具体的には、増殖性が1200倍以上に上昇した3種類の変異ウイルスを回収。それらのゲノム全塩基配列を決定して親株との比較を行ったところ、ウイルス表面の糖タンパク質HAのレセプター結合性を担うヘッド領域および膜融合活性を担うストーク領域に変異が認められたという。一方、ウイルスの細胞からの遊離を担うNAの膜貫通領域にも変異が見られたが、ほかの遺伝子分節には変異はなかったとする。

また、ゲノムRNA転写プラスミドに変異を導入することで、任意の変異ウイルスを人工的に作出できるリバースジェネティクス法で、各変異ウイルスを作出しそれらの表現型の調査も実施。A型インフルエンザウイルスのエンベロープ糖タンパク質はHAとNAの2種類あり、HAは、ウイルスの細胞への感染に必要なシアル酸レセプターへの結合とエンドソーム膜との膜融合活性を担い、NAは細胞表面のシアル酸を消化することでウイルスが細胞から遊離するのを担うことが知られている。

作出されたウイルスのうち、HAヘッド領域に変異が導入された組み換えウイルスは、いずれも親株より増殖性のわずかな上昇が見られたとする一方で、HAストーク領域に変異が導入された組み換えウイルスでは、増殖性の大幅な上昇が確認されたという。また、NA膜貫通領域に変異が導入された組み換えウイルスは、中程度の増殖性の向上が見られたという。

  • H7N2ネコウイルスのパンデミック潜在性

    (図1)H7N2ネコウイルスのパンデミック潜在性。(図2)HAタンパク質構造と変異部位。(図3)組み換え変異ウイルスの増殖性。(図4)変異HAの膜融合活性のpHしきい値 (出所:東大Webサイト)

加えて、各変異ウイルスの増殖性向上のメカニズムが検索されたところ、HA膜融合活性のpH要求性と、HAの細胞レセプターへの特異性・結合力と、NAの細胞レセプター消化能のHA-NA機能バランスをヒト呼吸器細胞に適合させる変異が、H7N2ネコウイルスがヒト呼吸器細胞における効率的な増殖性を獲得するメカニズムとして重要であることが判明したとする。

なお、今回同定されたこれらの変異は、パンデミックのサーベイランス予測を担うウイルスモニタリングに貢献することが期待されると研究チームでは説明している。