フィリップスの補聴器を日本で展開するデマント・ジャパン(以下、デマント)が、AIを搭載した補聴器の新シリーズを発売しました。フィリップスのAI搭載補聴器を体験できたメディア向け発表会からお届けします。
デマントは、1904年にデンマークで創業された世界的な聴覚ヘルスケア企業。2018年にロイヤル フィリップス社と補聴器事業におけるブランド使用の独占グローバルライセンス契約を締結し、フィリップスブランド補聴器の開発・製造・販売を行っています。日本では2020年1月から販売しています。
今回は「フィリップス ヒアリンク」の新シリーズ。以前から展開している9000・7000・5000シリーズに加えて、低価格帯のシリーズとして新たに3000シリーズと2000シリーズが拡充されました。
補聴器の所有者(421人)に対してJapanTrack 2018が行った調査によると、補聴器ユーザーが困っていることとして、約半数が「騒がしい場所での使用」や「周りがうるさい環境下で会話するとき」を挙げています。
「加齢による難聴者の『聞こえ』のイメージは、音の大きさではなく、例えば『子音が聴こえづらい』といった音の種類や周波数などの違いによるもの」(デマント・ジャパン フィリップス ヒアリングソリューションズ セールスマネージャー 武田和浩氏)
そこで、フィリップス補聴器のフラッグシップ「フィリップス ヒアリンク」シリーズでは、音声処理技術にAIを活用した「AIサウンドテクノロジー」を採用。
従来の補聴器は、聴覚学の技術者が一定のアルゴリズムを適用して、騒音抑制をはじめとする音声処理を行っていました。対してAIサウンドテクノロジーは、ノイズが多い会話など実世界における1,000万以上の音環境データをAIに入力して、トライ&エラーを繰り返しながら学習させています。人が心地よいと感じる音声環境をその都度その都度でAIが的確に判断し、自動で最適に調整するようにしました。
これにより、さまざまな種類の音が同時に混在するにぎやかな場所でも、会話をよりクリアに聞き取れるように補聴器がサポートしてくれます。
AIによる音声技術を搭載した「フィリップス ヒアリンク」は、日本では2021年3月から展開していますが、最上位の9000シリーズは両耳で約70万円と高価。一方で、今回拡充された3000シリーズと2000シリーズは、AIサウンドテクノロジーを搭載しつつも、価格を抑えたモデルとして提供します。デザインや設計は同じですが、音の指向性や騒音抑制といった機能、スペックの一部を抑えた設計です。価格は販売店にもよるものの、推定市場価格は15~20万円程度とリーズナブルなモデルになります。
日常にもある難聴リスク
トークセッションのゲストは、産業医・内科医の森勇磨氏。昨今危惧されている「イヤホン難聴」や、難聴が日常生活に及ぼす影響、気を付けるべき難聴のリスクについて紹介しました。
森氏によると、日本は難聴者の数が世界で3番目に多い国だそう。欧米では難聴者の30%~40%が補聴器を利用しているのに対して、日本は17%ほど。「日本は補聴器の後進国」(森氏)と話しました。
武田氏は「聴覚障害に対する意識の違いや、補聴器への抵抗感が、日本で補聴器が普及する障害になっていると思います」とコメント。武田氏によると、聴覚障害の自覚症状があってから実際に耳鼻科などに訪れるまでの平均期間は、およそ4~5年。耳が聞こえづらくなってから受診するまでに、これだけのタイムラグがあるのです。
難聴による社会生活のリスクは、聞き取りづらさや聞き間違いといったものが一般的な認識ではないでしょうか。しかしほかにも。
「聴覚による刺激が少ないことから、認知症のリスクが2倍。コミュニケーションが億劫になり、社会的に孤立していく。その結果、うつ病のリスクも高まります。聞こえづらいことによる交通事故や転倒、それによる骨粗しょう症といった、さまざまなリスクがあります」(森氏)
現在の日本だと、補聴器の利用者は70代~80代が中心ですが、最近は中高年も増えてきているそうです。
「20代や30代でも必要な人はいます。必要か否かは年齢ではなく、聴力検査の結果で判断を」(森氏)
武田氏によると、コロナ禍以降、補聴器の販売店にも若い人の来店や相談が増えているそうです。その原因として考えられる1つとして「オンライン会議」を挙げます。
「イヤホンでオンライン会議に参加しているとき、周りがうるさかったりすると、無自覚のまま音量を上げてしまいます。それで知らず知らずのうちに耳にダメージを与えることになっているようです」(武田氏)
ちなみに、難聴のリスクが高まるのは85dB以上の大きな音。パチンコ店内や近くで救急車のサイレンを聞く音がこれに相当するとのことで、最大音量のヘッドホンは100~120dBにもなります。こうした大きな音によって、耳の有毛細胞がダメージを受けて聞こえにくくなる症状が、騒音性難聴や音響性難聴と呼ばれるものです。
「有毛細胞が傷つくと元には戻りません。加齢性難聴の場合にも基本的には戻りません」(森氏)
コロナ禍によるマスク生活も、難聴者の不便さが増している一因になっているそうです。
「マスク着用で高い周波数の音域が4dB減衰するというデータがあります。また、口元を見て話すことで聞こえづらさを補うことができましたが、マスクでそれができなくなったということもあります」(武田氏)