京成トラベルサービスは、京成電鉄と山万の後援で、初のコラボツアー企画「3600形ターボくん&こあら号で行く! 山万ユーカリが丘線車両基地見学ツアー」を開催した。ツアーは5月21・28日に行われ、5月21日に報道関係者の取材機会が設けられた。

  • 山万ユーカリが丘線「こあら1号」。京成電鉄と山万ユーカリが丘線を楽しむツアーが開催された

「3600形ターボくん&こあら号で行く! 山万ユーカリが丘線車両基地見学ツアー」は、残り2編成となっている京成電鉄の車両3600形のうち、すべての車両にモーターが搭載されている「ターボくん」こと3668編成に乗車。ユーカリが丘駅で山万ユーカリが丘線に乗り換え、同線を周遊した後、車両基地を見学する内容で実施された。

■京成電鉄3600形「ターボくん」でユーカリが丘駅へ

ツアーのスタートは京成上野駅。3600形「ターボくん」のツアー列車は8時52分、1番線に入線した。先頭車両にオリジナルヘッドマークを掲出している。成田空港方の先頭車両(3661号車)は、通常の前照灯に加えて急行灯も点灯しており、快速や特急などで活躍した頃をほうふつとさせた。記念看板も用意され、前照灯・急行灯を光らせる車両の前で記念撮影もできた。

  • 3600形「ターボくん」が入線。成田空港方の先頭車両付近に記念看板も

  • 車体前面にオリジナルヘッドマークを掲出

  • 京成上野駅を発車した後、地上に出て日暮里駅を通過

ツアー列車は9時7分に京成上野駅を発車。京成電鉄の他の車両よりも懐かしさの残る空間にVVVFインバータ制御のモーター音が響き、見た目と音のギャップが面白い。この日は千葉県に入ったあたりから雨が降り始めたが、「ターボくん」は直線・カーブに合わせて加減速を繰り返しながら快走。車内放送で今回の記念ヘッドマークや車両の紹介など行いつつ、ユーカリが丘駅へ向かう。

一部の駅で先行列車を追い抜く場面も見られ、船橋競馬場駅では都営浅草線から直通している快速を追い抜いた。4両編成の途中駅通過は珍しい。

京成津田沼駅を出た後、車内抽選会の時間が取られた。各号車3名ずつ番号が選ばれ、当選者にはお菓子の詰め合わせ「スカイライナー」BOXをプレゼント。車内では「スカイライナー」BOXの引換券が手渡された。この券はユーカリが丘線車両基地での物販コーナーにて引換えとなった。

  • 車内でプレゼントの当たる抽選会を実施

  • お菓子詰め合わせ「スカイライナー」BOXが景品に

  • ユーカリが丘駅に到着。「ターボくん」はすぐに回送列車となった

「ターボくん」のツアー列車は9時50分、ユーカリが丘駅に到着した。ユーカリが丘駅では下り線の待避ができないため、参加者全員の下車を確認した後、「ターボくん」はすぐに回送列車となって発車していった。ツアーの参加者たちは添乗員の指示に従い、山万ユーカリが丘線の駅へ移動。ユーカリが丘線の臨時列車に乗車する。

■山万ユーカリが丘線、街と自然の中を周遊して車両基地へ

ユーカリが丘駅の改札口にて、参加者たちはユーカリが丘線の1日乗車券を受け取り、改札機に通して入場。10時8分、「こあら1号」の臨時列車が入線した。先ほど乗車した「ターボくん」と同じく、今回のために用意された記念ヘッドマークが車体前面に掲出されている。全員の乗車を確認し、10時10分に「こあら1号」は発車。ユーカリが丘線を1周し、ユーカリが丘駅に一度戻ってきた後、女子大駅に隣接する車両基地に入線する。

  • 山万ユーカリが丘駅に「こあら1号」が入線

  • 車体前面に記念ヘッドマークも掲出

  • ユーカリが丘駅付近の高層マンションやショッピングモールを眺める

山万ユーカリが丘線は、不動産事業者の山万が鉄道事業として運営しており、民間初の新交通システムとして1982(昭和57)年に開業。日本の新交通システムとしては唯一となった中央案内式の案内軌条を採用している。1周約14分、ユーカリが丘駅を含めて全6駅という小さな規模ではあるものの、タウン内の全住居から徒歩10分以内でアクセスできるように駅を配置し、地域の足として役立てられている。新交通システムという特性ゆえに、騒音・振動・排気ガスの心配もない。

本来のユーカリが丘線はワンマン運転だが、今回はツアー臨時列車ということもあり、運転士とは別にアナウンス担当の乗務員が乗車。親しみのある口調で路線や車窓風景について解説した。

途中、公園駅で「こあら3号」と待ち合わせた。日中のユーカリが丘線は1本体制で運転しているため、朝夕以外に電車がすれ違うことは珍しい。公園駅からは反時計回りの環状運転となり、進行方向右手に住宅街が続く一方、左手にはのどかな田園風景が広がる。駅名とは裏腹に女子大が存在しないことで有名な女子大駅も通った。正確に言うと、女子大駅付近に大学のキャンパスは存在しないが、女子大のセミナーハウスが存在する。この駅の隣にユーカリが丘線の車両基地がある。

宮ノ橋を渡り、中学校駅に近づくと、掘削された区間となり、左右に住宅地が接近する。中学校駅から井野駅に向かう途中、警笛を鳴らしてトンネルに進入すると、右側にカラフルなイルミネーションが灯った。解説によれば、これは社員が手作りで製作したものだという。運転の都合上、トンネル内で一時停止したため、窓の外の暗闇が多彩な色で飾られる様子を観察できた。

  • 女子大駅へ向かう途中、新交通システムの車窓に田園風景が映る

  • 公園駅で「こあら3号」とすれ違う

  • 車両基地に到着。社員が大きく手を振って迎えた

井野駅を出ると、急カーブと35パーミルの急勾配を越え、公園駅に戻ってくる。ユーカリが丘駅から戻ってきた「こあら3号」と待ち合わせを行い、「こあら1号」も再びユーカリが丘駅へ。その後、女子大駅へ再度折り返した。女子大駅にて、運転士が無線で入庫の手配を行い、信号が開通すると、警笛を鳴らし、車両基地へと進入。10時40分、「こあら1号」のツアー列車はユーカリが丘線車両基地へ到着。その頃には雨も上がっていた。

■ドア開閉と記念撮影を体験、床下カバーを外しての車両展示も

ここからは3班に分かれ、見学・体験を行っていく。筆者は1班に同行し、最初は運転台でドア操作体験を行った。参加者が1人ずつ運転室に入り、運転士の案内に従って、ドア開と発車合図、ドア閉めを体験する。ユーカリが丘線の車両では、運転室の乗務員扉上にドア操作のボタンが設置されている。窓から側面を目視するか、ミラーを利用してホームの様子を確認した後、「戸開」のボタンを押してドアを開ける。

ドアが開いている間、側灯が赤色で点灯していることを確認。「合図」のボタンを押すと発車ベルの音が流れ、「戸閉」のボタンでドアを閉める。実際の運行では、最後に側灯が消えていることを確認し、電車が発車する流れとなる。

  • 山万ユーカリが丘線の車両1000形の運転台

  • 乗務員扉上に設置されたドア開閉ボタン

  • 運転士の制帽を被り、記念撮影

次に反対側の先頭車両に移り、記念撮影の時間となった。参加者に運転士の制帽が貸し出され、1人ずつ運転室で記念撮影を行う。運転室内からの撮影と、運転室外からの撮影を1人1回ずつ行った。参加者の許可を得て記念撮影の様子を取材したところ、その参加者も制帽を被り、マスコンハンドルを握りながら腕をまっすぐ伸ばし、指差喚呼のポーズで記念撮影を行っていた。

車内での体験が終わった後、検修庫で1000形を見学。「こあら2号」が庫内に展示されていた。山万ユーカリが丘線の車両1000形は3両固定編成で、1980(昭和55)年に第1・2編成「こあら1号」「こあら2号」、1982年に第3編成「こあら3号」が製造された。重量は29.7トン(3両編成)、車体長は先頭車8,850mm・中間車8,000mm、車体幅は2,500mm、車体高は3,300mm。営業運転最高速度は50km/hで、制御装置は抵抗制御を使用している。

外観はアイボリーホワイトの塗装をまとい、自然を表現したグリーンのラインを窓下に配している。運転台は運転室内から見て右側に配置され、車外に窓のないスペースができている。そこにステッカーが貼られ、「こあら1号」「こあら2号」「こあら3号」でそれぞれ異なるデザインになっている。車体側面にユーカリが丘のキャラクター「こあらファミリー」のラッピングが施され、小柄な車両ながら見た目はにぎやかだ。

  • 「こあら2号」先頭車1102号の外観

  • 「こあら2号」中間車1302号の外観

  • 「こあら2号」先頭車1202号の外観

ユーカリが丘線の車両は通常、床下機器を覆うカバーが取り付けられているが、展示中の「こあら2号」では床下機器カバーが外されていた。担当のスタッフによると、両先頭車の床下機器はほぼ共通しており、このうち1100号(1101・1102・1103)の床下にコンプレッサーも設置されているという。中間車の床下には抵抗器が設置され、排熱を逃がすためにカバーがメッシュ状になっている。

片側のみの展示とはいえ、床下カバーを外した状態でユーカリが丘線の車両を公開する機会は珍しい。参加者たちはさまざまな角度から車両を見学し、スタッフの解説にも耳を傾けつつ、興味深く観察している様子だった。

  • 案内軌条の案内タイヤも見えた。検修庫内で運転台の展示も

車両の外側からだと見にくいが、床下機器のうち、走行用のゴムタイヤの間に案内軌条を挟む案内タイヤも確認できた。ユーカリが丘線では軌道の溝の中に架線を設置しており、ここに集電器を接地させて電気を取り入れ、電気を逃がす際は中央の案内軌条に逃がしているという。

1102号付近で運転台の展示もあり、マスコンハンドル、逆転器、自動放送装置のそれぞれにネームプレートが添えられ、わかりやすく展示されていた。検修庫内で京成電鉄、京成トラベルサービス、山万の3社による物販も行われた。

■日々の安全運転のための出庫点検を実演

最後に3班が合流し、出庫点検を見学した。これから乗務する車両に異常がないか、運転士が点検する。まずは先頭車両のワイパー・ライト類が正常か確認。続いて車内に入り、配電盤検査、バッテリー投入、運転室搭載品の検査を行う。車外からはわかりにくいが、客室内を移動しながら各部を点検している様子が見られ、バッテリー投入時はその音も聴こえた。

客室内での点検が終わると、乗降台から降りて手歯止めを撤去。喚呼・確認を行った後、床下のカバーを軽く叩き、床下の機器類に異常がないか、3両編成の左右ともに確認する。床下の異常なしを確認した後、再び運転室に入り、ブレーキテストやデッドマン装置の作動を確認。デッドマン装置が作動すると「ジリリリリ」と音が鳴り、車外にも響き渡った。

続いて左右のドア開閉を行う。ドアを開き、発車合図音を流し、ドアを閉める。開閉に合わせ、側灯が点灯・消灯しているかも確認する。これを3両編成の左右ともに異常なく動作するかテストした。ドア開閉を確認できたら、放送用マイクのテストを挟み、起動試験に。警笛を合図に、電車を数メートルほど前後に動かし、正常に動いているか確認する。片方の先頭車両で点検を行い、客室内の照明や搭載品を点検しながら反対側の先頭車両に移り、同じ手順で点検作業を行う。

  • 乗務員扉の窓から喚呼しつつ点検を進める

  • 乗降台を降り、手歯止め撤去と床下の点検

  • 反対側の先頭車両も点検を実施

通常、出庫点検の際に無線通話テストも行うのだが、今回はイベントとしての実演だったため省略。参加者たちが目で追いやすくなるように、本来のペースより少し遅めに実演を行った。このような手順で電車の点検を行い、異常がないことを確認し、毎日の安全運行に努めているとのこと。

ツアー当日の資料によれば、今回のツアーにあたり、定員37名で募集したところ、5月21日開催分の応募総数は145名、抽選倍率は約3倍だったという。山万ユーカリが丘線の車両3編成を通常運行・臨時列車・展示用で振り分けたこともあり、これまでのツアーと比べて少ない人数での開催となったが、新交通システムの裏側を見学・体験できる貴重な機会になったのではないかと思う。