年収500万円の会社員がiDeCoを毎月1万5000円積み立て、退職金を2000万円もらった場合の老後のお金を試算してみました。毎月の年金額から生活費を引くといくら残るのか、介護施設に入ったらどうなるかなど、具体的な数字を見ることで老後生活をイメージできるでしょう。
■年収500万円の会社員の公的年金は月15万2000円
国税庁の「民間給与実態統計調査(令和2年分)」によると、給与所得者の平均給与は433万円となっており、男女別にみると、男性は532万円、女性は 293万円となっています。年収500万円は男性の平均年収に近いといえます。そこで、年収500万円を例にして、公的年金をいくらもらえるのか試算してみましょう。
前提として、22歳で会社に入社(2003年4月以降に入社)してから60歳で退職するまで、年収500万円だったと仮定します。実際は、入社したばかりの頃の年収は低く、退職に近い年齢になると年収は高くなりますが、平均して500万円ということで試算します。
<厚生年金受給額(報酬比例部分)の計算>
「加入期間中の平均年収×0.55%×保険料納付年数」という簡易計算式を使って計算します。
500万円×0.55%×38年=104万5000円
これに基礎年金部分が加わるので、20歳から60歳まで40年間納付したと仮定すると、満額の78万円を受け取ることができます。
<公的年金受給額(年額)>
104万5000円+78万円=182万5000円
60歳まで働けば、このように公的年金をおよそ182万5000円受給できますが、年金が受給できるのは65歳からなので、60歳から65歳まで再雇用で厚生年金に加入しながら継続して働いた場合も見てみましょう。すでに基礎年金は満額受給できるので、増えるのは厚生年金の報酬比例部分のみです。
<60歳から65歳まで再雇用で働いた場合>
年収は360万円(月収30万円)とします。
360万円×0.55%×5年=9万9000円
平均年収500万円(再雇用後は360万円)の会社員は、公的年金をおよそ192万4000円(月額にすると約16万円)受給できます。
■iDeCoを利回り2%・毎月1万5000円積み立てたら受給額は約740万円
公的年金を月15万2000円受給できることがわかりましたが、これだけでは心許ないと思います。そこで、iDeCo(個人型確定拠出年金)で年金を増やすことにしましょう。掛金については、「iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入等の概況(2022年3月時点)」を参考に、全体平均が1万6056円なので、毎月1万5000円を投資信託で積み立てることにします。
iDeCoは自分で年金を用意するものですが、掛金が全額所得控除となるメリットがあります。
たとえば年収500万円の人が35歳から65歳まで1万5000円の掛金を払い続けた場合、所得税と住民税を合わせておよそ108万円(30年間の合計)税金が軽減されます。
積立額はいくらになるでしょうか。掛金すべてを投資信託で運用した場合を考えてみましょう。運用利回りは、実際に運用した結果なので、必ずしもこの通りになるとは限りませんが、iDeCoは平均利回り3~5%の商品が多いことから、運用利回り2%で30年間運用したと仮定しましょう。
<毎月1万5000円を運用利回り2%で30年間積み立てた場合>
積立総額 5,400,000円
運用益 1,981,176円
積立総額+運用益 7,381,176円
※「高精度計算サイト」を利用して算出
積立元本と運用益を合わせて約740万円となりました。iDeCoは運用益が非課税となるので、複利効果によって利益の最大化ができます。
●iDeCoの受け取り方法
iDeCoの積立によって、65歳の受取時に740万円になったとします。iDeCoの受け取り方法は「一時金」、「年金」、「一時金と年金の組み合わせ」の3つがあります。
<一時金での受け取り>
一時金で受け取る場合は、退職所得控除が適用されます。
退職所得の金額=(総収入金額-退職所得控除額)×1/2
*退職所得控除額
勤続年数20年以下:40万円×勤続年数(最低80万円)
勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
※iDeCoの場合、勤続年数=拠出年数となります。
ここで注意しなければならないのは、総収入金額は一時金として受け取る金額を合わせたものです。そのため他に退職金がある場合は、この金額が大きくなって、課税される可能性があります。
時期をずらせばいいかというと、そうでもなく、合算の対象となるのは、iDeCoで一時金の受け取りをした前年から遡って19年以内に受け取った退職一時金も含まれるため、数年ずらすだけでは意味がないのです。
勤続年数38年、60歳で退職金2000万円を受け取った会社員を例にします。
800万円+70万円×(38年-20年)=2060万円
退職所得控除額は2060万円となるので、退職金2000万円だけであれば非課税となりますが、iDeCoの一時金740万円が加算されると、
(2740万円-2060万円)×1/2=340万円
340万円が退職所得として課税されます。税額は25万7802円となります。
参考:別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表|国税庁
<年金での受け取り>
年金で受け取る場合は、公的年金等控除が適用されます。この場合の公的年金等は、国民年金、厚生年金、企業年金、iDeCoの年金受け取りが該当します。そのため、当てはまる年金額が多く、公的年金等控除額を超えてしまうと、雑所得として他の所得と合算されて課税されます。これによって社会保険料が増える可能性もあるので留意しておきましょう。
例として、65歳から公的年金を192万4000円、iDeCoを65歳から75歳の10年間年金形式で受け取った場合を考えてみましょう。iDeCoは740万円÷10年なので1年間の受け取りは74万円になります。
192万4000円+74万円=266万4000円
110万円以上330万円未満に当てはまるので公的年金等控除額は110万円となります。
156 万4000円が雑所得として総合課税されます。年金以外に収入がないとすると、ここから各種所得控除と社会保険料控除を引いた課税所得に税率をかけて税額を出します。
参考:No.1600 公的年金等の課税関係|国税庁
●一時金と年金どちらが得か
税金の多寡でどちらが得かを判断するのは早計です。一時金の場合は、税金がかかるのは1回ですが、年金の場合は受け取る年ごとにかかります。また、退職所得は申告分離課税になるので、社会保険料が増える影響はありません。年金受け取りの場合は、総合課税となるため、社会保険料が増える可能性があります。
税金以外の要素もあります。年金形式で受け取れば、受け取り完了までは非課税での運用を継続できます。これは同時に口座管理手数料が受け取り完了までかかることでもあり、運用成績によっては減ることもあるので、必ずしもメリットとは言えない部分がありますが、インフレリスクに対応できる可能性があります。
一時金で受け取ってしまうと使い過ぎたり、計画的に使えなかったりすることもあるので、年金形式で受け取る方が管理しやすい面もあるでしょう。一部は一時金で残りは年金といった組み合わせもできるので、自分に合った方法を選択してみてください。
■65歳以上の支出は夫婦で22万4436円、単身で13万2476円
総務省の家計調査から、老後の生活費を見てみましょう。65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出は22万4436円、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は13万2476円でした。
ここまでの説明を踏まえ、『年収500万円、iDeCoで月1万5000円積立、退職金2000万円の会社員』が65歳からどのような生活を送ることになるか考えてみましょう。
実収入は公的年金が192万4000円(月額16万333円)とiDeCoを65歳から10年間年金受取した場合の74万円(月額6万1666円)を足して、月額約22万2000円とします。税金と社会保険料を収入の13%と見積もると、可処分所得は19万3140円となります。
この会社員が単身者なら、生活費を13万2476円として、約6万円収支がプラスになります。
iDeCoの年金受取が終了したあとの75歳からは、公的年金の192万4000円(月額16万333円)だけとなるので、可処分所得を88%とすると約14万円となり、生活費を引くと残りは8000円程度になってしまいます。
つまり、公的年金だけでは生活がぎりぎりとなり、これ以上の出費があった場合は貯蓄に頼ることになります。ただ、貯蓄は退職金の2000万円があります。何か大きな出費がない限りは、収支はマイナスにならないので、貯蓄を取り崩さずに生活ができるでしょう。
■介護施設に入居したらどうなる?
ここまで見てきて、老後の生活に余裕があると感じたかもしれません。しかし、状況によっては収支は大きく変わってきます。たとえば、介護施設に入居することになったらどうでしょうか。
特別養護老人ホームなどの公的施設であれば、入居一時金もなく費用も月額5~15万円程度で済みますが、要介護認定などの条件が厳しく、また入居希望者も多いため、現実問題として入居が難しくなっています。そのため民間の有料老人ホームを利用するケースが出てきます。
有料老人ホームは主に介護が必要な人向けなので、費用は高くなっています。サービス付き高齢者向け住宅は自立した高齢者向けとなります。料金は地域の賃料が影響するため、都市部になるほど費用が高くなります。中には、入居時の費用が数千万円から数億円という富裕層向けの施設もあります。民間の施設に入るには年金だけでは厳しいものがあり、まとまった老後資金が必要となるでしょう。
■まとめ: 単身者であれば余裕のある生活、介護施設入居のためには老後資金作りを
年収500万円、iDeCoを月1万5000円積立、退職金2000万円の会社員の老後生活は、単身者の場合、公的年金とiDeCoによって6万円ほどプラス(10年受取)にできます。退職金2000万円は、平均値としての生活費で生涯暮らせる場合は取り崩すことなく生活できるので、想定外の出費のために使う資金にできるでしょう。
可能性として高いのは、民間の介護施設に入居するための費用として充てるケースです。このように、基本は年金だけで生活できる基盤を作り、まとまった老後資金はいざという時にために使うような生活設計ができれば老後生活を安心して送ることができるでしょう。