全日本空輸(ANA)は5月24日、スマートフォンを活用した新サービスモデル「ANA Smart Travel」を発表した。旅の始まりから終わりまでをワンストップでサポートし、スムーズな利用体験の実現を目指す。
予約から搭乗まで、デジタル化でスムーズな旅を
コロナ禍からの需要回復に向けて、非対面・非接触というニュースタンダードへの対応や、多くの人々が旅行から離れている間に進んだデジタル化への対応など、時代のニーズに合ったサービスモデルへと刷新する。
オンライン予約、オンラインチェックインなどといった個々の機能はすでに提供しているものもあるが、旅の準備から航空機への搭乗後まで、多岐にわたるサービスをひとつにまとめた。まずはANA Smart Travelで将来的に実現される新しい旅の流れを、順を追って見てみよう。
「ANA Smart Travel」のある旅の流れ
ANA Smart Travelで提供されるサービスは、旅の準備段階から始まる。航空券のオンライン予約・購入はもちろんのこと、国際線の場合、渡航書類の登録や超過料金の確認・支払いも事前に済ませて当日の手続きを省ける。また、シェフによる紹介動画を見ながら機内食もあらかじめ注文できる。
ANAアプリ内の「旅のしおり」という機能を使えば、気になる観光スポットやレストランなどの下調べした情報をまとめて、タイムスケジュールを組める。将来的には予約サイトの機能を拡充し、旅のテーマだけがぼんやりと思い浮かんでいる状態からでも旅行プランの提案を受けられるようになる。
そして旅行当日、空港に向かう段階からANA Smart Travelの「空港アクセスナビ」という機能が活躍する。出張などで飛行機に乗り慣れている人でない限り、空港に行くこと自体があまり日常的ではなく、不安な人も少なくないだろう。空港アクセスナビでは自宅から空港までのルート案内に加えて、保安検査場を通過するタイムリミットや搭乗口に着くべき時間も教えてくれる。
また、出発時刻の24時間前からANAアプリで利用できる「オンラインチェックイン」も忘れずに済ませておきたい。アプリ上でチェックインの操作が済んでいれば、空港で窓口や自動チェックイン機に並ぶ必要はなく、密を避けながらスムーズに搭乗できる。搭乗時には紙の券ではなく、同じくアプリで表示できるモバイル搭乗券(QRコード)を使う。
空港で搭乗を待つ間にも、ANAアプリを通じたさまざまなサポートを受けられる。ラウンジや保安検査場の混雑状況、搭乗口の変更、搭乗開始のお知らせなど、必要な時に必要な情報が届き、空港内で右往左往する必要はなくなる。
機内エンターテイメントとして提供される映画や雑誌(機内誌)も、2021年からANAアプリで観られるようになっている。実は搭乗中に限らず、出発予定時刻の24時間前から到着予定時刻の24時間後まで閲覧できるので、空港での待ち時間に読んで旅行気分を高めるのも良いだろう。
2023年度中に自動チェックイン機廃止へ、有人サービスの質は引き続き重視
一連の流れでANA Smart Travelの機能を紹介したが、旅慣れた方ならすでに知っている、利用したことがあるものも多いだろう。オンラインチェックインをはじめとしてデジタル化には数年前から取り組まれているが、周知不足などであまり利用が進んでいない部分もあるという。既存のサービスも含めて整理されたことで、旅の始まりから終わりまで実はこれだけのことがスマホ1台で済みますよ、とあらためて可視化された格好だ。
オンラインチェックインの利用を促し、2023年度中には国内の全空港から国内線用の自動チェックイン機を撤去する。現状の設置台数は51空港で437台に上る。
改革を進める一方で、あくまで全面的なデジタル化やコスト削減を目的とする取り組みではなく、時代に合った利用者のニーズに応えていくことで満足度を高めることが最大の狙いだとANAの井上社長は強調する。
デジタル化によって少なからず省力化の効果は出て、人的リソースに余裕が生じると思われるが、その余力は有人サービスとして残る部分の質の向上などに充てる。デジタル化は時代の流れに沿ってあらゆる航空会社が取り組む前提条件でしかなく、最終的に差別化できるポイントは対人サービスとしてのホスピタリティであることに変わりはないという考えを示した。
非接触サービスとホスピタリティの高い有人サービスを両立するためのアプローチも考えられており、国内線ターミナルでは「アバター」と呼ぶ画面の付いた移動型ロボットの導入を計画。中身はAIではなく、豊富なノウハウと知識を持つスタッフによる遠隔対応となる。カウンター付近で困っていそうな利用者への案内など、コロナ禍で難しくなった積極的な声かけ対応を行えるツールとする。
また、デジタル化によって特に乗客の負担を減らせる部分だとして、井上社長はイレギュラー発生時の対応を挙げた。到着遅延による出発時刻や搭乗口の変更のような軽めのものから大幅遅延や欠航のような旅の予定を大きく乱すものまで、アプリの通知で速やかに状況を把握できる。
振替便の案内もアプリ経由で行われるため、予約変更で混雑する列に並ぶ必要もない。さらに、従来は郵送対応となっていた欠航時の補償手続きも2023年度にはスマートフォンで済むようになる。
デジタル化以外の面でも現代的なニーズに合ったサービス
井上社長は記者らに対して、航空需要が冷え込んだ2年間、今の時代に利用者に喜ばれるサービスを社員・役員全員で考え話し合った結論が「ANA Smart Travel」だとも語り、ANAの今後を占う新サービスモデルへの本気度をうかがわせた。
ANA Smart Travelに含まれるサービスたちに目を通すと、デジタル化という主軸のほかにも、非常に今らしい世相を反映した背景を読み取れる。
たとえば機内誌は、電子版の配信と同時に紙媒体は廃止されており、見慣れた機内の風景も少し変わった。大量の雑誌を積載しないことは機体の軽量化と燃費向上につながり、紙資源の節約と同時にCO2排出量削減の取り組みでもある。
また、機内食の事前オーダーは現状よりもう一歩踏み込んだ機能が計画されており、国際線では2022年度中、国内線でも将来的には「機内食不要」のオーダーができるようになる。出発前(積込前)に機内食を求めない乗客の人数があらかじめ分かっていれば、フードロスの削減にもなるだろう。デジタル化や非対面・非接触という要求に加え、多角的なSDGsへの貢献も意識したサービスモデルといえる。