新聞)の第1局が6月3日に兵庫県洲本市の「ホテルニューアワジ」で行われました。開幕局となった本局は藤井棋聖の振り歩先による振り駒が行われ、藤井棋聖の先手番で午前9時に始まりましたが、相掛かりから午後4時17分に66手で千日手が成立します。先後を入れ替えて30分後に指し直し局が始まりましたが、なんとこちらも角換わりから午後5時38分に53手で再度の千日手となります。そして午後6時8分に3局目が始まりました。

タイトル戦における連続千日手はこれまで、1940年の第2期名人戦、木村義雄名人―土居市太郎八段(段位は当時、以下同)戦の第3局、1994年の第63期棋聖戦、羽生善治棋聖―谷川浩司王将戦の第3局、2002年の第15期竜王戦、羽生善治竜王―阿部隆七段戦の第1局の例がありますが、第2期名人戦第3局は40年5月21・22日、6月3・4日、6月25~27日と3局それぞれが別々の日に指されています。第63期棋聖戦第3局は94年1月7日に千日手の2局が、1月17日に指し直し局が指されました。そして第15期竜王戦第1局は02年10月23、24日に1局目の千日手が、24日に2局目の千日手が指され、指し直し局は11月6、7日に指されています。今回の棋聖戦は当日に3局目の指し直し局が指された、珍しいケースとなります。

■再度の指し直し局は永瀬が受けて藤井が攻める展開

3局目は藤井棋聖の先手番で角換わりに進みます。永瀬王座が先手玉頭の7、8筋から攻めたて、藤井棋聖が受け切れるかどうかという展開になりました。先手玉は薄くなっていますが、広い右辺に逃げることが出来れば一息つけそうです。ですが92手目の△4七歩が焦点の歩の手筋。この歩は金でも銀でも取れますが、どちらも先手は指しにくいのです。例えば▲同銀ならば6五への利きがなくなるので、△6五飛と王手で寄るのが絶好となります。実戦は▲4七同金ですが、これはどこかで△4六歩ともう一発たたかれる順を気にする必要が生じます。結果的に△4六歩のたたきは実現しなかったのですが、リードを奪った永瀬王座は一転して藤井棋聖に攻めを急がせて、受ける展開に回ります。

■永瀬王座が鋭く決めきる

108手目の△6五角が奇手で、これは▲同銀と5六の銀で取れるのですが、先手はこの銀を動かすと自玉の守りが弱くなり、寄せられてしまいます。そして△6五角は先手の攻めの軸になっている8三の竜取りにもなっています。ここで大勢は決しました。114手目の△4七角成を見て藤井棋聖が投了しました。この手は金を取って先手玉への詰めろを掛けたもので、結果的には上記の△4七歩がものすごく利いたことになります。

永瀬王座の先勝で、藤井棋聖のタイトル戦連勝は13でストップしました。第2局は6月15日(水)に新潟県新潟市の「高志の宿 高島屋」で行われます。次局は先手番の挑戦者が連勝でタイトル奪取に近づくか、藤井棋聖がタイに戻すか。そして永瀬王座は第1局の2千日手で、通算の千日手が44局(他に三段時代の公式戦で1局)となりました。自身の通算対局数が614局(前述の三段時代の対局は含まない)なので、比率としてはかなり高いです(藤井棋聖は322局中10局)。現役棋士の中で最も千日手が多いのは阿部隆九段ですが、1441局中の57局なので、永瀬王座の千日手率の高さがわかります。この率がさらに増すかどうかにも注目が集まるかもしれません。棋聖戦五番勝負からますます目が離せなくなっています。

(主催:産経新聞)

相崎修司(将棋情報局)

2回の千日手を制した永瀬王座(提供:日本将棋連盟)
2回の千日手を制した永瀬王座(提供:日本将棋連盟)