YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】

第9弾は「若手制作者編」で、深夜バラエティゾーン「バラバラ大作戦」で『ホリケンのみんなともだち』『イワクラと吉住の番組』の2番組を手がけるテレビ朝日入社7年目の小山テリハ氏と、架空の国の架空の言語・ネラワリ語によって繰り広げられる『Raiken Nippon Hair』で「テレビ東京若手映像グランプリ2022」を制し、『島崎和歌子の悩みにカンパイ』『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』を手がけたテレ東入社4年目の大森時生氏が登場。『今夜はナゾトレ』『新しいカギ』などを手がけるフジテレビ入社19年目の木月洋介氏をモデレーターに、全4回シリーズでお届けする。

第1回は、大森氏が架空言語「ネラワリ語」で展開されるという奇抜な番組を実現できた背景や、制作の裏側に迫る。収録現場が不穏な空気になった理由とは――。

  • ネラワリ番組『マネーのトカゲ』より (C)テレビ東京

    ネラワリ番組『マネーのトカゲ』より(5月26日までTVer配信中) (C)テレビ東京

■「よく分からんないけど、何も言えないルールだからどうぞ」

木月:大森さんとは、今回がはじめましてですね。

小山:私も初めてです。

木月:「若手映像グランプリ」で「ネラワリ語」を見て、もうびっくりしました(笑)。斬新すぎて。で、やっぱり優勝されたから。

大森:ありがとうございます。

木月:あれは竹村(武司、放送作家)さんとやられてますよね。

大森:はい。竹村さんとは去年の年末にやった『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』(BSテレ東)という特番が初めてで、僕にとって初めて通った企画なんですけど、竹村さんのことはいろいろ存じ上げていたので、一緒にやりたいなと思って、野面でお声がけさせてもらったんです。そこから、「若手映像グランプリ」も竹村さんとやりたいと思って、またお声がけしました。

放送作家の竹村武司氏

木月:竹村さんぽい番組ですよね。僕も若手の実験的企画を深夜で試す『テレビ特区』という特番を以前一緒に作っていました。『Raiken Nippon Hair』は、どのようにしてできたのですか?

大森:最初は、「ワタナベタウン語」という架空の言語を作った坂本小見山さんのYouTubeを見て、大学で言語学の授業を受けていたのもあって、架空の言語という概念が興味深いなと思ってたんです。でも、それを番組の企画書にどう落とし込むかが分からなくて。このまま編成に出しても時間の無駄になっちゃいそうだなと思ってたんですけど、若手映像グランプリは企画書を見ないという取り組みだったんです。体としては出すんですけど、公序良俗に思い切り引っかからない限り、NGを出すことは絶対にないと言われていて、ネラワリ語の企画を出したら「よく分かんないけど、今回は何も言えないルールだからどうぞ」みたいな感じでできたという感じです。

木月:企画書見ないで番組を作らせてくれるって、実はすごく大事なことなんですよ。もちろん企画書でジャッジされることが普通だし、それもものすごく大事なんですが、企画書に起こせない先鋭的な番組を生むチャンスを失う面もあるので。

――『ポツンと一軒家』(ABCテレビ)も、前身の番組でとりあえず撮ってみたのを流したらヒットになったという話ですよね。

木月:プレビュー(スタッフ試写)で流したら面白いとなったという事例ですね。

大森:そうですね。通常のシステムだったら、確実にこの企画が放送されることはなかったと思います。

小山:企画書を見ないからできるというのは、すごく納得しました。テレ朝のトライアルだと、上の時間帯に上がれるかとか、将来性まで見られるので、なかなかあれはできないなと思って、テレ東さんっていいなと思いました(笑)。テレ東さんって、皆さん自由度が高いというイメージがあるじゃないですか。それが本当なんだなと思いましたね。うちだと編成に出す前に、班の中で止められるんじゃないかって思っちゃいます。

木月:普通は「何それ、よく分かんないよ」ってなりますよね。

小山:そういう企画にスタッフの皆さんがついてきてくれるために、どうやられたのかが気になります。

大森:僕が「分からない」ことを面白いと思っている人間だということは、スタッフにしっかりと最初に示しました。また、竹村さんというのは重要な存在でした。あまりにも実績が多い方なので、竹村さんがいることの担保ってテレビ界では結構強いんですよね。僕が単体で「こういうことをやると面白い気がするんですよ」と言ってもチームとしてはなかなか成立しづらいなと思っていたので、竹村さんと事前にしっかり話し込んで、「竹村さんと大森の間では、ある程度見えてるっぽい」という雰囲気を演出してました(笑)

木月:フジテレビの原田和実くんの『ここにタイトルを入力』も竹村さんと作っている番組ですね。でもこういう『Raiken Nippon Hair』のような企画は、通ってからの実現化がとても腕が要る作業だなと思いました。

大森:分からない言語ということが前提にあったので、どう見せるのが一番面白いのかなというのは、悩んだ点ではありますね。

木月:でも、表現の仕方が素晴らしいなと思いました。地上波放送では『¥マネーの虎』(日本テレビ)をモチーフにするなど見事でした。言語が分からなくても面白さが伝わるという意味で。

大森:そうですね。擦られて知られているタイプのバラエティじゃないとどうしても伝わらないというのと、イラストを見て一瞬で何となくあのことを話してるんだろうなって分かる芸能ネタとかじゃないと成立しないなというのを、作っていく中で思いました。最初に竹村さんと話しているときは、「本当に全部分からなくても面白いんじゃないか」という考えもあったんですけど、「ほとんど分からない中に急に意味が分かる瞬間があることが面白い」と思うようになり、方向を変えていったという感じです。

木月:竹村さん、「全部分からなくても面白い」って言いそう(笑)

■日本語に同時翻訳するスタッフを配置

木月:外国人の方は、エキストラ会社の方ですか?

大森:はい、皆さんそうですね。

木月:それなのに、あんな自然な演技ができるんですね。

大森:実はスタジオの360°にカンペを出して、どこにいてもネラワリ語の読み方が目に入るようにしているだけで、実際は何も意味が分からず読んでるっていう感じなんです。

木月:それでも、読んでるだけに見えないからすごいなと思いました。

大森:何回も収録を止めて、クイズ番組のときは「次はあなたが正解する番です」とか、マネーの虎のときは「次は賞金をゲットして喜ぶところです」ということだけを伝えて、そのくだりをやっていくというのを細かく繰り返してやってました。

木月:ある種ドラマ撮りのような。

大森:そうですね。でも、カット割りしちゃうとどうしてもドラマっぽくなるので、スタジオの全カメラを回し続けて、収録の臨場感やグルーヴ感が出るようにしました。だから、収録自体も本当にカロリーが高いものになりましたね。

木月:(収録時間は)どれくらい回したんですか?

大森:放送尺の4~5倍くらいですね。全員がやったことのないパターンの収録なので、技術さんも「どこでスイッチングすればいいのか分かんないよ!」ってややキレてるみたいな、不穏な現場になりました(笑)

木月:そりゃ「分かんないよ!」ってなりますよね(笑)

大森:一応、リアルタイムで日本語に同時翻訳してもらうスタッフを置いて、それを全員のインカムに流してはいたんですけど。

木月:同時翻訳って(笑)

大森:それでも全然分かんないから、「ノリでスイッチングするわ」みたいな感じになってました(笑)

  • (C)テレビ東京

木月:画質を荒くさせるのも、すごく工夫されてるなと思いました。クロマキー合成も、あの画質のおかげでチープに見えないんですよね。

大森:普通に荒くすると偽物っぽく見えちゃうので、フレームレートを落とすというやり方をしました。

木月:それは以前にやったことがあるんですか?

大森:なかったので、編集所の方と何回か打ち合わせして、いろいろ教えてもらいながら試行錯誤しました。画の見せ方にはこだわりたいタイプなので、そこには時間をかけましたね。画角も過去の日本の4:3ではなく、4.5:3にすることで違和感・気持ち悪さを演出しました。