長年、日本は物価が上昇しないデフレに悩まされてきました。しかし今年に入り、物価が上昇基調となり、一転してインフレが懸念されはじめています。

総務省が5月20日に発表した、2022年4月の消費者物価指数は、総合が前年同月比+2.5%、生鮮食品を除く総合が同+2.1%となり、消費増税の影響を除くと、13年7カ月ぶりに日銀が目標としている同+2.0%を超えました。

  • 総務省の統計を基に筆者作成

今後のインフレの状況はどうなっていくのでしょうか。項目ごとにブレイクダウンしながら、現在の状況を見ていきたいと思います。

光熱費から食料品まで幅広くインフレが進む

日常生活を過ごすにあたり、物価の上昇が気になる場面も増えてきたのではないでしょうか。冒頭のグラフは全体の指数の推移を表したものですが、項目別でみても、その影響が見て取れます。

  • 総務省の統計を基に筆者作成

インフレの背景の主な要因は、2月下旬に発生したロシアによるウクライナ侵攻を受けた資源価格の高騰であるため、エネルギーや光熱費が上昇しています。この約1年で大きく上昇したのが、電力価格です。東京電力ホールディングスが開示している、標準的な家庭の1カ月当たりの電気料金を見ると、最新の7月の電気料金は8,871円となり、11カ月連続での上昇となっています。2021年初頭は6,300円台であったため、約1年半で40%近い上昇となりました。

  • 東京電力の開示書類を基に、筆者作成

そして、生鮮食品も一貫して上昇し、4月の上昇率は前年同月比+12.2%となっています。生鮮食品は天候の影響も受けやすいため、元々価格変動が大きい項目となっていますが、食品の項目でも同+4.0%となっており、日々の食費にも物価高の影響が波及していることが見て取れます。

消費者もインフレへの警戒感は上昇

幅広くインフレが進んできている中、消費者はどう受け止めているのでしょうか。内閣府が行っている消費動向調査における、1年後の物価の見通し(二人以上の世帯)の調査結果を見ると、最新の2022年5月「上昇する」と答えた割合が94.4%にのぼっており、物価の上昇を見込む割合が顕著に増加しています。

内訳を見ても、2022年に入り5%以上の上昇を予想する比率が増加し、最新のデータでは55.1%に拡大しています。大半の消費者が物価上 昇に身構えている状態と言えるでしょう。

  • 内閣府のデータを基に筆者作成

消費者側のインフレへの警戒感が強まってきていますが、今後もインフレは進んでいくのでしょうか。企業側に視点を移すと、このような状況は値上げに好都合とも見て取れます。

今回の物価上昇は資源高をはじめとする供給側が原因のものであり、2022年に入ってから多数のメディアで物価上昇は報道されていたことにより、消費者は値上げをある程度仕方がないものだと思っていることが考えられます。その姿勢が統計に表れているともいえるでしょう。

先ほど、統計上でも食品関連の物価が上昇していることに触れましたが、実際、この1週間でも多くの企業で値上げが発表されました。食品では日本水産が家庭用缶詰や瓶詰、すり身製品や冷凍食品の値上げを発表したほか、ニチレイフーズも冷凍食品の出荷価格の引き上げを発表しています。飲料では、4月に値上げを発表していたアサヒビールに引き続き、キリンHD、サントリーHDもビールの値上げを発表しました。両社ともに値上げは約14年ぶりということで、久々の世の中のトレンドの変化であることが見て取れます。

ここで挙げたのは一例であり、多くの企業が値上げに踏み切っており、企業によっては今後の値上げの可能性も否定をしていない状況であります。消費者の警戒感と足並みを合わせる形で、今後も一定期間値上げのニュースは続くことが予想されます。

新型コロナ対策の変化が消費マインドの改善に寄与するか

続々と発表される値上げのニュースもあり、人々の消費マインドはなかなか前向きにはなれない状況ではありますが、明るいニュースもないわけではありません。新型コロナの感染対策の姿勢が徐々に変わってきています。

5月20日に、政府からマスク着用に関する新たな指針が発表され、屋外では「周りの人と2メートル以上の距離があれば、会話の有無にかかわらず、マスクを着用する必要はない」と、マスク着用が徐々に緩和の方向に動いています。

また、6月1日からは水際対策を緩和させ、1日当たりの入国者数の上限を現在の「約1万人」から「約2万人」に倍増させるほか、入国時の検査免除や自宅などでの待機も求めない方針を打ち出しており、インバウンドの再開期待が高まっています。

物価上昇は続くものの、"アフターコロナ"により、自粛気味だった生活が通常モードに戻っていく期待もあります。日常の消費の価格変化には目を向けつつ、コロナ禍で我慢していた消費も徐々に回復させるといった、メリハリを意識した消費を心がけてはいかがでしょうか。