通信関連の最新技術が集まる展示会「ワイヤレスジャパン2022」が東京ビッグサイトで開幕しました。「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2022」「運輸・交通システムEXPO 2022」と同時に、5月25日~27日の3日間にわたって開催されます。
基本的にはB2Bのイベントなので専門的な内容が中心になりますが、新しい物好きのコンシューマー目線で見ても興味深い展示物もちらほら。会場で見つけた気になる最新技術をピックアップしてお届けします。
必要になる日は意外と近い? 月面でのモバイル通信(KDDI総合研究所)
まずは大手通信会社系のブースを見て回ろうとKDDI総合研究所のブースを訪れたところ、「月面でのモバイル通信実現」という衝撃的なパネル展示を発見。
なんだかスケールが大きすぎて実感がわかないというか、まだ遠い先の話のような……とこぼすと、「意外と現実的な話なんですよ」と説明員の方が補足してくれました。
NASAが主導する有人月面探査計画「アルテミス計画」では、2024年から月軌道上の宇宙ステーション建設、2028年頃までに月面基地の建設に着手するというスケジュールが立てられています。未知の挑戦ですから実際にスケジュール通りに進行できるかはともかく、数年~10年程度先の現実的な課題として、「月面に人類が滞在する際の通信手段をどう確保するか」を真剣に考えておく必要はあるというわけです。
KDDIおよびKDDI総合研究所は、アルテミス計画に関連してJAXAが指揮をとっている「月面活動に向けた測位・通信技術開発に関する検討」の委託先に選ばれています。
大きく分けて、地球から月面までの通信手段、そして月面基地での通信エリア整備という2つの課題があり、特に後者は移動体通信事業者としてのノウハウが活かされる部分です。
電波の飛び方(反射や回折)と地形を考慮してエリア設計をしていくという基本的な考え方は、地球上の携帯電話のエリア整備と同じです。しかし、月面は凹凸の多い地形であること、金属成分を含む「レゴリス」という物質で地表がおおわれていることなど、基地局(アンテナ)の配置ひとつを取っても地球とは似ているようで違う条件を考慮しなければならないのが難しくも面白いところです。
月面基地の建設にあたっては、広い平地を確保することが難しい月面特有の事情から、クレーターのひとつひとつを発着エリア、居住エリア、備蓄倉庫などと小分けに整備するのが現実的なのだそうです。そのためには、複数の月面基地局を設けてそれぞれを接続した一定規模のモバイルネットワークが必要になるという考えから、このような研究が進められています。
5G以上に高速・低遅延な近距離特化の無線技術(TransferJetコンソーシアム)
ガジェット好き、特にデジタルカメラに興味のある方なら、「TransferJet」という近距離無線通信規格を覚えている方も少なくないでしょう。
およそ10年ほど前に盛り上がった技術で、カメラやノートPC、スマートフォンなどに搭載され、ケーブル不要で高速なデータ転送ができました。搭載製品の中でも、カメラから取り出さずにデータを転送できる東芝製のTransferJet搭載SDカードは知名度が比較的高く、使い勝手の良さから人気がありました。
残念ながら2022年現在はTransferJet搭載製品の販売/サポートは終了していますが、その技術は形を変えて進化し続けています。
次世代規格「TransferJet X」はIEEE 802.15.3eに準拠し、ミリ波(60GHz帯)を利用する高速無線通信規格で、「高速転送」「瞬間接続」「最速担保」の3点をアピール。近距離の1対1通信に特化することで安定性を高め、転送レートは最大13.1Gbps、接続開始時間は0.0002秒と高速かつ低遅延なことが特徴です。
かつてのTransferJetはあえて通信範囲を3cm程度に絞ることで当時としては高速な無線通信を可能にしていましたが、これだけハイスペックな新規格となれば使い方はさらに広がります。
今回の展示では、「高速転送」と「瞬間接続」の2つの強みを活かせるユースケースが紹介されました。
まず高速通信を活かしたパターンは、インフラ監視などのためのカメラ搭載ドローンでの使用例です。機体と発着陸ポートにTransferJet Xの通信機を取り付け、着陸時に自動で録画データを吸い出します。無人運用の一助となるうえ、10GB分の映像を約16秒で転送できることから、再飛行までのダウンタイムを減らせます。
瞬間接続を活かしたパターンは、次世代の自動改札機や入館セキュリティなどとしての採用が期待されるタッチレスゲートシステム。天井から吊り下げるような形でアンテナを設け、TransferJet Xを組み込んだスマートフォンなどを検知して認証を行います。
大容量の動画ファイルなどの高速転送には旧TransferJet並みの至近距離がベストですが、大きなデータのやり取りがいらない処理であれば距離を置いても対応できるため、バッグからカードやスマートフォンを取り出してかざす必要のないタッチレスゲートを作れます。
この用途では低遅延のメリットが発揮され、開発段階の実験では立ち止まらずにゲートを通過したり、走って通過したりしても処理速度的には十分対応できることが確認されているそうです。改札やオフィスの入口に導入されれば、人の流れが詰まって混雑することも減るかもしれません。
電池やケーブルいらずの次世代ワイヤレス給電(加賀FEI/Energous)
エレクトロニクス商社・加賀FEIのブースでは、米Energousの次世代ワイヤレス給電技術が紹介されていました。
現在実用化されているワイヤレス給電技術としては「Qi」が有名です。USBケーブルをつながなくても、充電台に置くだけでスマートフォンを充電できる便利さは多くの人が実感しているでしょう。次世代ワイヤレス給電とは、さらに給電可能距離を伸ばし、特定範囲の空間全体にある機器にワイヤレスで電力を供給できるシステムです。
実を言うと、モバイル業界を追っている人間にとっては、ワイヤレス給電の長距離化、空間伝送型ワイヤレス給電というのは何年も前から実験レベルでは見聞きしてきた話です。少なくとも「部屋のどこにいてもスマホが勝手に充電される」というほどの出力のシステムを作るには課題が多く、遠い未来の構想レベルのものと認識しています。
ところが今回、現実的なビジネスソリューションのひとつとして取り扱う加賀FEIの担当者さんの話を聞いていくと、用途によってはそう遠くないうちに現実のものになるのだろうと感じました。
具体的な用途としては、小売店で時々見かける電子POP(値札)を電池不要かつ遠隔で書き換え可能なものに進化させたり、物流倉庫にワイヤレス給電環境を整備して電子タグによる追跡管理を充実させたりできます。日本国内での法改正も進んでおり、2022年度中には一部解禁され、出力1W程度で数m先に給電できる空間伝送型ワイヤレス給電システムを数社が実用化する見通しです。