ここ数年、自宅で飲酒する時間が増えていたこともあり、日本酒を嗜むようになった人もいるはず。ウイスキーやブランデー、焼酎、ワインと同じように、日本酒も熟成することで味わいが変わり、より深い楽しみ方ができるのだとか。そんな「熟成日本酒」の美味しさを知ることができる「酒遊び とらとら」が恵比寿にオープン。居心地の良い空間で、熟成日本酒と料理とのペアリングを堪能してきた。
■「酒遊び とらとら」とは
「酒遊び とらとら」の場所は、JR恵比寿駅の西口から徒歩5分。駒沢通り沿いを代官山方面に進んで路地に入り、恵比寿神社の横に立つビルの3階。
エレベーターを降りて引き戸を開けると、BGMでモダンジャズが流れる店内は意外なほどに広々としていて、洒落た大人の隠れ家といった雰囲気だ。
3月24日にオープンしたこちらのお店では、店主の大森運大さんが自宅で熟成させたという日本酒や、酒屋や蔵元からの協力で熟成した日本酒が多数用意されており、中には30年熟成の日本酒もあるという。日本酒の酒造技術は、1980年~90年代ぐらいに純米酒が増え始めた頃から向上したそうで、今後ももっと寝かせて美味しくなる日本酒が出てくる可能性があるそうだ。
大森さんご自身はもともと日本酒があまり飲めなかったそうだが、あるとき温めた15年熟成の日本酒を飲んでみたところ、美味しくて変な酔い方をしなかったことから、その魅力に惹きつけられ、日本酒があまり飲めない方にも熟成日本酒を知ってもらいたい、との想いから店をオープンするに至ったそうだ。
■お酒とのペアリングを堪能できる上質な品々
今回は8品の料理「美味佳肴」(7,500円)に日本酒ペアリング(3,500円)をつけたコースをお願いした。乾杯のお酒はこちらで選べるということで、まずは「自家製レモンサワー」をいただいた。瀬戸内のレモンを日本酒の酒粕を使った「酒粕焼酎」に漬け込んでおり、酸っぱくて甘さがある所謂レモンサワーの味とはまったく違ったドライな味わいが堪能できる。
また、乾杯ドリンクには「日本酒ソーダ」も用意されている。甘みがあるもののソーダを加えることでスッキリした飲み口で、最初のドリンクにピッタリ。
先付け~前菜
コースは先付け「冷製蜆汁 根三つ葉」から。しじみの旨味たっぷり、なおかつ口の中がさっぱり。
前菜は、「鴨の酒蒸し」「甘海老の沖漬け」「唐墨の西京漬け」「ガリ〆鯖」「信州産アスパラ酢味噌漬け」と、綺麗な器に入った目にも楽しい創作和食がズラリ。
ペアリングの日本酒は、和歌山県・高垣酒造「龍神丸」の令和元年と令和2年に醸造した2種類をいただいた。令和2年の方はとてもまろやかな口当たりだが、令和元年の方は少し酸味が残る感じ。軽い冷蔵の日本酒だが、常温に戻ることで少し甘みが出てくるのが特徴的。「甘海老の沖漬け」、「唐墨の西京漬け」のねっとりとした食感、味わいが引き立って、前菜からペアリングの楽しさが満載といった感じだ。
お造り 天然鮮魚三種
お造りは、佐賀のきびなご、青森の生本まぐろ、愛媛の真鯛で、すべて天然もの。ペアリングはお猪口一杯分の日本酒が3種類用意され、ユニークなラベルが印象的。
まぐろに合わせるのは、2016年に造られた徳島県・三芳菊酒造「三芳菊」。ラベルに今は亡きニューヨークのミュージシャン、ルー・リードの代表曲“ワイルド・サイドを歩け(Walk on the wild side)"の文字があってつい興奮。
それ以上にビックリなのが、無濾過生原酒を冷蔵庫で6年寝かせた日本酒だということ。まぐろに添えられたすだちを絞り、たまり醤油につけていただくと、甘酸っぱいお酒の味、すだちの鮮やかさ、まぐろの旨味が三位一体となった美味しさにうっとり。
長野県・笑亀酒造「くせものじゃ 二女 きもと」は味噌麹で仕込んだ変わったお酒。こちらは3~4年、店主が自宅で熟成させたもので、しっかりした酸味があり、淡白ながら深い旨味がある真鯛とよく合う。福岡県・旭菊酒造「綾花」は、2021年に造られた1年熟成もの。ライトな飲み口で、きびなごと合わせていただいた。
「先にお刺身を食べてから、飲み込む瞬間に追いかけるように酒をクイッと入れてもらうと、旨味が綺麗にまとまります」(店主)とのこと。料理・お酒の説明がとても丁寧でさりげなく、形式ばった感じがないのでとても心地良く食事が楽しめる。
焼き 常陸牛サーロインの酒粕味噌漬け
酒粕と味噌で漬けた常陸牛のサーロインは、厨房で表面を炙った状態で提供される。あとは卓上コンロで炭火焼きにしていただく。
ペアリングの日本酒は青森県・竹浪酒造「七郎兵衛」。個性的な盃を1つずつチョイスして盃台に乗せ、銅のちろりから燗酒を注いでいただくという一連の流れも楽しい。酒粕のコクがしっかり染み込んだ常陸牛は絶品。ますます自然に盃が口に運ばれてしまう
温物 熟成純米酒しゃぶしゃぶ 鹿児島黒豚
広島県・竹鶴酒造「秘傳」4年熟成純米酒を銅鍋に入れて、沸騰させてアルコールを飛ばした状態で鹿児島産の黒豚をしゃぶしゃぶする贅沢さ。お酒と梅干、かつおと昆布を煮詰めた「煎り酒」につけていただいた。
お酒を使ったしゃぶしゃぶなので、多少鍋に入れておいても肉が硬くならないのが良いところ。黒豚の柔らかく歯切れの良い肉質としっかりした旨味が美味しい。さっぱりした肉の脂と、煎り酒の酸味が2016年醸造で6年熟成の岩手県・川村酒造「よえもん」とのペアリングで楽しめた。
煮物 春筍と新若芽の若竹煮
肉料理が続いたあとに出てきたのは、鹿児島産の新筍と三陸の生わかめを使った若竹煮。福岡県・旭菊酒造「旭菊」とのペアリングで季節を感じる料理をあっさりと。ここまで結構な種類のお酒をいただいたのだが、まったく変な酔い方をしておらず、とてもイイ酔い心地。これが熟成日本酒の良いところなのだろう。
食事 江戸前穴子と山田錦の土鍋ごはん
兵庫県産の酒米「山田錦」を江戸前穴子と共に土鍋で炊いたごはん。日本酒を作る酒米、しかも山田錦を炊いたごはんを初めて食べたのだが、酒米は普通の米と違いでんぷん質が多いということもあり、噛めば噛むほど甘みが出てくるのが特徴。
事前にしっかりと水を吸わせて土鍋で炊いて蒸らしたごはんとふんわりした穴子、おこげの香ばしさがたまらない。赤出汁を飲んでほっと一息(お椀があるのでペアリングは無し)。
デザート 北海道小豆のクリームぜんざい
デザートの「北海道小豆のクリームぜんざい」にもペアリングがあり、鳥取県・梅津酒造「野花」と京都・向井酒造「伊根町夏の想い出」で締めくくり。優しくてまろやかなぜんざいの甘さと甘酸っぱいお酒で後味良くコースを終えた。
一品一品とても手の込んだ創作料理をいただきながら、店主が丁寧に熟成日本酒の味わい方を教えてくれて、最高の食事体験ができた。ゆったりくつろげる空間で、ときを忘れて熟成日本酒の味と料理に没頭すれば、明日への活力になるはず。
■Information
酒遊び とらとら
東京都渋谷区恵比寿西1丁目13−6 ブラッサム ZEN3F
【営業時間】17:00~23:00(L.O 22:30)
【定休日】日曜日