2019年ラグビーW杯日本大会で開催都市のひとつとなった埼玉県熊谷市。2021年には「さくらオーバルフォート」が竣工され、ジャパンラグビー リーグワンの強豪チーム「埼玉パナソニックワイルドナイツ」の本拠地となったことで、ラグビーファンの間で話題となっています。
街全体でラグビーを通じたスポーツ活動や地域振興への取り組みやパナソニックが行っているスポーツビジネス事業について取材しました。
ラグビーファンにはたまらない! すぐそばで選手の息づかいまで聞こえるラグビー練習場と複合施設
熊谷ラグビー場は2019年W杯に合わせてリニューアル。熊谷スポーツ文化公園内にあるレガシーを有効に生かし、公園全体の利便性向上やラグビー振興等を目的に、2019年3月に熊谷市とパナソニックの三者にて民間施設整備の協定が締結されました。そこで2021年8月に竣工された施設がラグビーパーク「さくらオーバルフォート」です。
公園内(一部)への施設設置とエリア全体の管理は、埼玉県から許可を受けて埼玉ラグビーフットボール協会が行っています。管理棟や屋内運動場、宿泊棟の施設建設は埼玉ラグビーフットボール協会からパナソニックホームズが請け負いました。トップリーグ(前身の国内最高峰リーグ)で5度のチャンピオンに輝いている強豪チーム「埼玉パナソニックワイルドナイツ」が群馬県太田市から移転しています。
さくらオーバルフォートは熊谷駅からバスや車で15分ほどの場所で、熊谷ラグビー場のすぐ側にあります。敷地面積は約3万388平方メートル(9,201.5坪)。グラウンドを囲むようにして、宿泊棟(熊谷スポーツホテル「パークウィング」、スパ、ワイルドナイツチームストアなど)、管理棟(埼玉パナソニックワイルドナイツクラブハウス、カフェ&ラボスペース「フォルテ ブル」、埼玉県ラグビーフットボール協会事務所)、屋内運動場などが並んでいました。
コンセプトは「スポーツをする、観る」「食べる」「買う」「集う」「学ぶ」「想像する」――。このエリアに活気と賑わいをたらすラグビーパークを目指しているので、レジャー施設として一般の方々も楽しめます。都市公園の中に天然の芝生が整ったラグビー場や雨天練習場、ホテルなどが完備されている場所は、日本国内でもここだけ。
パナソニックグループが「さくらオーバルフォート」に納入したのは、屋外照明、屋外機材、太陽光、空調、換気設備、内装建材、天井材、雨どいなどさまざま。ですが、これまでのように製品を販売するだけのビジネスではなく、スポーツ産業を通してスポーツの価値を高めながら、地域振興のために周辺施設と連動した事業が行われています。
ほかにも、さくらオーバルフォートに隣接した場所に整形外科、リハビリテーション科を備える「ワイルドナイツクリニック」も3月に開院。選手の治療はもちろん、周辺住民の治療、リハビリなども支援。地域医療、健康増進への貢献も目指して運営されています。
このようなラグビーを中心としたスポーツの複合施設はほかになく、熊谷市は「ラグビータウン」のモデルケースとして日本中から注目されています。
シェアサイクル事業ではパナソニックの電動アシスト自転車を100台納入
熊谷市はシェアサイクル事業にも力を入れています。熊谷商工会議所が運営するシェアサイクル事業では、パナソニックの電動アシスト自転車を100台使用して事業を展開。サイクルシェアポートは、熊谷市内に20カ所あります。利用料金は88円(15分)と手ごろ。
取材の時点では100台のパナソニック製電動アシスト自転車が導入されており、専用アプリをダウンロードして簡単に利用できます。熊谷駅から熊谷ラグビー場までは4km以上ありますが、熊谷駅東口にもサイクルステーションが設置されているので、そこで電動アシスト自転車をレンタルして熊谷ラグビー場やさくらオーバルフォートに移動できるようになりました。
さくらオーバルフォートのすぐ近くには、日本唯一のパナソニックサイクル専門店「ワイルドナイツサイクルステーション&カフェ」が併設されており、電動自転車のレンタルと返却も可能。サイクル専門店の隣にあるカフェはスポーツ観戦できるダイニングバーとなっており、パナソニック製の大画面テレビで観戦しながら盛り上がれます。
熊谷市全体を盛り上げるソリューション
6年半前から埼玉県と熊谷市と交渉にあたったというパナソニック スポーツビジネス推進部の小谷野勝衞さんは、次のように振り返ります。
「スポーツチーム、行政と連携を取り、商材を売るだけではなく、ファンやサポーターに感動を与えるような仕組み作りを目指しています。スタジアムやアリーナ施設を作る構想段階から、地域や商工会議所の皆さんと連携しながら作り上げました。スポーツに関する市場は拡大が期待されており、2025年に約15兆円市場になるとの予測があります。スポーツが盛んになることで街全体の活性化に貢献できるリカーリングビジネスを、今後も力を入れていきたいと考えています」(小谷野さん)
さくらオーバルフォートの管理を行っているのは埼玉県ラグビーフットボール協会です。協会事務所も管理棟内に構えました。
「コロナ禍ということもあり、集客に向けて色々な施策を打ち出せていませんでしたが、埼玉パナソニックワイルドナイツの活躍で平日でも多くの方々が練習を見に来てくださるようになりました。すぐ近くで見学でき、選手の息づかいも聞こえるすばらしいグラウンドです。また、ラグビー練習場のほかにも、カフェやサイクルステーション、日帰りスパもある施設です。西の花園、東の熊谷として今後は日本だけでなく、世界にさまざまな情報を発信していきたいと思っています」(埼玉県ラグビーフットボール協会 事務局長の新井さん)
また、「さくらオーバルフォート」の企画時に重要な役割を果たしたのは、過去にラグビー部の監督も務めた埼玉パナソニックワイルドナイツのゼネラルマネージャー、飯島 均さんです。
「1万人以上を収容できるスタジアムが、日本には50カ所以上あります。ただ、交通アクセスが悪く、使い道がわからないという声も聞いてきました。行政と力を合わせて実現できたさくらオーバルフォートの成功体験は、モデルケースになると思います」(埼玉パナソニックワイルドナイツのゼネラルマネージャー、飯島均さん)
熊谷商工会議所は、地域を活性化するために、パナソニックの電動アシスト自転車を100台導入し、シェアサイクルの運営を始めました。熊谷市の魅力を発信しながら、ラグビータウンとして観光客が増えることを期待しているとのこと。
「W杯のときは2万人を超える方々が4km以上離れている熊谷ラグビー場まで歩いていました。そこでシェアサイクルを実験的に試したところ大変好評でしたので、本格的に導入しました。熊谷市といえば真夏は暑く、冬は北風が吹き付ける場所ですが、サイクリングロードも整備されており、電動アシスト自転車と相性がよい場所です。15分88円で密を防ぎながら移動できる交通手段として、ぜひご利用いただければと思います」(熊谷商工会議所 副会頭の後藤素彦さん)
ホテルに泊まってみた! 広々のスパもあり、家族で楽しめる
さくらオーバルフォート内の熊谷スポーツホテル「パークウィング」に一泊してみました。驚いたのは、日中に見学で訪れるファンの多さです。埼玉パナソニックワイルドナイツの選手が練習を始めると、ファンや地元の家族連れが見学ゾーンでラグビーの練習風景を見つめます。
ホテルのパークウィングは4階建て204室で、目の前がラグビー場という絶好のビュー。実際に選手の皆さんが練習しているところを部屋から見ることができ、感激です。ゴールポストが目の前というホテルの部屋は見たことがありません。新しいホテルということもあって清潔感があり、気持ちよく泊まれるでしょう。
現状では約70%がスポーツ団体の利用で、陸上関係者やサッカー関係者も利用しているとのこと。リーズナブルなボックスベッドから最上階のスイートルームまで、幅広い部屋が用意されています、学生の団体や家族連れなどさまざまな層が宿泊でき、当日はホテル内で楽しそうな親子連れを見かけました。
広々としたサウナ付きのスパは、日帰り入浴も可能です。カフェで一休みしたり、2FテラスでBBQを楽しんだり、宅配弁当の注文も。また、研修などで使える多目的ホールもあるので、ビジネス用途でも使えます。
官民一体となってさまざまなアイデアが集約された「さくらオーバルフォート」は、予想外に大規模で楽しめる施設でした。ラグビーファンを中心に、熊谷市の新しい観光スポットとなりそう。今後が楽しみです。