熾烈な玉頭戦を制する

藤井聡太王位への挑戦権を懸けて争われる、お~いお茶杯第63期王位戦(主催:新聞三社連合)の挑戦者決定戦、豊島将之九段―池永天志五段戦が5月31日に関西将棋会館で行われました。結果は171手で豊島九段が勝利し、藤井王位への挑戦権を獲得しました。

本局は豊島九段の先手番となり、角換わりへ進みます。お互いに研究範囲だったのか、開始から1時間で50手も指されたハイペースな進行です。とはいえ、局面自体はまだ戦いが起こる雰囲気ではありません。先手の豊島九段が角を盤上に設置して後手の動きを牽制しているのに対し、後手の池永五段は角を持ち駒として温存することで、先手陣にスキが生じたら打ち込みを狙っています。角を打たないことでやはり相手の動きに制限をかけていると言えるでしょう。お互いに角換わりらしい間合いの取り方です。

■池永五段が、飛車を見捨てて勝負に出る

昼食休憩後、ようやくお互いの歩がぶつかり、開戦です。本格的な戦いになったのは80手目、銀交換が行われた局面でしょう。次の▲8七歩に池永五段は△6六飛と歩を取って踏み込みます。いかにも危険そうな位置ですが、弱気に飛車を引くのでは▲3三銀と打ち込まれて、先手に攻め倒されてしまいそうです。対して先手は▲5六銀と打ち、後手の飛車を捕獲しに行きました。後手も飛車を渡すのは百も承知で、代償として先手の玉頭から攻め合いに出ました。

■勝負を分けた玉頭戦

以下も優劣不明な戦いが続きますが、112手目の局面が分岐点となりました。中央でお互いの玉がにらみ合う、玉頭を巡る勢力戦となっています。池永五段はここで△5四金と攻防の金を打ちました。次に△3五歩▲同銀△4五銀と、桂を取りつつ先手の玉頭を制圧する狙いです。ですが豊島九段の▲7一飛がそれを上回る好手でした。対して△3五歩では▲4一銀から寄せられてしまいます。△5一歩はやむを得ない受けですが、ここで▲5五銀と打ち、以下の進行で勢力争いは先手が制することになりました。戻って△5四金では先に△3五歩と打てば、▲同銀には△4五銀▲同玉に△6三角で後手が玉頭の勢力争いを制していたでしょう。先手は△6三角の王手に良い受け方がないのです。5四に合い駒を打ちたいのですが、歩は二歩のために打てず、飛車か銀を打つのでは△5三桂から打った合い駒を取られてしまいます。また△6三角に玉を逃げるのでは△4五金から押さえ込まれてしまいます。

以下も長い戦いが続きましたが、豊島九段が押し切って勝利。2期連続の挑戦となりました。王位戦で2期連続挑戦という前例は第35、36期の郷田真隆九段、第38、39期の佐藤康光九段、第40、41期の谷川浩司九段、第44、45期の羽生善治九段、第46、47期の佐藤康光九段の5例があり、奪取を果たしたのは45期の羽生九段のみです。

2年連続の藤井―豊島戦は6月28、29日に愛知県犬山市の「ホテルインディゴ犬山有楽苑」で開幕します。真夏の熱い七番勝負に注目です。

相崎修司(将棋情報局)

藤井王位への挑戦を決めた豊島九段(写真はお~いお茶杯第62期王位戦七番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)
藤井王位への挑戦を決めた豊島九段(写真はお~いお茶杯第62期王位戦七番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)